2010年度 森基金 研究成果報告書

 

small RNA–標的遺伝子の網羅的予測と可視化

 

政策・メディア研究科修士課程 先端生命科学プログラム

齊藤信登

 

 

要旨

シロイヌナズナでは206,077small RNAの塩基配列が確認されているが,そのうちの大部分の機能は未だに解明されていない.そこで,本研究はシロイヌナズナにおけるsmall RNAによる遺伝子発現制御ネットワークを俯瞰することを目的とした.まず、small RNAと標的の転写産物の結合様式について6つの数値を定義し,既知のデータを基にそれらの数値について全43,680の組み合わせの中から閾値として最適な組み合わせを決定することでsmall RNAの標的の転写産物の網羅的な予測手法を確立した.次に,それぞれの塩基長および発現プロファイルを考慮し,206,077配列の中から2,136配列のsmall RNAmiRNA/tasiRNA候補として抽出した.これらのsmall RNAについて39,640本のシロイヌナズナのcDNA配列の中から標的を予測した.その結果,既に実験的に証明された121small RNA–標的転写産物のペアに加えて,新規に1,086のペアを予測することができた.更に,予測結果をネットワークとして可視化することで,Pentatricopeptide repeat (PPR) 遺伝子群およびTAS遺伝子群および55small RNAを含むフィードバック制御を介した多段階制御ネットワークを発見することができた.この結果は従来知られていた低分子RNAによる制御系は大規模なパスウェイのごく一部に過ぎなかったことを示唆している.また,多くの転移因子が器官特異的に制御されており,特に数多くのgypsy-likeレトロトランスポゾンファミリーが花特異的に制御されていることを見いだすことができた.本研究は,シロイヌナズナにおける主要なmiRNAtasiRNAだけでなく,これまで機能未知であった数多くのsmall RNAについてその機能や制御パスウェイを提示した初めての例である.

      本研究を通して,植物におけるsmall RNAについての理解に大きく貢献できる有益な知見を得ることができた.そして,本研究の成果については国際学術論文誌の“RNA”に投稿中である.

 

キーワード:microRNAtrans–acting small interfering RNA,シロイヌナズナ,ネットワーク解析,ターゲット予測

 

学会発表

Nobuto Saito, Kosuke Fujishima, Kahori Takane, Masaru Tomita and Akio Kanai, Comprehensive prediction and visualization og gene regulation networks mediated by small RNAs in Arabidopsis thaliana, 33回日本分子生物学会年会 83回日本生化学会大会合同大会,2010,神戸ポートアイランド

 

論文投稿

Nobuto Saito, Kosuke Fujishima, Kahori Takane, Masaru Tomita and Akio Kanai. Comprehensive prediction and visualization of small RNA targets provide expanded view of organ-dependent regulatory networks in Arabidopsis thaliana. RNA (submitted)

 

注:国際学術論文誌への投稿中のため,詳細な内容の記載については控えさせていただきます.