2010年度森基金研究成果報告書
課題:外国につながる子どもを支援する、バイリンガル指導者養成プログラムの開発
氏名:崔 英善
所属:政策・メディア研究科 2年
■研究要旨
本研究では、外国につながる子どもへの支援の効果が上がらない一因が、指導者育成や指導法開発・普及といった、質的支援の不備にあるという問題意識が基になっている。神奈川県をフィールドとした、外国につながる子どもの指導者の実態調査を通して、学校現場での指導員の養成システムの不足と、ボランティアとは別に、一定の資格を備え、公教育機関で教えることができる専門指導員の必要性が浮き彫りになった。
専門指導員のあり方についての考察を進めるなかで、子どもの母語を介した指導者の重要性が確認できた。しかし、現在の子どもの母語のわかる指導者は非母語話者で、日本の公教育を受けていない人が多い。そのため、指導に不安を感じているにも関わらず、事前訓練やブラッシュアップのシステムが欠けている。
また、日本語指導や教育相談、学校や親との連絡など、多岐にわたる役割を担っているにも関わらず、専門指導員としての有効性の検証が遅れている。
これらの問題を解決するために、子どもの母語を介して、指導のできる人を「外国につながる子どものバイリンガル指導者」と定義し、その養成プログラムの開発を行った。このプログラムは神奈川県相模原市教育委員会等の協力のもとで施行され、バイリンガル指導者育成の一つのモデルとして、行政へシステムの導入を働きかけた。
本研究は、バイリンガル指導者養成に関する問題の発見から解決までの一連のプロセスを記録・分析したものである。本研究は、外国につながる子どものための政策関係者・支援者である行政や学校をはじめ、究極的には、子ども自身や子どもの親に役に立つものである。バイリンガル指導者の有効性のさらなる検証等は今後の課題とするが、外国人当事者性を持つ本研究は、外国人問題の解決は外国人自身の自助努力も必要であること示唆した点にも意義を求めたい。
■外国につながる子どもの専門指導員(以下、「専門指導員」)の概念整理
1.専門指導員の定義:
行政側から報酬を受け、学校現場で外国につながる子どもの指導を行う者。ボランティアとして学校現場で指導を行う人や、行政から対価を受け取るが、地域で指導をする人は専門指導員の対象に含まない。
2. 専門指導員の対象者
1)国際教室担当者
2)日本語指導講師
3)日本語協力者
4)多文化教育コーディネーター
5)在県日本語講師
■外国につながる子どものバイリンガル指導者(以下、「バイリンガル指導者」の育成の提案
1.バイリンガル指導者の定義
1)自分自身が日本語を含むバイリンガルである者
2)子どもの母語と日本語を駆使し、外国につながる子どもの指導が可能な者
3)子どもの母語・継承語指導ができる者
4)文化的に適切な教育ができる者
5)バイリンガル指導者としての訓練を受け、学校現場[1]で指導を行う専門指導員
6)労力と時間に対して、金銭的な対価を得る者(ボランティアを除外)
2.バイリンガル指導者の役割
1)
日本語指導
2)
教科指導
3)
教育相談
4)学校や親とのコーディネート
5)母語・母文化の継承支援
■バイリンガル指導者養成プログラムの開発
1.バイリンガル指導者養成プログラムの根幹となる「バイリンガル指導者養成講座」の作
成・開催
2.予算の確保:「文化庁平成22年度『生活者としての外国人』のための日本語教育事業」
に採択
■バイリンガル指導者養成講座の開催
1.講座概要
項目 |
区分 |
合計 |
|
開催期間 |
2010年6月〜9月 |
3ヶ月 |
|
開催日数 |
講義 |
8日 |
9日 |
実習 |
1日 |
||
時間数 (1日3時間) |
講義 |
24時間 |
26時間 |
実習 |
2時間 |
||
カリキュラム |
講義 |
17講義 |
18講義 |
実習 |
1回 |
||
受講者数 |
外国人 |
18名 |
24名 |
日本人 |
6名 |
||
講師 |
大学教授 |
7名 |
16名 |
行政機関 |
3名 |
||
実践者 |
6名 |
||
修了者 |
― |
― |
23名 |
2.運営体制
委員種類 |
所属 |
人数 |
運営委員 オブザ−バ− |
・大学教授 ・外国人親たちの学習教室 ・さがみはら国際交流ラウンジ ・相模原市教育委員会 ・相模原市役所渉外課 |
1 2 4 1 1 |
補助者 |
・ボランティア |
7 |
合計 |
|
16人 |
3.言語別の受講者数
言語名 |
人数 |
中国語 |
6 |
韓国・朝鮮語 |
4(1) |
タガログ語 |
3 |
英語 |
2(2) |
スペイン語 |
2(1) |
タイ語 |
1 |
ネパ−ル語 |
1 |
ドイツ語 |
1 |
ベトナム語 |
1 |
ポルトガル語 |
1 |
フランス語 |
1(1) |
インドネシア語 |
1(1) |
合計 |
24(6) |
注:( )は日本人
4.講座の評価(受講者(24名)へのアンケート調査の結果)
1)講座の有効性
全体の78%が有効性があると答えた。
2)講座修了後の意識の変化
全体の82%が意識の変化があったと答えた。
■行政にバイリンガル指導者の育成システム導入を提言
神奈川県知事に提言:2010年10月(外国籍県民かながわ会義(第6期、最終報告書)
■韓国の母語継承に関する活動の視察
1.期間:2011年2月11日〜2月16日
2.訪問場所:ドンデムン区多文化図書館、ヨンサン図書館等
3.視察内容:韓国の外国につながる子どもへの母語指導の現状を調査。今後の研究に
参考にしたい。