2010年度森基金報告書

 

研究課題

「地域協働」による太陽光発電普及手法の可能性

 

政策・メディア研究科 修士2年 栗原恭彦

プログラム:PS、学籍番号:80924541

 

 

(1) 修士論文内容

 

序章 本研究の概要

本論文は、地域の太陽光発電普及において基礎自治体に必要な「地域協働」を対象とし、「地域協働による効率的普及」を実現するための基礎自治体の役割に関する建設的で現実性のある方法論を提示することによって、今後の「地域の太陽光発電普及施策」に貢献することを目的とするものである。

 

第1節  研究の動機と背景

近年、環境問題における対策として、再生可能エネルギーである太陽光発電の普及が国の重点政策として位置づけられるとともに、地方の基礎自治体でも条例が整備されるなど、普及促進に対する取り組みは始まっており、実際に2009年度からは国や都道府県、市町村による個人世帯への公的補助金の充実もあり普及が進みつつある。その一方、現在の個人世帯への公的補助金の交付による普及啓発では、公的補助金を交付し続けることによる国や地方の財政悪化が懸念されている。また、現場の市民レベルでは、「公的補助金があっても初期費用が高くて導入は難しいこと」や「販売業者に対する信頼性に不安があること」などの「設置時の課題」がある。さらに「設置したあとのメンテナンスに不安があること」や「実際の発電効率が不明で、売電による初期費用の回収期間が不明であること」など「設置後の課題」もある。これらの課題は、今後、より一層の市民参加を実現するうえでは解決すべき課題であると思われる。

このような課題が浮き彫りになりつつある現在の太陽光発電普及政策であるが、地域レベルでこれらの課題へ取り組む事例があることが確認できた。事例として取り上げた長野県飯田市では、太陽光発電を設置したいという市民を個々にではなく一定の地域内でグループ化して、複数の需要をまとめることで「一定の市場」を形成し、同時に「個人への公的補助金」から「個人世帯普及事業への公的補助金」へ転換を実施することで、金融機関や企業の参加を促す誘因を作った。その結果、市民に対して設置費用の軽減を利用コストに含めるというスキームを提供することや長期的メンテナンスの保障を実現するという、全国初の取り組みを実施している。また、相模原市では「地域のNPOとの協力」による地域活動を通じて、太陽光発電に興味のある市民と交流し、その中で「現場の課題」を把握するなど、基礎自治体のみでは十分に対応できない課題に対して、NPOとの協力により現場の課題解決に取り組んでいる。

 このように、従来の個人世帯対象の公的補助金施策で生じている課題に対して、「基礎自治体が地域の企業やNPO・市民と協力すること」により現場のニーズを吸い上げ、課題が解決されつつある地域の事例が存在することが分かりつつある。なお、国のエネルギー基本計画では「地方公共団体、事業者、非営利組織の役割分担、国民の努力等」という表現で明記されており、「太陽光発電における地域協働」は基礎自治体に求められている取り組みであることが分かった。

 

 では、これらの地域では、基礎自治体はどのように地域の市民や企業・NPOなどを巻き込んでいるのか、そして課題はどのように解決されつつあるのか。

 このような問題意識のもと、本論文では地域のアクターとして「基礎自治体・事業者(企業、NPOなど)・市民」を設定し、「太陽光発電における地域協働」を取り上げ、「地域協働」による効率的普及」を実現するための基礎自治体の役割を把握し、今後の「地域の太陽光発電普及施策」に対し、建設的で現実的な方法論を提示するものである。

 

 

第2節 「地域協働アプローチ」の事例と「協働のパターン」

基礎調査の段階において、実際の事例において行われている内容としては、民間資金や市場メカニズムの活用をしていること、NPOなど地域アクターの参入を促進していること、関連するアクターと市民の間の信頼関係を構築していること、などがあることが分かった。

このように現場で実施されている先進的な取り組みを参考に、(1)「市場メカニズムの活用」、(2)NPO等非営利組織の参加」、(3)『「基礎自治体と「企業とNPOと市民」の間の信頼構築』という3つの方法に関連する普及手法をモデル化し「地域協働アプローチ」として定義し、その中心的存在として基礎自治体の役割に着目した。

つぎに、これらの要素を満たしている、または満たしつつある事例として、(1)大阪府堺市「基礎自治体と金融機関の連携」、(2)滋賀県東近江市「地域協議会を通じた市民との連携」、(3)相模原市「「市民おひさま発電所」の設立」、(4)茅ヶ崎市「市民共同発電所の設置」、(5)松山市『基礎自治体と企業の連携「松山サンシャインプロジェクト」』、(6)長野県飯田市「基礎自治体・金融機関・企業・市民の連携「初期費用0円システム」という6つの事例を抽出した。

そして、実際の「基礎自治体・企業・NPO・市民の協働」の種類にもとづいて、6つの基礎自治体をつぎの3つのタイプに分類した。

(A)「基礎自治体と企業の協働」タイプ:大阪府堺市、松山市

(B)「NPO等非営利組織を介した市民との協働」タイプ:

相模原市、茅ヶ崎市、滋賀県東近江市

(C)「企業を介した市民との協働」タイプ:長野県飯田市

 このように、「地域協働アプローチ」の6つの事例を3つのタイプに分類したうえで、基礎自治体の役割を検証していく。

 

 

 

第3節 本研究の目的と手法 「地域協働アプローチ」における基礎自治体の役割の把握

本論では、太陽光発電における「地域協働」を特色のある事例を通じて、基礎自治体の役割を調査していくものである。

まず、「地域協働アプローチ」における基礎自治体の役割を検証するために、

(1)  基礎自治体による「信用保証」が「地域協働アプローチ」に対する不安を一定程度緩和し、事業者(企業・NPO)の参加誘因となる。

(2)  基礎自治体による「信用保証」が「地域協働アプローチ」に対する不安を一定程度緩和し、市民への参加誘因となる。

という、2つの仮説を設定した。

つぎに、基礎自治体が企業やNPO・市民に参加を促す手法として、「協働誘因=「経済的誘因(資金支援等)」+「非経済的誘因(信用保証による参加促進等)」という分析枠組みを設定した。

 この、@特色のある事例の(A)(B)(C)の3つの分類、A基礎自治体の役割「協働誘因=経済的誘因+非経済的誘因」、という2つの枠組みを活用して、基礎自治体に関する比較調査を行った。また、「市民参加」を契約という形で実現している長野県飯田市に着目し、基礎自治体や企業がどのような役割を担い、市民参加を可能にしているかについて詳細な調査を行った。飯田市においては、飯田市役所・飯田信用金庫・おひさま進歩エネルギー鰍ノ対するインタビューを行い、事業主体である「おひさま進歩エネルギー梶vの協力を頂き、参加している市民26人へのアンケート調査を実施した。

 

第4節 本論文の構成

 

第1章 近年の環境問題と太陽光発電普及

 第1章では、近年の環境問題における再生可能エネルギーの重要性を示すとともに、再生可能エネルギー普及における課題として「地域の基礎自治体・企業・NPO等非営利組織・市民の協働」の必要性を示した。そして、「市民参加」を実現しつつある分野として太陽光発電普及政策を取り上げ、その特徴を明らかにしたうえで「太陽光発電普及における地域協働」を「地域協働アプローチ」として定義した。そして、「地域協働アプローチ」を実施するうえでの重要なアクターとして基礎自治体を位置付け、基礎自治体の役割に着目した。

 

第2章 太陽光発電普及手法における従来型施策と「地域協働アプローチ」の比較

第2章では、現在の国などによる太陽光発電普及政策の詳細と状況を概観し、全般的な課題を抽出し、「地域協働アプローチ」と従来型の公的補助金施策の比較を行った。

 

第3章 太陽光発電普及における「地域協働アプローチ」の事例調査

第3章では、仮説を検証するため、事例として抽出した6つの基礎自治体を訪問し、インタビューにより調査した。

 

 

第4章 公的補助金の新しい活用方法の試みと市民参加

第3章における事例のなかで、具体的な市民参加を実施している事例として、長野県飯田市を取り上げ、詳細に調査した。飯田市の取り組みは、地域の金融機関と企業が関わり、かつ、契約による「市民参加」を実施しており、取り組みを調査することは、今後、各地域において「基礎自治体・企業・NPO・市民の協働」を実施するうえで、実質的な参考になると考えられる。そこで、長野県飯田市の取り組みを、基礎自治体・企業へのインタビューと、参加者である市民へのアンケートを実施した。

 

第5章 考察とまとめ

本論文のまとめとして、太陽光発電普及施策における新しい手法である「地域協働アプローチ」における基礎自治体の役割を示した。そのなかで、とくに、市民・民間企業・NPOに対して「基礎自治体が具体的に信用を付与すること」が重要で、それにより企業・NPO・市民は安心して協働に参加できることを示した。

さらに、今後の課題や展望として、「地域協働アプローチ」に対する国や都道府県の適切な支援の必要性や、太陽光発電の「所有」から「利用」への新しい発想による「再生可能エネルギーの公的供給」の可能性を検討した。

 

《キーワード》

1.再生可能エネルギー 2.太陽光発電 3.地域協働 4.基礎自治体 5.不確実性

 

 

 

(2)活動報告

1)訪問先(電話でのインタビュー含む)

相模原市、茅ヶ崎市、大阪府堺市、京都市、滋賀県東近江市、長野県飯田市、愛媛県松山市、岡山市(電話)、福岡市(電話)、一般社団法人新エネルギー普及促進協議会(電話)、神奈川県知事松沢成文秘書・福田紀彦氏、前衆議院議員・山際大志朗氏、東京電力株式会社、NPO太陽光発電所ネットワーク、ちがさき自然エネルギーネットワーク(REN),おひさま進歩エネルギー梶A飯田信用金庫、大手都市銀行、太陽光発電関連イベント(東京ビックサイト、パシフィコ横浜など)への参加

 

2)内容

・太陽光発電関連ビジネスの現状調査

・「地域協働」に対する企業のイメージ調査

・「地域協働」に対する基礎自治体へのインタビュー調査

相模原市20101028日)、茅ヶ崎市20101126日)、大阪府堺市20101116日)、京都市20101117日)、滋賀県東近江市20101117日)、長野県飯田市(@201081012 A201091517)、愛媛県松山市2010121日)、岡山市(電話 20101124日)、福岡市(電話 20101124日)

・長野県飯田市における市民へのアンケート調査(20101117日〜1130日)