2010年度秋学期大学院研究成果報告書

慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 修士課程2年
ノーベルコンピューティングプロジェクト
井出陽子
学籍番号:80924106
ログイン名:ykide

チャネル理論に基づく情報の流れの計算モデルの設計

1. 活動報告

これまでの研究成果をまとめ,修士論文『チャネル理論に基づく情報の流れの計算モデルの設計』を執筆した.
Prologへ無名述語を導入する研究についてソフトウェア科学会にて発表を行い,論文誌コンピュータソフトウェアにレター論文として採録された.

2. 修士論文の概要

修士論文は次の2部構成からなる.

  1. チャネル理論に基づく情報の流れのモデルの設計
  2. Prologへの無名述語の導入と実装
第1部では,チャネル理論の基本概念である,分類,情報射,チャネル,局在論理の構造を圏論で分析し,情報理論におけるこれらの概念の意義を明らかにする.まず,本論文の中心となる情報射の性質についての命題を証明する.この命題から,情報について次のような知見を得た.

研究手法として,代数構造を抽象化したT-代数やモナドという概念を利用する.まず,T-代数を利用して分類から位相構造を生成する手続き一般化する.これをモナドによって更に一般化し,集合圏の上のモナドに対して分類圏の上に適切なモナドを定義することで分類圏から様々な代数構造を構築できることを示す.
最後に,チャネル理論の理論的背景であるDretskeの定性情報理論の一部を説明し, Dretskeの情報の流れのモデルをチャネル理論に基づき解釈する.

第2部は,Prologへの無名述語の導入と実装について述べる.無名述語を従来のPrologの意味論そのままに実装した.無名述語は単一化が使えるほか,パラメータ渡しも扱える.不動点演算子による再帰無名述語を定義可能である.無名述語の実装については,逐次実行時に無名述語を評価するインタプリタと,コンパイル時に通常の名前付き述語へ置き換えるトランスレータの2種類について述べる.両方の無名述語を統一的な意味論で実現した.無名関数の応用例として,高階述語,DCG,スクリプト言語,数値計算について紹介する.性能評価では,提案手法および関連研究との比較実験を行い,無名述語の有用性を示している.使用実験の結果,無名述語の利便性や記述力の高さ,安定性が確認できたので,標準環境として使えるように無名述語機能をパッケージ化した. 無名述語ライブラリへのリンク

本論文の最後に,情報の流れ(チャネル理論)の計算モデルについて述べる.
チャネル理論と無名述語の応用として,概念構成のモデルを提案する.

3. 今後の展望

今後の課題は,情報の流れ(チャネル理論)の計算モデルをPrologで実装し,情報システムの分析に応用することである.次の2つの理由から,Prologで実装するのが適切だと思われる. 無名述語はPrologに導入された画期的な機能であるとともに,チャネル理論の実装に役立つはずだ.タイプに内包表現があれば,such that構文のような高階論理を記述できるからだ.情報の流れをホーン節で記述し,幾つもつながったチャネルを経由して情報が論理的に帰結していくところをPrologで実験したい.認知モデル,行動意思決定理論,感性評価のモデル,そして概念構成のモデルなどのチャネル理論の応用研究の道具として役立つことを期待する.

4. 学会発表

本研究に関連して,以下の学会発表を行った.とくに3と5は査読あり論文の採録である.