森基金成果報告書

センサーを用いたサッカーの運動識別システム開発

政策・メディア研究科 仰木研究室(CB) 渡辺俊

研究概要

本研究は,どんな環境でも低コストで簡易的にサッカー選手の分析を可能にするシステム開発を目的とした.その目的を達成するために,GPS,地磁気センサ,ジャイロスコープ,Zigbee を用いて,リアルタイムにサッカー選手分析ができるシステム開発に取り組んだ.本研究では特に,ボールを保持していないオフザボールの選手が『いつ』,『どこで』,『どの向きで』,『なにを』していたか分析することを目標とした.GPSを用いた理由は,サッカーの試合中に選手がグラウンド場の『どこで』プレーしていたのかを分析するためである.また,このGPS を用いることで,選手の移動速度も推定した.地磁気センサを用いた理由は,選手が『どの向きで』プレーしているかを分析するためである.この地磁気センサを用いることで8 方位の推定を行なった.ジャイロスコープを用いる理由は,選手が『なにを』しているのか分析するためである.オフザボールの運動は,大きく3 つにわけることができる.それは,歩行,走行,ステップワークである.そこで,ジャイロスコープを大腿部に装着することで,大腿部の内転外転角速度と屈曲伸展角速度を計測し,その計測データを基に歩行,走行,ステップワークの自動運動識別に取り組んだ.この自動運動識別方法には機械学習であるニューラルネットワーク用いた.Zigbee を用いた理由は2 つある.1 つ目が,各センサから獲得されるデータをリアルタイムに分析するためである.2 つ目が,選手全員の運動計測を時間同期するためである.サッカーは11 人で行う球技であるため,センサを用いてサッカー選手の『いつ』を分析するためには選手全員の運動計測が時間同期される必要がる.このZigbee を用いる事で11 人の同時計測を可能にしたのと同時,1 秒間隔で各選手のプレーをリアルタイムに分析が出来るようにした.

背景

サッカーでは一人の選手がボールに触れる時間は多い選手で2 分から3 分である.つまり,一人一人の選手をみればオンザボールの局面よりオフザボールの局面の方が圧倒的に多いということである.それぞれの選手がボールがない時にどのような反応をしているのか,ボールの位置によってどのように動きを変えているか,いつ動きだしているか,さらにボールを持った時のプレーの成功をもたらした鍵になるオフザボールの動きは何であったのかなど,ボールをもっていない時の動きの分析ができるシステム開発することは,サッカーの質的向上におおいに役立つ.近年そのようなシステム開発はビデオカメラを複数台設置し,画像分析から行われることが主流である.しかし,そのようなシステムは高性能なビデオカメラ,画像分析処理を用いるため数千万,数億円規模の費用がかかる.また,スタジアムのような適切なビデオ設置位置がない場所では計測することができない.そのようなシステムを用いることが出来るのはナショナルチームやプロチームのような設備投資ができるチームでしか使用することができないのが現実問題である.そこで,本研究はサッカーのオフザボール分析を対象とする、低コストで,計測環境に依存しないシステム開発に取り組むに至った.

目的

本研究の目的は,どんな環境でも低コストで簡易的にサッカー選手の運動分析を可能にするシステムを開発することである.この目的を達成するために,GPS2,地磁気センサ3,ジャイロスコープ4,Zigbee5を用いて,リアルタイムにサッカー選手分析ができるシステム開発に取り組んだ.本研究では特に,ボールを保持していないオフザボールの選手が『いつ』,『どこで』,『どの向きで』,『なにを』していたか分析することを目標とした.

方法

近年マイクロコンピュータや小型センサが非常に低コストで手に入るようになった. このようなマイクロコンピュータや小型センサ,Zigbee,ビデオカメラを用いてシステム開発を行う.サッカー選手がオフザボール時に『いつ』,『どこで』,『どの向きで』,『なに』をしているのかを分析するために本研究では3つのセンサを用いる.それら3つのセンサはGPS,地磁気センサ,ジャイロスコープである.GPS を選手に装着することで,ある時間の選手の位置を推定し,『どこで』の分析を行う.そして,選手の位置を推定することで,同時刻の速度,移動距離,移動軌跡も推定する.地磁気センサは方位,つまり『どの向きで』を分析するために用いる.地磁気センサを選手に装着することでその選手がどの方角に向いていたのかを推定する.ジャイロスコープは,選手がオフザボール時に『なにを』しているのかを識別するために用いる.その識別方法に機械学習であるニューラルネットワークを用いる.これら3つのセンサを制御するためのコンピュータとしてmbed を用いる.複数の選手を同時に計測するため,本研究ではZigbee を用いる.これによりオフザボールの『いつ』の分析が可能になる.さらに,Zigbee を用いることで,計測データは無線でリアルタイムに計測PCに送られ,リアルタイムな分析を可能にする.ボールがどのような状態なのか,つまりどの選手がボールを保持しているのかを計測するめにはビデオカメラを用いる.どのように選手がボールを保持しているのかという詳細な情報はサッカー分析では非常に重要になる.たとえば,保持している選手が右足でボールを保持しているのか,左足で保持しているのかの違いだけでも,オフザボールの動きやその位置どりが変わってくる.このようなボール保持状態を詳細に識別することはセンサだけでは非常に困難であった.そのため,オンザボールの状態は映像を用いて記録することにする.この映像情報は,選手に装着した各センサ情報と計測PC で同期される.計測PC がインターネットに繋がっていれば,計測されたデータはデータベースサーバーに送信される.そして,データベースに保存されたデータはweb アプリケーションとして可視化される.web アプリケーションとして提供することで, 計測データを携帯電話などのモバイル端末からも見る事が可能になる. つまり, 試合後および練習後に指導者が選手のプレーを即座に分析できる.


システム概要図

以下詳細は,マルチセンサを用いたリアルタイムサッカー選手分析システムの開発を参照して頂きたい.