2010年度森基金成果報告書
政策・メディア研究科修士2年 CBプログラム所属
80925875 romi@sfc.keio.ac.jp 落合裕美

 

提出題目:「スケッチを用いたファシリテーションに関する研究」

*本基金の申請した段階では上記の題目により、研究を進めていたがその後のフィールドワークからの知見により、研究の題目と方向性を以下のように修正した。以下の内容はこの一年間の研究の内容をまとめたものであり、これに基づき修士論文を執筆予定である。

 

修正題目:「 ワークショップにおける提示儀礼を媒介としたコミュニケーションの考察」

[研究のあらまし]

 本研究は大学生を対象にしたワークショップへの参与観察を通じ、そこで展開される微細な相互行為から、そこに関わる人びとの関係性や意識、ひいては場の構造を解釈することで、ワークショップでのコミュニケーションを考察するものである。

 そもそも「ワークショップ」とは中野(2001)の言葉を借りると、「参加体験型のグループ学習」と定義される。ワークショップでは参加者一人ひとりの態度が場を作り、場が参加者の態度の変容を促すという相互関係にある。その中で展開されるコミュニケーションは、主に「ファシリテーション」というスタイルである。ファシリテーションとは、そもそも限られた時間の枠内で全体の目的を達成するように、場の流れや雰囲気を調整しながらワークショップを進行させていく機能であり、それを担う人を「ファシリテーター」と呼ぶ。

 ファシリテーターは、完全に場のやりとりをコントロールするのではなく、参加者が精神的に安心し、物理的に安全な状態で関われるように場を保つ。つまり参加者との関係性は、従来のような一方向的な知識伝達の場における教師とも、単なる司会者とも異なり、参加者の興味や意欲を引き出しつつ、主体的なコミュニケーションを支援するというものである。

 近年ファシリテーションはビジネスや教育、まちづくりや自己啓発という様々な分野で取り入れられつつあるが、ファシリテーションを用いた場のデザインは汎用的な方法が提示され、個々の状況やどのような属性を持つ人がファシリテーターを務めるかによって左右されるコミュニケーションの実態についての言及は少ない。筆者はファシリテーションが適用される場とそのコミュニケーションの要となるファシリテーターの特徴こそが重要であり、その差異によって生じる個々のコミュニケーションの実践知が、ファシリテーションひいてはワークショップにおける場のデザインに繋がると考える。

   例えば学校教育の現場でもワークショップという体験方法を通じて、進路選択をテーマにした授業を行っているが、いまや学校教育におけるワークショップの主催側として関わるのは教員に限らない。双方的な学びの場という観点からすると、教員ではなく普段は学生として分類される者がこの主催者になることがある。

 本研究で筆者が参与観察をおこなう高校生のキャリア開発事業を行うNPOのワークショップでは、大学生がファシリテータとして「場作り」「プログラム」「ファシリテーション」に責任をもつ。本研究の主題は、大学生という属性がワークショップでファシリテーションを行う場合、そこでのコミュニケーションは具体的にどのような構造をもって語られるか。そしてその文脈ではファシリテーターとメンバーの相互行為はどのように解釈されるのか。大学生という属性から見るファシリテーションは従来語られてきたものとは異なる特性を持つため、わたしたちはファシリテーションを語る上で別の側面について気づかせられる。

 そこで筆者はそれに応える一つのアプローチとして、ファシリテータである大学生自身のコミュニケーション特性を構成する変数を見出し、一連のコミュニケーションの過程で特徴的なシークエンスを抽出し、その意味を解釈することによってコミュニケーションデザインの考察を試みる。

 その特性として筆者が事前の調査でとらえたものは、具体的にワークショップの雰囲気作りをはかるための相互的な「提示儀礼」である。「提示儀礼」とはE.Goffmanの提唱する相互的な儀礼行為のうち敬意を示す表現の一つである。これは行為者が相手をどのように見ているのか、それにより相互行為において相手をどのように扱うかを明示的に示す行為である。つまりワークショップに参加する大学生は雰囲気作りをはかるために、相手への同意や了解、一体感を提示的なふるまいを通じて表現し、それがそのワークショップのコミュニケーションを構成する重要な要素となっているという仮説に至る。

 一般的にファシリテーションはファシリテータのプロセスへの介入やその役割の側面から語られることが多いが、筆者はそこに加えワークショップでのコミュニケーションを構成する相互行為の要素を同時にみることで、はじめてその場のコミュニケーションの構造を理解するに近づくと考える。

   このように本研究では高校生を対象にしたキャリア開発事業を企画運営するNPOに、現場でファシリテーションを行う学生ボランティアという立場で関わり、大学生による事前ミーティングを一つのワークショップととらえ、質的研究の観点から微細な相互行為を構成する変数を見出し、そこから抽出されたシークエンスの意味を解釈する過程で、ワークショップのファシリテーションにおけるコミュニケーションを考察する。

 

修士論文目次原案

第一章 序論


1-1はじめに

1-2 論文の構成

 

第二章 本論

2-1概念枠組

2-1-1「 ワークショップとファシリテーション(中野民夫)」
2-1-1-1 ワークショップにおけるコミュニケーションのスタイル
2-1-1-2 ファシリテーションの定義
2-1-1-3 教育とNPOの現場におけるファシリテーション


2-1-2「アーヴィング・ゴフマンによる概念」
2-1-2-1「儀礼的相互行為」という概念
2-1-2-2「提示儀礼」という概念
2-1-2-3 上記の概念を応用した現代の若者世代のコミュニケーション特性の解釈


2-2 関連研究

2-2-1 ワークショップの多様性とさまざまな属性によるファシリテーション
2-2-2 ファシリテーションにおけるインタラクション研究に対するさまざまなアプローチ

2-3 参与観察というフィールドワークの方法


2-3-1 質的研究という立場
2-3-2 フィールドワークという調査の方法
2-3-3 参与観察の必要性


2-4 フィールドの紹介

2-4-1 フィールドワーク先としての選定理由
2-4-2 「カタリバ」というフィールド(設立背景とコンセプト、団体の構成と高校企画、そしてそのプログラム)
2-5 カタリバのファシリテーションにおけるコミュニケーションの観察 2-5-1 カタリバへの参与観察(フィールドノーツ)
2-5-2 そこから見えたコミュニケーション特性

2-6 事前調査からの仮説(リサーチクエスチョン)

 

第三章 本調査

3-1調査の概要

3-1-1 調査目的と対象
3-1-2 ビデオ分析という手法の必要性

3-2データ収集について


3-2-1 収集するデータの内容と方法
3-2-2 調査環境の設定

3-3データ分析について


3-3-1 分析のプロセス
3-3-2 場の構造とレイヤー
 3-3-2-1 分析の尺度@ ファシリテーションの前提となる発話やふるまいの有無と配置を表すための尺度
 3-3-2-2 分析の尺度A プロセスを構築するための尺度
3-3-2-3 分析の尺度B 雰囲気作りをはかる提示儀礼の尺度
3-3-3 尺度と表記の詳細
 

第四章 結果(データ)

第五章 データの解釈

第六章 考察

第七章 むすび

7-1本研究のまとめと限界

7-2今後の課題

謝辞

参考文献

付録