2010年度森基金研究者育成費研究成果報告書
安心と収益性を両立した参加型保育所モデルの有効性
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科
ネットワークコミュニティ所属
中村美穂
81025141
1. 概要
参加型保育園の有効性を検証するにあたり、事前調査として藤沢市在住の待機児童を持つ保護者を中心とした意見交換会「子育ておしゃべり会」を合計三回開催した。その結果、保護者目線からの参加型保育園の可能性や課題点を洗い出すことができ、次の研究課題に繋げることができた。
2. 目的
本会の実施目的は、下記の通りである。
@
待機児童問題への関心の把握
藤沢市の待機児童問題に関して保護者の視点を把握する。
1.
認可保育園と認可外保育園、保育ママのイメージ
2.
密室育児の現状
3.
子育て支援センターの活用の有無
A
「参加型保育園」のあり方と利用可能性に関するヒアリング
利用者のニーズに対応した園運営を設計できるよう、「参加型保育園」について保護者たちの率直な反応を調査するとともに、ニーズや希望を聴く。
1.
コンセプト、仕組みの受容有無
2.
保護者視点から
・重点質問項目:上限保育料、希望時間帯、預ける際のチェック項目
3.
パートナースタッフの視点から
・重点質問項目:週1回6時間働くことへの反応、働く時間帯
4.
子ども視点から
・重点質問項目:給食とお弁当、異年齢保育
B
ネットワーク作り
今後も継続して、参加型保育園の調査・研究活動にご協力いただける方を募る。
3. 実施主体
・主催:慶應義塾大学金子郁容研究室「参加型保育園プロジェクト」(政策・メディア研究科修士課程一年 中村美穂、環境情報学部四年 大木洵人、総合政策学部三年 大坂里菜、環境情報学部三年 佐久間美希)
・後援(敬称略):NPO法人地域魅力(進行のコーディネートを引き受けてくださいました。)藤沢市生涯学習人材バンク登録団体子育てじゃんけんぽん(託児を引き受けてくださいました。)
・協力(敬称略):藤沢市子育て支援課、秘書課(会場取り、広報チラシ配布を手伝ってくださいました。)
4. 実施概要
各回における実施詳細は、下記の通りである。
実施回 |
日時 |
場所 |
実施内容 |
第一回 |
2010/03/28
10:00-12:00 |
藤沢市六会公民館 第一談話室 |
・待機児童問題の実態インタビュー ・参加型保育園の概要説明(別紙1参照) |
第二回 |
201004/24 10:00-12:00 |
藤沢市村岡公民館 第一談話室 |
・参加型保育園の魅力、不安点、改善点等のインタビュー(別紙2参照) |
第三回 |
2010/05/16
10:30-12:30 |
藤沢市湘南台公民館 第四談話室 |
・保護者の学習プログラムの事例説明 ・参加型保育園に応用したいプログラム要素のインタビュー(別紙3参照) |
1. 本会の議論内容
第一回では、実際に当事者である待機児童の保護者に対して、待機児童となって具体的に困っている事や要望を伺い、実態を把握した。そして、第二回では、参加型保育園モデルに対し、保護者として、実際に預けてみたいかどうか、もし現状で預けたくないとすれば、どういった点をどのように改善すればよいか議論を行った。最後に、第三回では、第二回のメイン議題となった「参画する保護者の一定の価値観や能力の担保」に有効とされる、保護者向けの学習プログラムの先行事例を紹介しながら、実際に、そのプログラムに携わってみたいかどうか、保護者の目線からの検証を行った。
2. 本会から得られた知見・反省点
本会は、保護者視点のより深い“本音”を引き出すため、少人数による複数回実施を行った。そのため、本会から得られた情報は汎用性に欠けるが、自分自身が今まで気付かなかった、保護者からの視点を養うことが出来た。パート層の保護者を中心として、パートナースタッフとしての保育所運営参画へ前向きな意見が得られたが、「自分自身の子育てによって、他のお母さんや子どもの気分を害してしまわないか」というのが、参加者共通の懸念事項であることが分かった。また、その課題を克服するための学習プログラムへの参加に対しても前向きであることが分かった。
また、本会の運営に関する反省点は次の通りである。まずは、第一回開催時に、“待機児童”をメインテーマとして打ち出してしまったため、愚痴の言い合いとなってしまい、建設的な議論に発展させにくかったので、会の設計をより工夫すべきであった。また、当然のことではあるが、保護者の率直な意見を伺うためには、各回に必ずアイスブレーキングタイムを設けること、また、複数回話し合う中で信頼関係を醸成していくことが不可欠であると改めて痛感した。
3. 今後の展望
本会の議論を通して、参加型保育園に対する、保護者目線からの具体的な強みや課題を洗い出すことができた。今後は、今回得られた仮説の検証を行っていきたい。具体的には、より待機児童が深刻な都市部のエリアにおける質問紙調査や保護者の参画を導入している施設等へのインタビュー調査を予定している。下記は、その調査設計案である。
保護者の参画・協働運営を行う保育所の効果と課題
―横浜市・川崎市保育所における保護者・ボランティアの参画状況に関する実態調査アンケートの実施―
1. RQ
既存の制度の枠組みにおいて、潜在待機児童層の保育受け皿を確保できるか。
2. 仮説
保護者が保育所運営に参画すれば「1. 施設の経済的自立性が高まる。」かつ「2.
利用者満足度が高まる。」
Ø 仮説1と仮説2が実証されれば、収益性を担保しながら、利用者満足度の高い保育所運営が可能となり、普及可能性が高まる。
⇒潜在待機児童層の保育受け皿を確保できると考えられる。
3. 背景
•
潜在待機児童が全国に100万人存在し、その多くがパート層である。
•
本人の希望で専業主婦/フルタイムから、パート層への移行を希望する者が多い。
•
パート層は、認可保育所の入所優先度が低く、経済的余裕が低く、子育て不安指数が最も高い。
Ø パート層の保育受け皿確保と子育て不安の解消が求められている。
4. 研究対象
•
待機児童数が多い。
•
データセットの単位同質性(制度、利用者属性)、単位内の特徴が担保されている。
•
従属変数に散らばりがある。
Ø 横浜市(全18区)、川崎市(全5区)の抽出。
5. 研究手法
u 目的:参加導入率と待機児童率、施設別割合、自主保育数の関係性を調べる。
(仮説:認可保育所よりも、認定保育所の方が保護者の参加が盛んである。)
u 対象:横浜市、川崎市の全ての保育施設1,132施設
u 手法:施設長への質問紙調査
•
保護者の参加導入有無、参加頻度、雇用形態
•
補助金利用有無
•
近隣エリアの自主保育団体の紹介願
u
【施設特徴】参加導入率が高い保育施設群と低い保育施設群の比較調査
u 目的:参加導入率と利用者形態、利用者満足度の関係性を調べる。
(仮説:参加有り施設の方が、保護者の満足度が高い/子育て不安が低い。)
u 対象:同一区内
u 手法:施設長、利用者へ質問紙調査、インタビュー調査
•
利用者の雇用形態:専業主婦、パート、フルタイム
•
経済的自立性:補助金利用有無、財務状況
•
利用者の満足度:参画動機、団体への満足度、他者への信頼指数、子育て不安指数
•
新規参入率:過去五年間における新規参入者、辞退者数