2010816日(月) 10:00-10:50

 

話し手:

研究開発企画部門・技術ポートフォリオ開発部 部長

ソフトウェア設計本部・企画部  部長

ソフトウェア設計本部・企画部・ネットワークアプリケーション企画推進課 課長

S.K 学さん

 

聞き手:山口 祥弘

 

1.      背景

 以前の私の係長時代に、オープンスタンダードを標榜して、KN社との連携で、OSS的エッセンスをふんだんに入れ込んだ開発環境、FSKを引っ張っていた部長がS.Kさんです。一度、私はS.Kさんの考え方に共感し、部の異動をお願いしたことがあります。しかし、部同士の島意識的なものにぶつかり、結局異動は叶いませんでした。そのような経緯もあり、比較的心安く話をして頂ける部長の一人です。

 今回も、一番にメールを差し上げたのがS.Kさんです。8/6にインタビューの依頼を出したところ、その日のうちに返信があり、以下のような気易い雰囲気の返信でした。

いいですよ

いつがいいですか?

ま、固いこと言わずに、適当に質問してください

適当に答えます

秘書さんはアサインされていないのらしく、S.Kさんと直接、時間と場所を8/16(月)10:00-11:00、ビルにある会議室に調整しました。会議室は通常の業務で用いられる会議室で、20人は入れる12畳ほどの正方形の会議室で、長テーブルが8つロの時に並び、内側に向かって椅子が20以上配置されています。その中に二人だけでお話ししました。なお、一番最初のインタビューだったこともあり、このインタビュー結果を研究目的だけでなく、社内に公開する計画であることを伝え損ねていました。そのため、その後の社内ウェブ公開は、拒否されてしまいました。気易い関係であったが故に私の中に甘えがあったのかも知れません。手痛いインタビューでもありました。

 

2.      内容の概要

 会議室でお待ちしていると、他の会議室から別件の会議から出てきて、ニコニコ笑いながらいらっしゃいました。元々担当レベルと分け隔てなくお話しするスタイルのため、私もほとんど緊張はありません。何度か、共通に知っている女性と3人で呑みに連れて行ってもらったことがあります。そんな和やかな中で、私から、ご自身のセンスでイノベーティブだと思われる関わった製品の様子をざっくばらんに教えてください、と切り出しました。

 S.Kさんは、F.Mさん直属のR&Dスタッフとして活躍をされていたと言うことです。時代は1990年過ぎくらいで、インターネットがそのプレゼンスを上げて行く時代背景の中、ネットワーク応用について、その部署で事業戦略を6年余り描き続けていたとのことです。このままでは商品化できない、意を決して、ビデオカメラ事業部の中期計画、部長会など事業計画の場にて、S.Kさんの思うネットワーク戦略をプレジデント・スタッフとして発表し続けます。

 そんなS.Kさんをビヨンド社業役員 H.Aさんが意を汲みます。H.Aさんに拠ってネットワーク関連開発チームがH.Aさんが推薦するメンバー45人と発足となります。その様子は正に「遊軍」だったとS.Kさんは語ります。時代的にビデオカメラ・ビジネスが非常にうまく行っていたため、「直近のビジネスにならなくとも良い」と言うお墨付きをもらいます。その結果、新しい付加価値の検討を「自由に」「遊びながら」プロトタイピング検討できるチームとなったと言います。そこではブルートゥースの応用検討や、音声認識、ライフカメラ(ウェアラブル・カメラで生活風景を撮り続ける試み)、メーラー応用、ウェブ・ブラウザ応用の実験が行われました。

ビデオカメラの設計部隊は、ビジネスがうまく行っているだけに、そのプロセスがしっかりしています。その一方で、同じ勝ちパターンにだけ拘る姿に危機意識を持つエンジニアもおり、手弁当で開発に手伝ってくれるほどモチベーションは高かったと言います。そして、ビデオカメラ開発部隊の人が人を呼び、最終的には70人ぐらいの部隊、ネットワーク技術部となります。人が人を呼んだだけに、本当に好きな人が集まってきたようです。

S.Kさんは、当時を振り返り、当時のプレジデント新村さんからの全面的なネットワーク関連商品開発に関する権限委譲がこのチームの成り立ちに欠かせないと語っています。新村さんご自身は、ネットワーク技術には全く知見がなかったためこのような判断になったのかもしれない、と感想を述べられていました。

その後、S.KさんはVIP-1と言うネットワーク機能付き超小型ビデオカメラを1995年、世にリリースすることになりますが、それにはケント・プロジェクトの存在がけん引しているようです。当時ケント・プロジェクトこと、超小型ビデオテープの商品化について、事業部内では喧々諤々の議論が巻き起こっていました。超小型ビデオテープは、現在のビデオカセットの30%の大きさにした商品で、この商品化を強く推進していた部隊と合流、それまで温めていたネットワーク応用開発を、実機に入れ込み、VIP-1をリリースするに至ります。元々S.Kさんは、事業部での商品化経験がなかったため、超小型ビデオテープの部隊と合流したことは商品化に大きいと言います。

VIP-1と前後して、2000年にリリースされたサービス、インターフォト(200010月〜20096月)もまた、S.Kさんネットワーク遊軍のアウトプットです。ビヨンド社のウェブ・サービスと言いますと画像共有サービスであるところのImageStation20029月〜20081 月)が知られた存在ですが、インターフォトサービスはそれよりも2年早くリリースされています。このサービスもまた、遊軍メンバーが社内SNSを立ち上げて遊んでいたことがそのベースになっていたとのことです。「自由にやって良い」土壌と、低コストでローンチ出来たことが、リリースの成功要因であったとのことです。45名のチームで「できちゃった物」をベースで始めたものなのだそうです。

新規事業を起こすにあたり、最初に売り上げ○千億円目指すと言うわけではなく、低コストから進めるようなスタイルもありなのではないでしょうか。小さなプロトタイプのチームを作り、ppt書いている暇があったらプロトタイプ。アジャイルでプロトタイプさくさく。百万人の人向けアプリではなく、百人に受けるアプリを一万本。そういうのを目指したいとS.Kさんは感想を述べられていました。

その後、S.Kさんは、今でこそ当たり前に見える、Wireless HDD ビデオカメラの実現を目指し、30人規模の開発部隊を整備。デバイス以上にアプリケーションが重要、とコンサルを通じてアプリケーションの設定に尽力します。結果、「使い勝手」としてのコンセプトを集中するために、アプリケーションとして、共有機能にターゲットを置きました。それはYouTube的な機能だったと言えます。しかし、当時は全く理解をされず、残念ながら商品設計のステータスには移行できなかったとのことです。S.Kさんおっしゃるには、S.Kさん自身、商品設計の経験不足だったと当時を振り返ります。また、トップのコミットメントが難しく、YesなのかNoなのかがはっきりしなかった。H.Aさんのような旗振り役がおらず、人材は中途採用などでかき集めていたことも悪く影響したのではないか、と分析しています。

今後のイノベーションについて、新しい商品と言う「箱」が思いつかない昨今、アプリケーションをたくさんつくれる土壌が必要ではないか。エンジニアが面白くなるし、世の中にも響くイノベーションに繋がっていくのではないか、とS.Kさんはおっしゃいます。また、インキュベーションに特化された自由な組織と、トップの意思決定や商品設計との連結が、ビヨンド社のイノベーションには必須であろうとおっしゃいました。