2010年度森泰吉郎記念研究振興基金研究活動報告書
政策・メディア研究科 修士1年 武藤 奈穂
研究課題名:
発展途上国における望ましい児童学習空間に関する研究
研究の概要:
現在世界中で発展途上国における就学率向上のための学校建設プロジェクトが多数展開されている。途上国の中には依然として教育施設が不足し、教育を受けたくとも通う学校のないこどもが多数存在する。途上国の状況に見合った学習環境を提供するためには、各々の国の気候環境・文化・経済状況等に則した手法にて整備支援を行う必要性がある。
本研究では、途上国において実際に進められている学校建設現場を対象として、現地の環境や背景に見合った望ましい児童学習空間とはどうあるべきか、主に児童の行動と、光環境や温湿度環境などの環境工学的な数値との関係性をもとに考察しようとするものである。
具体的には2008年度より松原研究室で進めているコンゴ民主共和国での小学校建設プロジェクトにおいて、新校舎の設計、施工および調査を行い、さらにそれを他の事例と比較分析することにより、途上国の児童にとって望ましい学習空間にあるべき快適さとは何かを明らかにする。
2010年度の研究活動 2010年8月24日から9月8日にかけて、アフリカ西部のコンゴ民主共和国へと渡航し、首都キンシャサ郊外のキンボンドにおいて、松原弘典研究室において取り組んでいるAcadeX小学校の2棟目教室の施工を行った。その際、本研究の一環として、以下の内容の調査を行った。
1. 環境調査 マルチ環境計測器を使用し、1棟目教室および2棟目教室、そして小学校周辺の住居または教会、人々が集う木陰等における気温(室温)・湿度・風速・照度の測定を行った。
2. 周辺建築物機能調査 対象敷地の周辺建築物において、室内環境の快適化に貢献している設備機能または窓や屋根等の形状を調査し、現地の環境で快適さを維持するための分析の材料とした。
調査結果およびその考察 調査の結果、現地において乾季の日中は、建物室内よりも屋外の日陰の方がより快適性が高く、住民もその多くは木陰などに椅子を出して過ごしていた。これは、赤道に近く、日中の太陽高度の高い当国においては、頭上からの日射を防ぐことがまず重要であることに関係することも考えられる。また、周辺の住居は金属製波板(トタン波板)によって屋根または壁までも構成されている例が多々見受けられ、波板によって比較的密閉された室内は熱がこもり、暑くなっている可能性がある。それゆえ、人々は風通しの良く、日射を防ぎつつも適度な照度を得られる”木陰”に快適性を見出しているのではないかということが考察できる。
今後の展望 上記の調査および考察により、現時点で現地の人々は日中室内よりも屋外の木陰に快適性を感じ、そこで過ごしていることが明らかとなった。現地の建築物室内の空間、さらには児童が学習を行う空間を望ましい快適性が得られるようにするためには、この木陰等の環境条件をそのまま適用するのでは十分とは言えない。対象地は比較的乾燥した(乾季のみ)砂地であり、単に風通しの良い建築を建設しても、砂の被害などメンテナンスに支障が出てしまう。実際に周辺の建築物にも砂を防ぎつつ乾季をおこなう設備(上の図参照)も見られた。今後は、このような現地特有の問題点を再び洗い出し、今回の調査を踏まえて新たな快適性の追求を行う予定である。また、他の事例の調査や、今年度は小学校の授業期間の関係であまり調査を行うことができなかった児童のアクティビティー調査等も行う必要がある。
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