慶應義塾大学大学院政策メディア研究科
環境デザイン・ガバナンス(EG)修士課程2年
中村 大輔
アートイベントによる恒常的場づくりに関する研究
—瀬戸内国際芸術祭周辺における自立的活動の形成についての研究—
1990年以降、各地でアートイベントが開催され、地域活性化の手段として用いられていることが増加している。短期間に地域に対する注目を集めるその手法は、交流人口を増加し、文化観光という側面から需要を増加させ、地域の活性化に寄与できることが想定されるが、経済や観光的側面という一元的、短期的な価値を追求することが主目的に見なされる可能性も存在する。地域の持続性を目指し、生活の再生、コミュニティの紐帯の生成をおこなうためアートイベントを契機として、開催地の中で人々が主体的に考え、行動することが、今日的なアートイベントと地域との関係づくりにおいて重要な側面ではないかと考える。よって地域における自発的な活動が生まれる契機、組織の特徴、どのように地域に寄与しているのかを明らかにすることを研究の目的とし、2010年7月19日から10月31日に開催された瀬戸内国際芸術祭を研究の主軸に置き、対象地域・期間を瀬戸内国際芸術祭とし、本研究をおこなった。
地域における自発的な行動をさぐり、ケーススタディをおこなうことによって、「アートイベントがきっかけとなった周辺の地域での活動は、自分たちでは日常すぎてみつけられない魅力を発掘するアートイベントによって地域の魅力を地元の人が再確認してそれを活かした活動が始めようという意識が芽生えた」、「アートそのものに触発されることによりアート活動が展開して、人がそれによって地域で集まって活動することがありうる」、「自立的活動はアートイベントの主催者側とは異なる視点での地域の情報を提供することができる」、「自立的な活動によって生まれた人の交流が、生まれることによって、地域の中の結びつきが強まる」を導き結論づけた。
【研究のフィールド】
瀬戸内国際芸術祭
対象期間:2010年7月19日〜10月31日
対象地域:高松市、岡山市、直島町、小豆郡
【研究方法】
(1)瀬戸内国際芸術祭を契機とした自立的活動の全体像の把握
報道・ガイドブックから期間中の自立的活動に関する事象を収集
(2)ケーススタディ
1:アートによって土地の魅力が顕在化するというアートイベントの特性に触発された事例
2:アートそのものが持っている力に触発されて、アートを利用して地域の活力を生む事例
以上の特性をもつ自立的活動のケースを観察とインタビューから分析を行い自立的活動が
どのような仕組みでおこったのか明らかにする
フィールドワーク 2010年8月9日— 9月28日
2010年10月27日—10月31日
2010年11月21日—11月26日
インタビュー 瀬戸内国際芸術祭実行委員会、活動実施者等に11回実施
【瀬戸内国際芸術祭を契機とした自立的活動の全体像の把握】
瀬戸内国際芸術祭期間中(7月19日—10月31日)発行の3新聞による報道、公式ガイドブックイベント欄から「瀬戸内国際芸術祭」の文字が見出しまたは本文に記述がある記事をリストアップした。
四国新聞 205件
読売新聞 49件
朝日新聞 97件
公式ガイドブック 153件
瀬戸内国際芸術祭を契機に自立的に活動を行った事象を選定した結果19件が該当した
【ケーススタディ】
メディアを元に抽出した事象の中から、新たに瀬戸内国際芸術祭期間中に生まれたもの、継続して活動をおこなった事象を選定し、
1:アートによって土地の魅力が顕在化するというアートイベントの特性に触発された事例
2:アートそのものが持っている力に触発されて、アートを利用して地域の活力を生む事例
以上の視点から、2つの事例をケーススタディの対象とした。ケーススタディにおいては、下図の視点をもとに分析をおこなった。
【ケーススタディ1 大学生による新聞発行】
古書店経営者と地域誌編集者によって企画された活動。地域の大学の学生が編集長をつとめ、活動を行うライタ−も大学生が務めた。
8月6日より瀬戸内国際芸術祭会期中毎日、1日100部の新聞を発行し、高松港周辺において手配りにて配布を行った。また、9月11日より、高松港の近くにあるギャラリーにおいて、バックナンバーの展示やイベントを開催スペースを開設した。
地域に対する問題意識
地域に対して問題意識をもって活動している人の存在が活動が生まれる背景にあった
瀬戸内国際芸術祭の何が契機となったのか
参加メンバーはボランティア活動を通し瀬戸内国際芸術祭の場所を活かす側面を目にした
活動の仕組み
行える範囲での会話を生むための手法
活動における地域からの反応
活動を行う上で、新たな人の交流が生まれ、地域からの反応が得られた
瀬戸内国際芸術祭終了後の活動
瀬戸内国際芸術祭の来訪者を活動の対象者としたため、期間終了時に終了した
活動を通して、活動を継続して行う意思が生まれた
【ケーススタディ2 芸術祭期間中におけるアートスペースの開設】
岡山在住のアーティスト、岡山出身の大学院生、大阪在住のアーティストの3名により、岡山市の築90年の古民家を用いて、瀬戸内国際芸術祭の期間中だけオープンさせた滞在型アートスペース。
滞在者の3分の2以上が瀬戸内国際芸術祭の来訪者であった。期間中、4人のアーティストが招かれ、滞在、制作、展示を行った。
また、アーティストだけではなく、滞在者もイベントを自由に企画することが可能であり、期間中多くのイベントが開催された
地域に対する問題意識
出石町で積極的な地域を盛り上げる活動があったことでかじこが活動を行う場所が提供された
地域で交流を生む既存の制作活動
瀬戸内国際芸術祭の何が契機となったのか
瀬戸内国際芸術祭のアートを用いたイベントという側面に触発された
活動の仕組み
来訪者間に積極的な交流が生まれるような仕組み
活動における地域からの反応
活動を行う上で、新たな人の交流が生まれ、地域からの反応が得られた
瀬戸内国際芸術祭終了後の活動
瀬戸内国際芸術祭の来訪者を活動の対象者としたため、期間終了時に終了した
活動を通して、活動を継続して行う意思が生まれた
活動を継続して行う意思があったにも関わらず、期間終了時に終了した
【結論】
2つのケーススタディを通して、共通した事象、個々特有の事象を明らかにした。共通した事象に関しては以下の通りである。
・瀬戸内国際芸術祭の実行委員会とは異なる視点での地域の紹介
・活動を行う上で、新たな人の交流が生まれ、地域からの反応が得られた
・活動を通して、活動を継続して行う意思が生まれた
・活動を継続して行う意思があったにも関わらず、期間終了時に終了した
・瀬戸内国際芸術祭の来訪者を活動の対象者としたため、期間終了時に終了した
以上をもって、以下の結論を導いた。
1.アートイベントがきっかけとなった周辺の地域での活動は、自分たちでは日常すぎてみつけられない魅力を発掘するアートイベントによって地域の魅力を地元の人が再確認してそれを活かした活動が始めようという意識が芽生えた。
2.アートそのものに触発されることによりアート活動が展開して、人がそれによって地域で集まって活動することがありうる
3.自立的活動はアートイベントの主催者側とは異なる視点での地域の情報を提供することができる
4.自立的な活動によって生まれた人の交流が、生まれることによって、地域の中の結びつきが強まる
【今後の課題】
本研究はアートイベント期間中に生まれた活動を対象としたため、芸術祭期間終了後は研究対象としていない。よって終了後においても同様の活動が生まれうるのかという継続的な視点をもって研究をおこなっていくことが必要であると考える。