ダンスによる企業の自律組織の

形成促進に関する研究

 

 

 

 

 

 

 

 

政策・メディア研究科 修士課程1年 PS

石川さやか

 

 

 

 

1.活動背景

 近年、企業の職場風土を取り巻く環境が大きく変化してきている。

 かつては、同じ価値観を持った男性の正社員が中心となって、活発にコミュニケーションを取りながら手作業をチームで分担して、トライ・アンド・エラーを繰り返しつつ、和気藹々と取り組んでいた時代があった。

 しかしながら、最近では、女性や外国人、非正規労働者といった多様なプレイヤーが関わるようになった為価値観が多様化し、IT化によって個人完結型の仕事が増えてPCに向かって黙々と作業する時間が増えた。更に、失敗せずにスピーディに仕事をこなすことが求められるため、怒られることはあっても、ほとんど褒められないという現状がある。

 その結果、コミュニケーション不足でチームワークが悪い、成功体験を積めずに達成感やチャレンジ精神を持てない、ひとりで問題を抱え込んでしまった結果メンタルヘルスを崩してしまうといったことが、会社の生産性を低めてしまうという問題がある。

 これらを引き起こしている職場環境変化の流れはとめようがないが、社員が目標に向かって一緒になって踊ることで職場の絆を深めるという新たなソリューションが提案されている。

 

2.活動の目的

 本研究には、主に以下の二つの目的がある

@  評価手法開発およびデータ取り…企業の社員活性化促進にダンスが有効であるということを説得力をもって伝えるためにはどのような評価手法が適切なのかを視野に入れつつ、それに必要なアンケート調査項目を検討する。

 

A  ダンスプログラムの開発…参加する社員の負担を極力減らしつつも、効果を最大限に引き出すためにはどのような手順でプログラムを進めればよいかを常に念頭に置き、今後、様々な会社で本プログラムを展開していけるようパッケージ化を検討する。

 

3.活動概要

本年度において、本研究では、以下の2つの活動を実施した。

@A社におけるフィールドワーク実施

A社概要

 メーカー

 所在地 岐阜県大垣市

 従業員数 342名

 

 A社では、例年、地元のお祭りに参加している。そのお祭りでは、企業神輿という参加部門があり、複数の企業がお神輿を担いで行列するスタイルをとっている。A社も、毎年、お神輿+行列をして参加していたが、今年はお神輿+踊りという初の取り組みにチャレンジした。

 

AYoung Americans参加

 実際に企業研修にも取り入れられているYoung Americansに参加し、プログラム内容を把握し、今後のプログラム開発の参考とした。

4.フィールドワーク活動体制

(1)全体リーダー

 私と連携して活動の中核を担った、職場の若手リーダー達。 部署練習では前に立って指導役を果たし、職場の先頭に立って活動の原動力となった。

(2)各部署リーダー

全体リーダーの補佐として、各職場から選出されたリーダー達。部署単位で取り組んだ、「振付ネタ収集」「アンケート」などにおいて、全体をまとめて引っ張った。

(3)職場メンバー

社長、管理部、リーダー達らによる呼びかけによって、自主参加したメンバー達。結果的には158人が参加し、過去最高の参加人数を動員することが出来た。

また、指導教官の指導のもと、私が中心となってプロジェクトの企画・運営をリードし、練習および本番の運営にあたっては、管理部と緊密に連携をとりあって円滑なプロジェクト遂行を実現した。

 その他、一部従業員の家族も、Youtube練習を経て本番に参加した。

 

 

5.フィールドワーク活動内容

(1)キックオフ会

 全体リーダー、部署リーダーとの顔合わせ会。過去の取り組み事例を映像で紹介するとともに、具体的な活動内容と活動スケジュール、成功のための活動ポイントなどを説明した。

 

 

(2)振付ネタ

 各部署よりいくつかのお題に沿って動きを考案してもらった。

また、各部署から出された振付ネタ案をYoutubeで共有し、社内の話題づくりを行った。

 

(3)振付創作

 上記振付ネタをもとに、各部署最低ひとつは提案を採用して、私が振付を創作した。

 

(4)リーダー練習

 全体リーダーおよび、部署リーダーを対象として、振付の指導および、職場のメンバーに指導する際のポイントを伝授した。

 

(5)部署練習

 全体リーダーおよび部署リーダーが中心となって指導をした。職場のメンバーは就業後30分、週3回(火・水・木)のうち都合の良い時に参加し、7週間の練習をつむことによって、全員が振付を覚える練習をした。毎回の練習における平均参加人数は、本社工場20人、大垣工場50人であった。また、練習後には毎回「閉眼片足立ち」の測定を実施し、身体バランスの変化を測定した。この時に配布した資料は添付資料B振付カンニングペーパー、添付資料C十万石祭りの練習に向けてに記す。

 

(6)全体練習

 お祭り参加者総勢約150人が一堂に会して、全員で練習した。ここでは、最終的な振付練習に加えて、配置確認や、小道具(お神輿、のぼり、大小うちわ、まとい)の動き確認、歩行しながら踊る練習、声だし練習なども行った。

 

(7)Youtube練習

 公式練習だけでは不安があるという人向けに、自宅などでも補足的に練習できるようにYoutubeに見本映像をアップした。

 

(8)社内報 号外発行

 管理部が隔週で発行している社内報の号外で十万石祭り踊りプロジェクトを取り上げ、社内の話題づくりを実施した。

 私も記事を提供して、紙面作成に協力した。

 

(9)本番

 心配された天気も、みんなの「ここまで練習したのだから、踊りたい」という願いが届いたのか、無事に晴れ、踊りを披露することが出来た。大垣駅前の大通りを、複数の企業がパレードをする中に混じって踊りを披露し、見事、練習の成果が発揮された。

                       

(10)アンケート実施

 プログラムの前後で、踊りに対するイメージや、職場の人間関係や雰囲気に関するアンケート調査を実施し、効果を測定した。

 

 

 

 

 

6.結果

(1)評価手法開発およびデータ取り

 企業の活性化を測定する手法として、厚生労働省が定める「職業性ストレス簡易調査票」を用いた。この指標はもともとメンタルヘルスの改善に主眼を置いて10年前に開発されたものであるが、近年の職場のニーズ変化に伴ってソーシャルキャピタルや創造性の発揮といった、本活動の狙いでもある、よりポジティブな要素を測定する指標へと改善される見込みである。今回の活動においては改良版の完成を待たずにアンケート調査をする必要があった。そのため、従来の質問項目に加えて、追加される候補に挙がっている項目の中から、本活動の影響を測定するのにふさわしいと判断した項目をあわせて、アンケート質問票の骨子とした。更に、踊りに対するイメージや、運動習慣、プログラムに対する要望や感想などを加えて、最終的な評価ツールとした。

 データ取りに関しては、プログラムに参加した人と参加しなかった人あわせて約300人から、プログラムの前後における回答を回収できた。修士課程2年の間に詳細を解析していく予定である。

 

(2) ダンスプログラムの開発

当初、自主参加でどれだけの人が集まるかは不安だったが、結果的には週に1回、終業後30分という手軽さも手伝って、社員の約半数もの人が参加するに至った。中には、「職場の仲間から、楽しいと聞いたので参加したくなった」という声もあった。

今回は私が全ての練習を仕切るのではなく、部署から選出されたリーダー達だけに教えて、彼らが各職場で指導するというスタイルをとった。これによって、踊りの理解度が低下したり、盛り上がりにかける、楽しく練習できない、などの弊害が懸念されたが、結果的には大成功を収めることができた。その要因としては、リーダー達が納得するまで練習を実施したこと、そして練習に対する心構え(正しさより、楽しさ)を、事前に共有出来たことが大きかった。

一方で、リーダー達が抱える負担を、いかに減らすかという課題も明確化された。リーダー達は本業の仕事の合間時間でこれに取り組んでおり、極力時間を割かずにできることが望ましい。しかし、今回は初めての事が多く、トライ・アンド・エラーを繰り返す中で模索しながら進めてきたため、余分に時間がかかってしまったことも事実である。これを改善するためには、まず、リーダー間での参加意識を平均的に高めることが重要である。リーダーの中には、選出されたものの先頭に立って引っ張るには至らず、指示待ちの姿勢になってしまうものもあった。そのため、リーダー全員が同じ視点から一丸となって取り組む環境作りが大切である。また、全体リーダーが実施していた中でも、部署リーダーに委任できるものも多かったため、業務の平準化も今後の見直しのポイントであるということが明らかにできた。

また、今回参加できなかった人の中には、身体に故障を抱えており負荷をかけられないといった人もいた。Young Americansでは、ダンスに加えて、歌や演劇のパートも作る事によって参加者の嗜好にあわせた参加スタイルをとることができる。本プログラムにおいても、例えば踊りが難しい人に対しては本番当日に昇りを持つ役割を与えるなどの選択肢を与えることによって、より広範のメンバーを動員し、社内の一体感を高めることが可能となる。