2010年度森基金 研究成果報告書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

在独日本人の会話にみられる修復のストラテジー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政策・メディア研究科 修士課程

ヒューマンセキュリティとコミュニケーション

由布 真美子

 


 

目次

 

1章 研究の概要....................................................................................................... 4

1-1. 背景・動機......................................................................................................... 4

1-1-1. 日本における外国籍住民とコミュニケーション.................................. 4

1-1-2. MSNMS間の会話................................................................................. 4

1-2. 主題..................................................................................................................... 5

1-3. 概念・定義......................................................................................................... 5

1-3-1. 修復.............................................................................................................. 6

1-3-2. 相互理解...................................................................................................... 6

1-3-3. ターンの獲得/保持.................................................................................. 6

2章 先行研究の検討............................................................................................... 7

2-1. ドイツにおける外国籍住民と言語状況......................................................... 7

2-2. 接触場面............................................................................................................. 7

2-3. 会話分析............................................................................................................. 8

2-4. 修復................................................................................................................... 10

2-5. 相互理解........................................................................................................... 11

3章 修復の分類..................................................................................................... 13

4章 研究課題と本論文の構成............................................................................. 17

5章 データ収集..................................................................................................... 19

5-1. 会話データの録音........................................................................................... 19

5-2. フォローアップ・インタビュー................................................................... 22

6章 NMSの発話に対する自己開始修復.......................................................... 24

6-1. (a) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復........................ 24

6-1-1. 置換................................................................................................................... 25

6-1-2. やり直し........................................................................................................... 33

6-1-3. 挿入................................................................................................................... 37

6-1-4. 言葉探し........................................................................................................... 39

6-2. (b) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復........................... 41

6-3. 小括...................................................................................................................... 43

 

7章 MSの発話に対する他者開始修復............................................................. 45

7-1. (c) MSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復.......................... 45

7-1-1. 非限定的な修復の開始............................................................................ 45

7-1-2. 限定的な修復の開始................................................................................ 47

7-2. (d) MSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復....................... 50

7-2-1. 言いかえ.................................................................................................... 50

7-2-2. 語の付加.................................................................................................... 52

7-3. 小括................................................................................................................... 54

8章 複数の修復を含む一連の発話に見られるNMSから開始する修復..... 56

9章 おわりに......................................................................................................... 62

9-1. 分析のまとめ................................................................................................... 62

9-2. 考察................................................................................................................... 63

9-2-1. MS同士の会話との共通点..................................................................... 63

9-2-2. MSNMS間の会話に見られる特徴................................................... 64

9-2-3. ドイツ語MS・日本語MS間の会話に見られる特徴........................ 65

9-2-4. NMSから開始する修復の現れ方に影響を及ぼす要因...................... 65

9-2-5. MSNMS間の意思疎通の確保と良好な関係の構築....................... 66

9-3. 今後の展望....................................................................................................... 68

謝辞................................................................................................................................. 70

参考文献......................................................................................................................... 71

巻末資料......................................................................................................................... 77

 

 


1章 研究の概要

 

 本研究は、ドイツ国内で生活する日本人とドイツ人[1]とのドイツ語会話を対象に、修復に着目した分析を通じて、相互理解のメカニズムとその背後に存在する会話参加者の意識を明らかにするものである。

 

1-1. 背景・動機

 本研究の背景と動機は、以下のとおりである。

 

1-1-1. 日本における外国籍住民とコミュニケーション

 

 まず背景のひとつにあるのが、日本における外国籍住民の増加と、それを取り巻く言語環境の問題である。第二次世界大戦後、日本の外国人登録者数はほぼ増加の一途をたどっており、2009年末の統計では、総人口の1.71%を占めている[2]。また近年では、少子高齢化にともなう労働力不足に対処するため、フィリピンやインドネシアなどと二国間協定を結び、専門的な職業に従事する労働者を組織的に移入する政策をとる動きも活発になってきている。

 このような流れにともなって、日本国内の職場や地域社会では、日本語の母語話者(Muttersprachler、以下MS)と非母語話者(Nicht-Muttersprachler、以下NMSとの接触場面はめずらしいものではなくなってきている。外国籍住民が日本の社会の一員として共存するうえで、会話というコミュニケーションは必要不可欠であり、どのようにしてより良い関係性を構築することができるのか、互いに心地の良い多言語・多文化社会をつくることができるのかという問題意識が、もうひとつの本研究の背景である。

 

1-1-2. MSNMS間の会話

 

 本研究の動機として、MSNMS間の会話への関心がある。これまで国内外でさまざまな異文化間コミュニケーションを体験し、自分自身がNMSという立場におかれる機会も多かった。そのなかで、MSNMS対して平易な単語で比較的ゆっくり話すなど、通常MSと話す場合とは異なった話し方をしていることに強い印象を抱くようになった。このようなMS側の簡略化された話し方は、フォーリナー・トークとよばれる。自分がNMSの立場で話をする場合と同じく、留学生や他の日本語学習者に対してMSの立場で話をする場合も、相手もしくは自分の話し方が調整されていることを意識するようになった。また、MSNMS間の会話では、身ぶり手ぶりや語句の繰り返し、あいづちなどがより頻繁におこなわれており、お互いの意思疎通のためにそのような方略が多用されていることを実感した。そのため、とくに自分がNMSの立場にある場合、MSに対して劣位におかれていると感じることもある。これらの経験を通じて、MSNMS間の会話における意思疎通の問題やそれらの対処方法、そして、コミュニケーションと同時に構築されるMSNMS間の関係性に関心をもつようになった。

 

 以上のような背景から、自分の母語ではない言語がマジョリティとなっている社会で生活する人びとのコミュニケーションの実態に関心を抱き、実際の接触場面におけるコミュニケーションはどのように構築されているのか、どのようなコミュニケーション上の問題が存在し、それに対していかなる対処をおこなっているのか、より良い関係を構築するコミュニケーションとは、いかにして可能であるのか、という疑問をもつようになったことが、本研究に取り組む動機である。

 

1-2. 主題

 

 本研究の問題意識は、当該使用言語の能力が同じでない、すなわち非対称である(asymmetric)ことの多いMSNMS間のコミュニケーションで、コミュニケーション上の問題に対処しながら、1) 適切な意思疎通に到達し、2) 良好な関係を構築するには、どうしたらよいのかというところにある。ここで「良好な関係の構築」といっているのは、会話参加者間の使用言語能力による非対称性が、相互行為全体に与える影響をできる限り少なくするようなコミュニケーションを図る、ということである[3]

 このような問題意識に基づき、修復に焦点を当ててMSNMS間の会話を分析することを本研究の主題とする。研究対象はドイツ語MSとドイツ国内で生活する日本語MSとのドイツ語による会話であり、分析の手法としては主に会話分析を用いる。

 

1-3. 概念・定義

 

 本研究で用いる修復、相互理解、ターンの獲得/保持の概念は、以下のように定義する。

 

1-3-1. 修復

 

 Schegloff/Jefferson/Sachs (1977)、鈴木(2008: 71)、Egbert (2009: 10, 162)より、修復とは、話したり聞いたり理解したりするうえでのトラブルに対処する、会話における一連のメカニズムとする

 

1-3-2. 相互理解

 

 Kallmeyer (1977: 52)Kindt/Weingarten (1984: 194)Selting (1987: 48-53)Sonnenberg (2000: 1-10)より、本研究で相互理解という場合、それは相互行為の過程で産出される、会話参加者の解釈の一致をさす。この相互理解は、修復の分析によって観察可能となるものである。

 

1-3-3. ターンの獲得/保持

 

 Færch/Kasper (1982: 6-8)より、ターンの獲得とは、順番交替適確箇所(transition relevant place)で順番交替が起こり、聞き手から話し手になるということである。もう一方のターンの保持とは、現在の話し手が話し手としての役割を維持しているということである。

 

 


2章 先行研究の検討

 

2-1. ドイツにおける外国籍住民と言語状況

 

 1-1-1.で述べたとおり、2009年末における日本の外国人登録者数は、総人口の1.71%となっている。これに対して、ドイツの外国籍住民(ausländische Bevölkerung)は、2009年末で総人口の8.73%にものぼっている[4]。またドイツは、外国籍住民とは別に移民の背景をもつ人口(Bevölkerung mit Migrationshintergrund[5]の統計も出しており、これは2007年で約15,411,000人となっている[6]。このような状況をうけ、ドイツでは移民に対する言語教育がさかんに議論されてきている。平高(2008: 45)と平高(2009: 319-320)によるとその方針は、第1期の「外国人教育」(1950年代〜)から第2期の「異文化間教育」(1980年頃〜)、第3期の「統合コース」(2000年〜)という変遷を経て推移している。次の2-2.でも触れるが、Rost-Roth (1995)によると、このような状況がドイツにおける移民の言語研究を発展させるきっかけとなっている。

 

2-2. 接触場面

 

 接触場面という概念について、ネウストプニー(1995)は、

 

国際化が進むにつれて、たとえこのことばが造語であっても、それが表わす概念の重要性はますます増大すると思われる。なぜなら、ある文化のメンバーが、同じ言語や文化のメンバーとコミュニケーションをもつ場面は、「母語場面」になるが、他の言語や文化のメンバーとコミュニケーションをおこなうとなると、「外国人場面」、つまり、「接触場面」(contact situation)が成り立ち、そのなかのコミュニケーションの方法は「母語場面」と質的に違うものを含むからである[7]

 

と述べている[8]。このような接触場面については、ドイツでは異文化間コミュニケーションの枠組みで論じられる場合が多い。Sonnenberg (2000)は、世界的に広がるグローバリゼーションの流れのなかでの母語の異なる者同士のコミュニケーションの重要性を主張している[9]Rost-Roth (1995)によると、異文化間接触におけるドイツ語での相互行為研究は、語用論、会話分析、対照語用論、話しことばの民族誌などさまざまな分野でおこなわれており[10]、その背景にはドイツの移民集団の存在がある(Rost-Roth 1995: 245[11]

 

2-3. 会話分析

 

 2-2.で述べたとおり、接触場面におけるコミュニケーションの研究は重要なものであり、ドイツ国内あるいはドイツ語での研究もひろくおこなわれている。これらの研究にはいくつかのアプローチの方法があるが、1-2.で述べたとおり、本研究は主に会話分析の手法に立脚するものとする[12]

 会話分析は、社会の秩序形成のために私たちが共有している知識を明らかにすることを主要な目的とするエスノメソドロジーの手法を、会話に応用したものである[13]。その背景にあるのは、知識と行為は相互に関連しており、社会的相互行為は社会の秩序を形成し、同時に社会の秩序によって規定されているものであるという理論である[14]。このようなエスノメソドロジーから派生した会話分析の目的は、会話参加者が言語的相互行為の秩序を生産するやり方、自身のふるまいと相手のふるまいを秩序に基づいて解釈するやり方、逆にこの解釈を表現するやり方を明らかにすることである[15]。ここで前提とされているのは、1) 相互行為は無秩序ではなく、組織として体系づけられるものである、2) 相互行為は文脈に即しておこなわれるものである、3) これら2つの相互行為の特性により、実際の会話に見られる詳細な現象は、無秩序という理由で捨象されるものではなく、すべての現象に意味がある、という3点である[16]

 会話分析の手順としては、まず録音・録画された会話データのトランスクリプトを、研究の関心に基づいてその場面ごとに連鎖を分析する。その後、会話分析の最終的な目標は一般化であるため、発見したことを図式化して仮説を形成し、他のデータでの検証を通じて仮説を実証していくことになる[17]。これにより、相互行為過程の結果として、そこに存在する特定の構造が示されることになり、会話参加者がそれをどのようにルーティン化しているかを観察することで、その基礎にあるコミュニケーションの原則を明らかにすることができる[18]。このプロセスで重要なのは、分析対象とするデータが可能な限り自然な会話であるという点と、すべての観察を会話データに基づいておこない、データに基づかない観察者の直感や過去の経験・知識、会話参加者の意図は分析に含めないという点である[19]。また、分析の際にはその会話がおこなわれた文脈(context)を重要視するが、文脈との関連性はあくまで実際の会話に基づくものであり、会話参加者のアイデンティティや背景、属性などといった社会的文脈(social context)はほとんど考慮しない。それらをあえて無視することで、固定観念に縛られて実際の会話を色眼鏡で見てしまうことを避けるのである[20]

 以上に述べたとおり、会話分析の本質的要素は、相互行為が構成される形式上の特徴を分析することであり、会話参加者にとっての主観的な意味や意図は分析に入らない。これに対して好井(1992)は、社会の成員がその都度その都度どのようにして出来事を説明可能にしていくかということを、静的な構造的規則に再構成するだけの素朴な実証分析になってしまう危険性を指摘している[21]。また佐々木(2006)は、会話分析の手法はさまざまな研究成果を提供してはいるが、単独では異文化間コミュニケーションの相互作用過程を分析するのに十分な手段になり得ない、と主張している[22]。そこで本研究では、この会話分析の限界を補足するために、録音した会話データと合わせてフォローアップ・インタビューで得られたデータも考察の際に考慮に入れることとする[23]

 

2-4. 修復

 

 修復は、会話分析のなかでも順番交替の組織、連鎖の組織とならぶ主要な研究領域であり、Schegloff/Jefferson/Sacks (1977)に端を発するものである。これ以降、多くの修復研究がおこなわれているが、MSNMS間の会話に見られる修復を対象としたものもある。ドイツ語MSNMSとの会話を対象とした研究としては、外国人のためのドイツ語(Deutsch für Ausländer)の授業をベルリンで履修しているNMSMSとの自由会話を分析したRost (1990)や、2名の中国語MS1名のイタリア語MS3名のドイツ語MSによるドイツ語会話を扱ったEgbert/Niebecker/Razzara (2004)などがある。また、ドイツ語MSと中国語を母語とするドイツ語NMSのコミュニケーションについて研究したGünthner (1993)や、NMSの学生とMSの大学事務員との会話を分析したSonnenberg (2000)、ドイツ語MSの家主と東欧のアクセントのある女性との電話での会話を分析したEgbert (2005)にも、修復の観察が含まれている。しかし、以上に挙げた研究の対象には、日本語を母語とする話者は含まれていない。また、日本語MSNMSとの会話を対象とするものとしては、フランス語を母語とするNMSを扱う猪崎(1997)や、日本語MSNMS間の自由会話を対象とするHosoda (2000)Hosoda (2006)などがある。しかし、猪崎(1997)は日本語NMSの発話にのみ焦点を当てた研究であり、Hosoda (2000)Hosoda (2006)が対象とした会話は基本的に日本語によるものである。

 日本語MSとドイツ語MSとのドイツ語による会話の修復研究は、管見の限りまだなく、ドイツ国内に生活する日本語MSを対象としている点も加えて、本研究には新規性がある。

 本研究で修復に着目した理由は、1) 会話参加者間に使用言語能力の差が存在するMSNMS間の会話の場合、MS同士の会話よりも修復が頻繁に起こり、その現れ方にも特徴がある、2) 2-5.で述べるとおり、意思疎通の構築と修復とは密接な関係にあると考えたからである。Seedhouse (1998)も、誤解などはMS同士の相互行為よりもMSNMS間の相互行為でより多く起こりうることを指摘しており[24]Egbert/Niebecker/Rezzara (2004)も、MSNMS間の相互行為はMS同士の相互行為と比べてより問題がある(more problematic)ことが想定されると主張している。以上のことから、本研究では、対象とするドイツ語会話のなかでもとくに修復に焦点を当てて分析をおこなうこととした。

 

2-5. 相互理解

 

 修復を分析する際、本研究では「適切な意思疎通への到達」という考え方をひとつの柱としている。そのため、「適切な意思疎通への到達」を具体的に考えるにあたり、相互理解という概念を導入する。

 Sonnenberg (2000: 1-2)によると、相互理解(Verständigung)とは「動的・相互行為的プロセスであり、相互行為の参加者の解釈に一致をもたらすもの」である。この相互理解は、個人の理解(Verstehen)のプロセスとは区別して考えられる。個人の理解のプロセスとは、個人の内部の心的プロセスであり、これを直接観察することはできない。直接観察できない理解のプロセスと違って、相互理解の行為(会話参加者が、互いにどのように反応し影響を受けるか)は、分析者にも直接知覚できるものであり、研究対象となりうるものである[25]。相互理解の問題に初めて体系的に取り組んだKindt/Weingarten (1984: 194)も、相互理解は相互行為の過程のなかで産出されなければならないものであり、それ自体存在するものではないと主張している。

 また、会話のなかで相互理解が達成されたかどうかの判断は、会話参加者のその後のふるまいの状態からのみ導くことができる[26]。したがって、本研究で適切な意思疎通に到達したという場合、それは以降の会話の流れを観察することで、会話参加者の解釈が一致したと判断したものである。

 この相互理解を会話分析の伝統のなかで最初に扱ったのが、Schegloff/Jefferson/Sacks (1977)の修復に関する研究である[27]。このように、相互理解とは修復の分析によって観察可能なものである[28]Rost (1990)は、会話分析の修復という概念を援用して相互理解の問題を扱うことには制約があると述べている。その理由は、意識下に存在する相互理解の困難や相互行為で扱われなかった困難が、会話分析のアプローチでは顧みられないことである。しかし、会話参加者による相互行為を通じて露呈された相互理解の困難を扱うので、この制約が逆に長所であるとも主張している。

 Rost (1990)Sonnenberg (2000)も、NMSが学習者であるという前提に立った分析をおこなうのではなく、MSNMSの両者の相互理解の問題に取り組む立場を表明している。この点に関して、Wagner (1996: 220-231)も、MSNMS間の会話は程度の大きい言語調整を示すと述べたうえで、それをMSあるいはNMS一方の調整として捉えるのではなく、あくまでも両者の相互行為を詳細に観察することの重要性を強調している。また、接触場面の会話をコミュニケーション問題処理の方策に着目して調査するコミュニケーション・ストラテジー研究についてふれた尾崎(1993)や藤井(2000)、多文化共生社会でのMSの行為に焦点をあてた蜩c(2010)なども、MSNMS両方のふるまいに注目する必要性を指摘している。

 これらの点をふまえ、修復に着目して相互理解の達成プロセスを分析する際、本研究ではMSNMS両者の相互行為を観察する。

 

 


3章 修復の分類

 

 Geluykens (1994: 17-24)によれば、修復は次の3つのパラメータによって分類できる。

        1) どちらの参加者が修復を開始し、どちらの参加者が実際に修復を遂行してい
         
るか

        2) どのタイプの「エラー」が修復されているか

        3) 修復の発生時点がどこであるか

 

 本研究では、会話参加者の相互行為によってどのように意思疎通が達成され、良好な関係が構築されているかを観察することを主題としている。そのため、この3つのパラメータのうち、1) による分類に準じて観察された修復を分類する[29]。これに基づくと、修復は1のように4種類に分類される。

 

1 パラメータ1) に基づく修復の分類[30]

 

 この4種類の修復について、どのような相互行為を組織し、コミュニケーション上の問題に対処しているのか、それぞれGeluykens (1994: 17-20)によって説明する[31]

 

(i)        自己開始自己修復
(例)
She was givin’ me all the people that were gone this year I mean this quarter. (from Schegloff-Jefferson-Sacks 1977: 364)

これは、this yearという表現がこの話し手本人によってthis quarterという表現に言い直されている、自己修復の例である。さらに、このthis yearからthis quarterへの修復は、I meanという言葉を用いて話し手本人によって導入されているため、この例は自己修復のなかでも自己開始自己修復に分類される。

(ii)      自己開始他者修復
(例)
A: She was givin’ me all the people that were gone this year I mean...
B: This quarter you mean.
A: yeah right.


この例では、Aのはじめの発話に問題源が存在することを、この発話の話し手であるAI mean...という言葉によって表現している。これをうけて、この発話の聞き手であったBが次のターンでThis quarterと言い直し、修復を遂行している。このような例は、自己開始他者修復に分類される。また、このBによる他者修復は、先行するAthis year I mean...と同じ構造でThis quarter you meanと表現されていることで、これが言い替えであることが明白になっている。

(iii)     他者開始自己修復
(例)
A: She was givin’ me all the people that were gone this year.
B: What? This year?
A: This quarter I mean.


ここでは、Aのはじめの発話のなかに不適当な表現が含まれていることを、その聞き手であったBが指摘している。ところが、実際に修復を遂行したのは、はじめに不適当な表現を含む発話をおこなったAである。このような例は、他者開始自己修復に分類される。

(iv)     他者開始他者修復
(例)
A: She was givin’ me all the people that were gone this year.
B: This year? This quarter you mean.
A: Yeah right.

この例では、Aのはじめの発話のなかの不適当な表現を、この発話の聞き手であったBが示し、それとともに修復を遂行している。これは、他者開始他者修復に分類される。

 

 MSNMS間の会話を分析対象とすると、MSの発話もしくはその一部が問題源となった場合と、NMSの発話もしくはその一部が問題源となった場合とでさらに区別できる。その結果、以下の(a)(h)8通りに分類できる[32]

 

2 問題源がMSの発話(の一部)に存在する場合の修復の分類

 

 

3 問題源がNMSの発話(の一部)に存在する場合の修復の分類

 

 23を一覧にしたものが、次の1である。

 

 

 

1 修復の8分類

 

 

問題源

MSの発話内)

問題源

NMSの発話内)

(i) 自己開始自己修復

(e)

(a)

(ii) 自己開始他者修復

(f)

(b)

(iii) 他者開始自己修復

(c)

(g)

(iv) 他者開始他者修復

(d)

(h)

 本研究では、NMSから開始する4種類の修復(a)(b)(c)(d)に着目して分析をおこなう。それは、使用言語能力による非対称性を内包するMSNMS間の会話において、その非対称性がもたらす影響を低下させるようなコミュニケーションのあり方に関する問題意識が、本研究の大きな柱のひとつとなっているからである。

 表1でまとめた8つの修復のタイプのうち、NMSから開始する4つのタイプの修復では、少なくとも修復の開始の部分でNMSがターンを獲得または保持している。このNMSによるターンの獲得あるいは保持という順番交替のパターンには、詳しく見るとさまざまな性格がある。たとえば、MSの発話が進行しているものを遮ってターンを獲得する場合や、MSの問いかけなどによってNMSにターンがきてしまう場合である。しかし、いずれの場合も、修復の開始においてNMSが話し手の役割を担っている点では共通している。非常に微視的な視点であるが、この微視的なターンの獲得/保持の積み重ねが会話全体におけるNMSの発言権の増加を促進し、ひいては使用言語能力による非対称性がもたらす影響の低下につながる可能性があると考えたため、本研究では(a)(b)(c)(d)4種類の修復に着目して分析をおこなう。

 

 


4章 研究課題と本論文の構成

 

 本研究では、ドイツ国内で生活する日本人(ドイツ語NMS)とドイツ語MSとの間の会話に見られる修復のうち、NMSから開始されるものを分析し、その相互行為の過程と相互理解の問題、そして会話参加者の意識との関連性を解明する。課題として設定するのは、以下の4つである。

 

I.         NMSの発話に対する自己開始修復は、どのような過程で現れるのか。

II.       MSの発話に対する他者開始修復は、どのような過程で現れるのか。

III.     複数の修復を含む一連の発話中で、NMSから開始する修復は、相互理解の問題に関してどのような過程で意思疎通を導いているのか。

IV.     NMSから開始する修復の背後には、会話参加者のどのような意識があるのか。

 

 まず、課題IIIで、研究対象とする会話に見られる修復のメカニズムとしての特徴を明らかにする[33]。課題Iで取り上げるNMSの発話に対する自己開始修復とは、3で述べた、

 

        (a) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復

        (b) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復

 

2つのタイプである。これらに共通するのは、NMSが問題源の産出者であるということであり、問題源を含む発話を産出した話し手としてトラブルに直面している点である。これについては、6で扱う。また、課題IIで取り上げるMSの発話に対する他者開始修復とは、

 

        (c) MSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復

        (d) MSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復

 

2つのタイプである。これらに共通するのは、NMSが問題源の受信者であるということであり、問題源を含む発話の聞き手の立場でコミュニケーション上のトラブルに直面している点である。これについては、7で扱う。

 課題IIIでは、課題IIIで観察したNMSが開始する修復が、どのようにMSNMS間の相互理解の問題を解決へと導いているのかを明らかにする。ここでは、ある相互理解の問題に対して複数の修復が観察される場合について扱うこととする。2-5.で述べたとおり、修復は相互理解の問題を相互行為的側面から分析する際の概念であり、修復と相互理解とは密接な関係にある。ただ、本研究で収集したデータを見ると、1つの相互理解の問題を解決する過程において2つ以上の修復が観察されるケースが多い。そのため、本研究の課題IIIでこのような例について分析する。これについては、8で扱う。

 課題IVの会話参加者の意識に関しては、フォローアップ・インタビューによって得られたデータをもとに、修復の組織や修復を通じた意思疎通の過程の背景に存在する会話参加者の意識に言及する。これは、6以降の分析と考察のなかで、適宜ふれることとする。

 


5章 データ収集

 

 本研究では、録音された会話データ[34]とデータ録音後のフォローアップ・インタビューのデータを分析の対象とする。データの分析に入る前に、本章でこれらの収集方法について詳述する。

 

5-1. 会話データの録音

 

 本研究で用いる会話データは、すべてドイツ国内での調査によって収集した[35]

 

【調査期間】

 20099月/200911月/20102

 

【調査地】

 ライプツィヒ(ドイツ)

 

【調査内容】
 ドイツ語MSと在独の日本語MS(ドイツ語NMS31組の自由会話を、1組あたり約2040分間録音。

 

【被調査者】

 ・ドイツ語MS26名(20-47歳)

 ・日本語MS(ドイツ語NMS31名(23-51歳)

 被調査者は、互いに初対面の者を組み合わせた。日本語MSの被調査者の選定基準は,教室環境でのドイツ語学習を終え、生活(学業を含む)のためにドイツ語を使用していることとした。

 

【使用機器】

 ICレコーダ(Olympus, Voice-Trek DS-51)、iPod(マイクロフォン〔BELKIN, Tune Talk Stereo for iPod with video〕装着)。

 

【録音日・場所・録音時間】

2 会話データを録音した日付、場所、録音された会話の長さ[36]

被調査者

日付

録音場所

録音時間

SA, AT

200999

 

Mio Restaurante

3454

SA, EY

2627

SA, HI

4225

TP, KU

20091119

Mio Restaurante

4213

SA, TN

20091121

Mio Restaurante

1747

MR, TT

2136

FS, KA

3613

FS, KS

3546

CS, YK

3043

AW, SM

20091123

Mio Restaurante

2734

LB, EA

1812

FFKH

2722

CS, MT

2348

PS, SM

20091124

Mio Restaurante

207

NS, MO

419

FP, MA

20091125

Mio Restaurante

2151

SA, YM

2010212

Karstadt Leipzig

2456

JB, KM

2010218

LUKAS Café

2018

CH, MF

2137

SP, MI

2010220

LUKAS Café

2234

PG, AY

1820

MW, CF

2010222

LUKAS Café

2643

CS, TK

Universität Leipzig

2336

HT, YK

2010223

LUKAS Café

3113

MR, YB

3756

MF, HS

2834

GL, YS

2010224

LUKAS Café

3145

MS, EU

4336

FS, AK

2010225

LUKAS Café

2647

TK, KK

Büro von Herrn K

2037

TS, MM

2010226

Max-Planck-Institut für Kognitions- und Neurowissenschaften

2920

 

【録音手順】

 録音は以下のような手順でおこなった。

1.      自己紹介と概要説明
本研究の概要・会話データ録音の目的・録音の概要(およその時間、話してもらう内容等)を説明し、データの録音と取り扱いに関する同意の確認をおこなう。

2.      同意書とアンケート
被調査者にアンケートと同意書[37]をその場で記入してもらう。同意書(2枚目)・アンケート(3枚目)を回収し、調査者の連絡先を書いた紙(1枚目)を被調査者に渡す。

3.      録音
1)
タスクの説明と選択
 ・日本料理のレストランの案内
 ・日本での余暇の計画
 ・日本料理の作り方
この3つのテーマのなかから、何について話しやすいかを被調査者に決めてもらい、それぞれにタスクの指示カード[38]を渡す。被調査者が用意したテーマを必要としない場合、すぐ2)に移行。
2)
調査者がレコーダに日付を吹き込み、「始めてください」と言って録音開始。
3)
会話データの録音中は、調査者は同席してメモをとる。
4)
区切りのよいところで「ありがとうございました」と言って録音終了。

4.      連絡
1) 疑問点等にはいつでも応じる旨を伝える。
2)
フォローアップ・インタビューの予定を決める。

 この録音の目的は、MSNMS間の自然な会話データを収集することであるが、同意のうえとはいえ録音をおこなう以上、被調査者がそれを意識するのは当然のことであり、完全に自然な会話を録音するのは不可能である。そこで、できるだけリラックスした雰囲気をつくるため、カフェなどでコーヒーを飲みながら録音を実施した。このとき、さまざまな雑音が入り込んでいるため音質はやや劣るが、より日常の場面に近づけることを重視したためである。

 また、被調査者のドイツ語MSと日本語MSが初対面なので、会話が進まないおそれがある場合に備えて、会話のきっかけとしてこちらであらかじめテーマを用意しておいた[39]。ただし、テーマ自体は重要でないことを被調査者に事前に伝え、テーマも話しやすく広がりを含んだものを選んだ。テーマ3つに共通して日本に関するものが選ばれているのは、MSだけが発話をおこなう状況を避け、NMSの発話も引き出そうと考えたからである。なお、これらのテーマは、パイロット調査としておこなった200999日の調査で用いたものである。このパイロット調査は3組を対象に実施したが、どの組も途中から話題が展開し、自分たちの興味のあることについて熱中して話していた。そのため、その後の調査でも同じテーマを扱い、同様の録音手法をとることとした。

 

5-2. フォローアップ・インタビュー

 

 会話データの録音後、翌日以降に被調査者1人ずつにフォローアップ・インタビューをおこなった[40]。この目的は、録音された会話が日常生活の会話に近いものであったかどうかを確認し、被調査者の言語生活について質問し、会話データ中に見られた修復の背後にどのような意識がはたらいていたかを尋ねることである[41]。録音の翌日以降としたのは、調査者が録音データを聞き直す時間をとるためである。

 

【全員共通の質問】

・会話中に問題があったかどうか。

・自然に会話できたかどうか。

・<MSに対して>日常生活で、ドイツ語以外でコミュニケーションをとる機会、ドイツ
 語NMSとコミュニケーションをとる機会の頻度、場面等。

・<NMSに対して>日常生活でのドイツ語によるコミュニケーションにおける問題点。

【会話の内容に関する質問】

・録音中、もしくは録音後に調査者が聞き直して気になった点、意図がよくわからなかっ
 た点。

・データ中に見られた修復もしくは修復の試みに関してその前後も含め、なぜそのような
 発話をおこなったのか、被調査者の意識。

 

 

 


6章 NMSの発話に対する自己開始修復

 

 ここから、収集した実際の会話データをもとに、具体例に即した分析の記述に入る。本論文では323で示したように、会話の録音データ中に観察されたNMSから開始する修復の例を、

 

        (a) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復

        (b) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復

        (c) MSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復

        (d) MSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復

 

4つに分類する。67では、それぞれのタイプのなかでも異なる複数のパターンをみせる修復組織の過程を分析し、その特徴を考察する。

 

 本章で取り上げるNMSの発話に対する自己開始修復とは、3で示した分類にしたがうと、

        (a) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復

        (b) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復

2つである。(a)は、NMSの発話(の一部)に生じた問題源をNMS自身が指摘し、さらにNMS自身が修復を遂行するタイプである。(b)は、NMSの発話(の一部)に生じた問題源をNMS自身が指摘し、それをうけてMSが修復を遂行するタイプである。いずれにおいても、問題源がNMSの発話に存在しているという点、問題源の産出者であるNMS自身がその問題源の存在を指摘しているという点が、(a)(b)の共通点である。問題源を含む発話の産出者であるNMSが修復を遂行すれば(a)、聞き手であるMSが修復を遂行すれば(b)となる。

 

6-1. (a) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復

 

 Schegloff/Jefferson/Sacks (1977: 377)は、

 

        SELF-INITIATED REPAIRS YIELD SELF-CORRECTION, and
        opportunities for self-initiation come first.

       

と述べ、問題源の産出者が修復を開始した場合、他者修復よりも自己修復のほうに優先性(preference[42]があると主張している。これはMSNMS間の会話でも例外ではなく、本研究で収集したNMSから開始する修復のなかでも、とくに自己開始自己修復はもっとも頻繁に観察される修復であった。以下、(a)のタイプの修復に関する分析を修復の操作ごとにおこなう。

 

6-1-1. 置換

 

 置換は他者修復や他者開始自己修復においても観察される[43]が、ここではまず、自己開始自己修復の操作形式のひとつとして分析する。

 

1 [FS_KS 2:11-12][44]

  11   nmsKS:    =und (-) ich bin ah: (-) ich WOhne:: gegen EIn jahr in
                      
そして         である あー        住んでいる   ほど      1          

                      leipzig

                      ライプツィヒ

                      それに私は、あー私は1年くらいライプツィヒに住んでいます

     12   msFS:     ja=ja

                      うんうん

                      うんうん

 

 11行目でnmsKSは、ich binich wohneとし、binという動詞をwohneという動詞に置きかえている。問題源はich binであり、修復の開始部がah:というフィラー、約0.25秒の沈黙という遅滞をはさんで、ich WOhne::という修復の操作がおこなわれている。この置換の例では、ich(私は)という主語の繰り返しによって、修復された語(bin)と置きかえられたあとの語(wohne)がはっきりと明示される組み立てとなっている[45]

 次の2は、同じframingでもpost-framingが見られる置換である。

 

2 [SA_AT 10:13-14]

     13   msSA:     äh (---) also

                      えー         それじゃあ

                      えー、それじゃあ

  14   nmsAT:    besonders schönes etwas schönes

                      とりわけ       美しい      いくらか 美しい

                      とりわけ美しい、いくらか美しい

 

 14行目でnmsATは、besonders schönesetwas schönesとし、besondersetwasに置きかえている。問題源はbesonders schönesであり、これが発話された直後に修復が開始され、etwas schönesという置換の形式で修復の操作がおこなわれている。ここでは、schönes(美しい)という形容詞が繰り返されることで、これに前からかかっているbesonders(とりわけ)のetwas(いくらか)への置換が明示されており、post-framingの例と考えられる。

 framingは置換であることを明確にする技術のひとつである[46]が、12の置換は、同類の語に対しておこなわれている。つまり、動詞binは動詞wohneに、副詞besondersは副詞的なはたらきをするetwasに置きかえられている。これも、修復される語の位置を明らかにする技術のひとつである[47]

 

文法範疇にかかわる置換

 

 NMSの発話内に存在する問題源の特徴的なものとして、文法上のトラブルである例がしばしば観察される。次の3で観察されるのは、08行目のwohnen(住んでいる)という動詞の活用に関する産出上のトラブルである。

 

 

 

 

 

 

 

 

3 [AT_SA 3:08-09]

  08   nmsAT:    ich wohne (-) äh: ich wohnte in kyoto,

                         住んでいる     えー      住んでいた   京都

                      私は京都に住んでいます、えー私は住んでいました

     09   msSA:     hm=hm,

                      ふんふん

                      ふんふん

     10   nmsAT:    kennen sie, (--) und dro:t (-) °hh u:m (-)

                      知っている あなた        そして そこに              うーむ
     11               berge (-) stimmt; ich empfehle vielleicht, (--) in

                       山々          そうである       勧める       場合によっては           
     12               mitte japan,

                       中央     日本

                       知っていますか?そしてそこに、うーむ、山々、そうだ、場合によっ
                      
ては日本の中部の勧めます

     13   msSA:     hm=hm,

                      ふんふん

                      ふんふん

 

 wohnen(住んでいる)という動詞の一人称現在形はwohne、一人称過去形はwohnteである。nmsATは、08行目でich wohne(私は住んでいる)と発話したあと、0.25秒ほどの間合いとäh:というフィラーをはさみ、ich wohnte(私は住んでいた)と言ってwohnewohnteに置きかえている。ここでは、問題源はwohne、修復の開始部は沈黙であり、その後のäh:というフィラーで遅滞が見られる。修復の操作はich wohnteであり、in kyoto,で終了している[48]in kyoto,kyoto,は上昇イントネーションをともなって発話されており、ここでいったんターンが開かれている。これに続く09行目で、msSAhm=hm(ふんふん)とあいづちをうっている。その後の10行目以降でnmsATが発話を継続していることから、この09行目は08行目のnmsATの発話に対する理解の表明かつ次の発話を促す合図として受け取られていることがわかる。

 この例ではich(私)という主語が繰り返されており、これによって置換された部分がより明確に示されている。さらにここでは、繰り返されたich 08行目の発話の冒頭部であり、かつ平叙文の開始部であったため、3の自己開始自己修復は6-1-2.で述べるやり直しとも類似している。

 

 このような文法範疇の置換は、2回以上にわたっておこなわれる場合もある。次の4は、1つの問題源に対して修復の操作が2度おこなわれた例である。

 

4 [SA_AT 19:21-27]

     21   nmsAT:    GESTERn habe ich aufnahme gemacht mit meinem cellist,

                      昨日     Hilfsv.      録音         した            私の      チェロ奏者

                      昨日私は、私のチェロ奏者と録音をしました            

     22   msSA:     (---) a=ha:;

                              はぁはぁ

                             はぁはぁ

  23   nmsAT:    und ja: (.) nur meine (1.0) so (1.0) billiges (-)

                      そして はい   しか 私の       とても    安い(n.)
 
24               billiger (.) billiges em DI:

                       安い(m.)      安い(n.)  エム ディー

                      そして そう 私のとても安い、安い、安いMDだけ

     25   msSA:     (1.0) a=ja

                              あ そう

                             あーそう

     26   nmsAT:    gemacht=

                      した

                      しました

     27   msSA:     =so

                      そう

                      そう

 

 23-24行目のbillig(安い)は形容詞であるが、形容詞は前に置かれた冠詞類と直後にくる名詞の性に応じて語尾変化する[49]23行目では、meine(私の)という所有代名詞のあとに1.0秒ほどの沈黙があり、so(とても)という副詞をはさんで再度沈黙がおかれたのち、billiges(安い)と発話されている。しかし、その後約0.25秒の沈黙ののちに、これがbilligerという別の活用形によって置換され、さらに非常に短い間合いを置いてbilligesという最初と同じ活用形で置換されている。billiges23行目)という問題源に対して、沈黙が修復の開始部でbilligerが修復の操作部となっているが、ここで修復は完了せず、非常に短い間合いによって再度修復が開始され、24行目のbilligesによって2回目の修復の操作がおこなわれている。続くem DI:によって、一連の修復は完了している。

 注49で述べたとおり、ここではbilligesbilligerも語尾変化に誤りがあり、最終的に文法上正しい活用にはなっていないが、25行目と27行目のmsSAのあいづちから、相互理解の点では会話参加者間でとくに問題とされていないことが観察される[50]

 

 5も繰り返しによって置換部分が明示された自己開始自己修復であるが、1のようなpre-framingではなく、post-framingが観察されるものである。

 

5 [AT_SA 15:11-14]

     11   nmsAT:    nein yakushima nein (-) egal aber (1.5) so ganz süden

                      いいえ 屋久島         いいえ       重要でない しかし      とにかく 完全な

                       いや 屋久島 違う それはどうでもいいけど、とにかくずっと南

  12               u:n d’ dort habe ich (1.0) ah: bin ich letztes jahre
                     
そして   そこに  Hilfsv.             あー  いる      最後の      

                       それで私はそこに、あー私は昨年いる

     13               (---) ende am ende november. da?

                              終わりPräp.+Art. 終わり 11   そこに

                      末、11月末 そこに

     14   msSA:     hm=hm,

                      ふんふん

                      ふんふん

 

 ここで注目したのは、12行目のhabe ichからbin ichへの置換である。habenは、「もっている」等の意味を表す他動詞としても、現在完了時称を構成する助動詞としても用いられる語であるが、ここでは後者として産出されたと考えられる。nmsATは、habe ichと発話したあとに1.0秒の沈黙とah:というフィラーをはさみ、bin ichと置きかえている。ここでは、habe ichが問題源、沈黙が修復の開始部であり、ah:という遅滞が生じたのちにbin ichが修復の操作となっている。ここで、ah:というフィラーは、nmsATがターンを保持する効果をもたらしている。

 3でも見られたように、ここでの修復の連鎖中にも、ich(私は)という主語を繰り返すことによってhabebinに置きかえられたことが明確に示されている。3では、繰り返しの語が修復された部分の前に存在するpre-framingとなっていたが、この5では、繰り返しの語が修復された部分のあとにくるpost-framingとなっている。この2つの発話例を比較した場合に限っていえば、この違いの原因は、前者が「主語―定動詞」という基本的な平叙文の配語になっているのに対し、後者ではdort(そこに)という副詞が文頭に立ったために「定動詞―主語」となって定動詞倒置が起きるという統語上の問題にあると考えられる[51]

 

人称表現にかかわる置換

 

 6の問題源は、23行目のmögen(〜を好む)という動詞の活用に関する産出のトラブルである。しかし、この動詞の活用に際しては、相手に対してどの人称表現を用いるかという言語選択の社会的問題が関わっている。そのため、話し手の意識のなかでおこなわれていることは、上でみた文法範疇にかかわる置換とは少し性格を異にすると推察される。

 

6 [AT_SA 5:23-25]

   23   nmsAT:    ah: was mags’ mögen sie?

                      あー 何  好む    好む(HKF) あなた

                      あー あなたは何が好き、好きですか?

     24   msSA:     eigentlich alles

                      もともとは   全部

                      もともと全部です

     25   nmsAT:    !EIGENTLICH ALLES!=

                      もともとは   全部

                      もともと全部ですか

 

 mögenは、主語が二人称敬称(Sie)現在形の場合はmögenと活用し、主語が二人称親称(du)現在形の場合はmagstと活用する。nmsATは、23行目でいったんmags’と発話しているが、この言葉は不完全なまま途切れており、直後にmögenと言って活用を変えている。このmögenのあとにsie?(あなた)という主語を続け、上昇イントネーションをともなったかたちでこの疑問文を完了させている。この例では、問題源はmags、修復の開始部は言葉の途切れ、修復の操作はmögen、修復の終了部はsie?23行目)である。このNMSによる自己開始自己修復を含む23行目の発話をうけて、聞き手であるmsSA24行目でeigentlich alles(もともと全部です)と答えている。これは、nmsATの発話の意図を理解したことによって可能となる回答であるので、両者の間で相互理解は確保されていると考えられる。

 6で注目すべき点は、23行目の修復が、相手(msSA)の呼称に親称と敬称のどちらを用いるかという言語的な方策の選択に起因することである[52]。また、聞き手であったmsSAは、このようなポライトネスに応じた言語使用の修復に対し、直接的には言及していない。nmsATの質問(23行目)に、24行目で回答しているのみである。

 

音声にかかわる置換

 

 別のタイプの置換として、音声にかかわる置換も観察される。これは、問題源である語(句)とそれが置きかえられた語とが、文法上も意味成分上も同一であり、両者の発音のみが異なるような自己開始自己修復の例である。

 

7 [SA_YM 3:08-11]

     08   nmsYM:    ah: große berühmte fest

                      あー  大きな   有名な       祭り

                      あー、大きな有名な祭り

     09   msSA:     ah=ha,

                      はぁはぁ

                      はぁはぁ

  10   nmsYM:    u::nd in (-) vielleicht in sendai (-) zendai zendai

                      そして           ひょっとすると    仙台             仙台      仙台

                      それから、ひょっとすると仙台に、仙台、仙台

     11   msSA:     (--) zendai,

                             仙台

                            仙台

 

 ここで言及する音韻上の置換は、10行目のsendaiという問題源に対するものである。この問題源に対する修復は0.25秒ほどの沈黙によって開始され、zendaiと発音を変える形式での修復の操作がおこなわれている。

 仙台は日本語で通常「センダイ」と発音するが、ドイツ語では子音sの直後に母音がくる場合、このsは有声化して発音される。そのため、仙台のアルファベット表記であるsendaiは、ドイツ語式に発音すると「センダイ」ではなく「ゼンダイ」となる。

 

 これと非常に似ているケースが、次の8でも見られる。

 

8 [SA_YM 3:27-4:01][53]

  27   nmsYM:    und vielleicht in osaka OZAka

                      そして ひょっとすると    大阪     大阪

                      それからひょっとすると大阪、大阪に

     28   msSA:     hm=hm,

                      ふんふん

                      ふんふん

     29   nmsYM:    kennen sie?

                      知っている あなた

                      あなた知っていますか?

     30   msSA:     ja osaka

                      はい 大阪

                      はい大阪

     31   nmsYM:    gibt es ein berühmt (-) fest im sommer

                      ある unpers.Subj. unbest.Art. 有名な 祭り Präp+Art.

                      ある有名な祭りが夏にあります

     01   msSA:     hm=hm,

                      ふんふん

                      ふんふん

 

 この発話例では、27行目でnmsYMosaka(オオサカ)をOZAka(オオザカ)と置きかえて発音しており、かつ置換後のオオザカには強勢がおかれている。この27行目に対して、聞き手であったmsSA27行目であいづちをうっている。このあいづちが、nmsYMによる自己開始自己修復を含む発話(27行目)に対する理解の表明であることがわかるのは、30行目の発話からである。29行目でnmsYMは、27行目で開始した語りをいったん中断し、kennen sie?(知っていますか?)という質問を挿入して、msSAの大阪に対する知識の有無を確認している。31行目以降は、27行目で開始された語りの連鎖に戻っているため、この29行目の質問はside sequenceとなっている[54]

 

 この78で観察された音韻上の置換は、会話参加者による発話が受け手に合わせたデザイン(recipient design)であるということがとくに顕著な例である。つまりここでは、聞き手がドイツ語MSであるということを考慮したうえで、このような置換がデザインされているのである[55]。また、8では27行目の置換に続いて29行目で理解確認の質問がなされていることから、意思伝達を確実にするような発話の組み立てであると考えられる[56]

 

6-1-2. やり直し

 

 NMSの発話に対する自己開始自己修復のなかには、いったん構築を始めた文あるいは語句を言いさし、それを構築し直す場合がある。この修復の操作形式は、本研究で収集したデータで頻繁に観察された。それらの例を見てみると、言いさした語をもう一度発話して再構築するケースと、言いさした語とは違う語を用いて再構築するケースとが見られることがわかった。

 

言いさした語を繰り返す

 

 まず、いったん発話を始めた語(句)を言いさし、同じ語(句)をもう一度繰り返して再構築する例を見てみる。

 

9 [AW_SM 03:01-02]

  01   nmsSM:    und du: (.) du (willst)  etwa ze:i’ bis drei wochen

                      それから あなた   あなた しよう      おおよそ 2      まで  3      週間

                      それからあなたはー、あなたはだいたい23週間が希望なの

     02   msAW:     (1.0) m::=

                              んー

                             んー

 

 このやりとりは、msAWnmsSMに対して、家族と日本へ旅行に行きたいのだけれど、休暇を過ごすならどこがいちばん良いかと尋ねている場面である。これに対してnmsSMは、01行目で旅行の期間を確認する発話をおこなっている。und(そして)という接続詞のあとにdu(あなたは)といって文を構築し始めているが、このduは音声が引き延ばされたあとに非常に短い間合いをおいて、再度繰り返されている。この2回目のduのあとにwillst(意図・願望等を表す話法の助動詞wollenの二人称現在形)という助動詞を続け、文の構築を再開している。ここでは、問題源はdu、修復の開始部は短い沈黙であり、その後のduの繰り返しで修復の操作をおこない、willstと続けることで修復を完了している。

 

 このような、言いさした語を繰り返しておこなうやり直しを引き起こすきっかけには、他の会話参加者との発話の重複がある場合も多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10 [FS_KS 9:05-10]

     05   nmsKS:    aber schu[mann

                      しかし シューマン

                      でもシューマンは

     06   msFS:                [er gehört] zu den großen (.) das weiß ich
                     
                 一員である best.Art. 大きな        それ 知っている

                                 彼は偉大な人に数えられる、それは知っているよ

     07               ((lacht))

                      ((笑う))

                      ((笑う))

  08   nmsKS:    ((lacht)) aber schumann war (.) äh schu’ schumann hat
                     
((笑う))     しかし  シューマン  であった    えー シュ シューマン Hilfsv.

     09               äh:: leipzig (.) gewoh:::[n (--) t]

                      えー     ライプツィヒ     住んでいた

                       ((笑う))でもシューマンは、えーシュ、シューマンは、えーライプ
                     
ツィヒ住んでた

     10   msFS:                                    [hm=hm’]

                                                     ふんふん

                                                     ふんふん

 

 この10で注目するのは、08行目の冒頭に見られるやり直しである。05行目でnmsKSは、schumann(作曲家のシューマン)という話題の人物の名前を挙げ、発話を開始している。しかし、このschumannの発話の途中でmsFSも発話を始め(06行目)、重複が起きている。ここでは、nmsKSの方が発話を中断し、08行目でaber schumannと繰り返して文構築のやり直しをおこなっている。05行目の問題源aber schumannに対し、08行目のaber schumannが修復の開始部かつ操作部となり、その直後のwar以降で完了されている。

 

言いさした語を繰り返さない

 

 910とは少し異なるパターンで観察されるやり直しは、11に見られるような、言いさした語を繰り返すことなく、別の語(句)で新たな発話を構築するものである。

 

 

 

 

11 [LB_EA 16:01-04]

  01   nmsEA:    und (--) ja (.) kostet manchmal, (2.0) ja es war fünf
                     
そして      そう        値段である ときどき             そう それ だった 5

  02               euro

                      ユーロ

                      それに、そう、ときどき、そうそれは5ユーロだった

     03   msLB:     hm=hm,

                      ふんふん

                      ふんふん

     04   nmsEA:    ja: (-) ((lacht))=

                      そう        ((笑う))

                      そうだ    ((笑う))

 

 01行目でnmsEAは、主語を省略したかたちでkostet(数量を示す語をともなって「値段である」という意味を表す動詞kostenの三人称現在形)と言って、発話をおこなっている。しかし、kostenの統語的性格上、ここではmanchmal(ときどき)という副詞のあとに値段を表す語句がくるのが普通であるが、nmsEAは発話を中断している。その後2.0秒ほどの沈黙があり、ja(そう)という自分に対するあいづちを入れたうえで、es war fünf euro(それは5ユーロだった)という違う文を構築している。ここでは、問題源がkostet manchmal2.0秒という沈黙が修復の開始部と遅滞であり、ja es war が修復の操作でfünf euroで完了している。

 

 次の12は、この遅滞の部分にトラブルの存在を明示する表現が観察される例である。

 

12 [SA_AT 15:03-04]

  03   nmsAT:    ((lacht)) sie war (-) ah: (-) uh: wie heißt (-) ihre

                      ((笑う))      彼女  であった    あー       うー  どのように  呼ばれる 彼女の
 
04               mann ist eine kleine insel gewohnt,

                           Hilfsv. unbet.Art. 小さな       住んでいた

                      ((笑う)) 彼女は、あー、うー、何て言うか、彼女の夫は小さな島住
                     
んでました

     05   msSA:     hm=hm,

                      ふんふん

                      ふんふん

 

 03行目でnmsATは、sie war(彼女は〜であった)と言って発話を開始しているが、その直後に0.25秒ほどの沈黙があり、ah: (-) uh:というように、フィラーと沈黙が交互に観察されている。このあとに、wie heißt(何て言うか)という独り言のような発話がなされており、再度0.25秒ほどの沈黙をおいて、ihre mann ist eine kleine insel gewohnt,(彼の夫は小さな島住んでいました)という文が構築されている[57]sie warという問題源に対して、修復の開始部が03行目の最初の沈黙であり、ah: (-) uh: wie heißt (-)という遅滞を経て、ihre mann ist eine kleine insel gewohnt,という修復の操作がおこなわれている例である。

 03行目のwie heißtという独り言のような発話は、nmsATが抱えている話すうえでのトラブルを、フィラーよりも明示的に表明するものとなっている。また、この発話によって、結果的にnmsATはターンを保持したまま、ihre mann以降で自己修復を成功させている。

 

6-1-3. 挿入

 

 6-1-2.のやり直しのうち、言いさした語を繰り返さないパターンでの修復の操作と少し類似したパターンで現れるものが挿入である。しかしこの場合、修復の操作のあとに不完全に途切れていた発話が繰り返されるため、修復の操作部がはさみ込まれたかたちになっている。

 

13 [LB_EA 21:07-09]

  07   nmsEA:    ver’ paPIER verpackung gibts au’ ä so viele: (.)
                     
ほ、            包装            ある+unpers.Subj. とても たくさんの

     08               papier verpa’ verPAckung sake,

                                ほう、    包装             

                      ほ、紙包装があります、あ、えー、とてもたくさんの紙包装の酒

     09   msLB:     a:SO:

                      あーそう

                      あーそう

 

 この13でまず注目するのは、07行目の冒頭である。ここでnmsEAは、verと言って発話を始めているが、この語は不完全なまま途切れ、paPIER(紙)という語が挿入されたうえでverpackung(包装)と再び発話されている。verという問題源に対して、直後の言葉の途切れによって修復が開始され、paPIER verpackungといって挿入による修復の操作がおこなわれている。ここで操作は完了しているのだが、07-08行目の発話全体を見ると、07行目でさらにso viele:(とてもたくさんの)という修飾語句がつけ加えられたうえでpapier verpa’ verPAckungという修復された語句が繰り返されている。また、この繰り返しのなかにも、再度言葉の途切れが見られる。このように、自己開始自己修復のうち、修復された語句が何度か繰り返される例は頻繁に観察される。

 

 次の14は、挿入された部分が13よりも長いものである。

 

14 [FS_KA 5:27-6:01]

     27   msFS:     okay ((lacht)) °hh ja;=

                      オーケー ((笑う))          そう

                      オーケー、((笑う)) そう、

  28   nmsKA:    =ICH (-) glaube ungefähr::: m:::::: °hh (1.5) ich weiß
                     
          思う      およそ           んー   知っている

  29               es nicht geNAU aber ungefähr (.) zwei stunde mit
                       
それ でない  正確な   しかし  およそ             2      時間       

     30               schnellzug;

                       急行列車

                      私はだいたい、んー、私は正確にわからないけど、急行列車でだいた
                     
2時間

     01   msFS:     i=ja; (--) okay;

                      そう            オーケー

                      そう、オーケー

 

 28行目でnmsKAは、ICH (-) glaube ungefähr(私はだいたい〜だと思う)といって文の構築を開始しており、glaube(動詞glaubenの一人称現在形)が他動詞であるため目的格の副文や語句があとに続くはずである。しかし、ungefährは最後の音が引き延ばされ、m::::::という音声の引き延ばしと吸気のあとに、1.5秒の沈黙が観察される。そのあと、ich weiß es nicht geNAU aber(私はそれを正確に知らないけど)という留保をつけたうえで、ungefährという語を繰り返して28行目で始められていた文の構築が再開されている。

 この自己開始自己修復は先の13と同じ挿入の形式をとっているが、挿入されているのはich weiß es nicht geNAUという一文である。この一文は、28行目でICHによって開始された文の構築とは異なるものであり、このもともとの文の構築に復帰するのは29行目のungefährからである。ungefährという語を繰り返すことにより、挿入された部分と復帰した部分が明確に示されている。

 

6-1-4. 言葉探し

 

 以上見てきた自己開始自己修復は、話すうえでのトラブルが産出され、その問題源について修復の操作がおこなわれたものである。これに対して、話し手が話すうえでのトラブルを抱えつつ、そのトラブルが実際には産出されていないケースが言葉探しである。言葉探しとは、話し手が言わなければならないことをすぐに見出せないときにおこなうものである[58]

 

15 [SA_AT 8:24-25]

  24   nmsAT:    kyoto ist am: °hh alteste stadt,

                      京都     〜である あー    もっとも古い

                      京都は、あー、もっとも古い町です

     25   msSA:     ja,

                      そう

                      そう

 

 24行目でnmsATは、kyoto ist(京都は)と言って文の構築を開始している。ここでは、このist(動詞seinの三人称現在形)に続く語がすぐには産出されず、am:というフィラーと吸気をはさんでalteste stadt,(もっとも古い町)[59]という述語名詞が発話されている。何か具体的な間違いが存在するわけではないが、話し手であるnmsATは産出上のトラブルを抱えており、これに対してam:というフィラーで修復が開始され、息を吸うという遅滞のあとに、alteste stadt,という発話によって修復の操作がおこなわれている。

 

質問文の挿入

 

 言葉探しの際に頻繁に観察されるのが、独り言のような質問文の挿入である。

 

 

 

16 [MR_TT 10:05-06]

  05   nmsTT:    m::: (-) ich ma:g (1.5) was mag (-) ich; (-) zwiebeln
                     
んー             好む                好む                  たまねぎ

  06               und (1.0) kartoffeln;

                      それと          じゃがいも

                      んー、私が好きなのは、私は何が好きかな、たまねぎとじゃがいも

 

 05行目でnmsTTは、m:::という音声の引き延ばしと0.25秒ほどの沈黙をおいて、ich ma:g(私は〜が好きです)という文の構築を開始している。ma:g(他動詞mögenの一人称現在形)のあとには目的語が続くのが普通であるが、ここでは約1.5秒という長い沈黙がおかれたあとに、was mag (-) ich;(私は何が好きか)という自分に対する質問文が発話されている。この質問文のなかにも0.25秒ほどの沈黙があるが、ichのあとにも再び沈黙があり、そのあとにzwiebeln und (1.0) kartoffeln;というmagの目的語にあたるnmsTTが好むものが発話されている。

 この16では、音声の引き延ばしや長短さまざまの沈黙が多く観察され、言葉探しの性格が顕著に見られる。興味深いのは、05行目で長い沈黙があったにもかかわらず、ターンがmsMRに移行していない点である。また、05行目の自問によって、言葉探しをしているということが明確に表明され、結果的にnmsTTがターンを保持することに結びついている。

 

同じ語の繰り返し

 

 言葉探しの場面でよく観察されるものとして、質問文の挿入のほかに同じ語の繰り返しもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

17 [CS_YK 4:19-22]

     19   nmsYK:    und da, (---) ja feiern immer ja (-) wir japaner feiern

                      そして そこで      そう 祝う      いつも  そう     私たち 日本人     祝う
     20               immer diese kirschblütenzeiten dieses party? °hh u:nd

                      いつも   この     桜の花の時期                この      パーティ       そして

  21               ä:m °hhh (--) um diese BEste platz zu: (--) zu: zu
                     
えー                 ために この   最良の   場所     Konj.      Konj. Konj.

  22               beKOmmen,

                      手に入れる

                      そしてそこで、そういつも祝います、そう、私たち日本人はいつもこ
                     
の桜の花の時期を、このパーティを祝います そして、えー、この
                     
いちばん良い場所を取るために、

 

 ここで注目するのは21行目に見られるzu(動詞の不定形にそえてzu不定詞(句)をつくる接続詞)の繰り返しである。21行目のumは、ここではzu不定詞(句)をともなって「〜するために」という意味を表している。このumと結びつくzu不定詞のzuであるが、1回目は音声が引き延ばされ、そのあとに0.5秒ほどの沈黙をおいて2回目も音声が引き延ばされ、次の3回目が発されてからbeKOmmen(手に入れる)という動詞の不定形がきている。

 ここでは、同じ語を繰り返すことによってある特定の語句(beKOmmen)が見出せないことが明示されており、これが結果として、nmsYSのターンの保持につながっている。

6-2. (b) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復

 

 6-1.で述べたとおり、問題源を含む発話の話し手によって開始された修復は、ほとんどの場合、その話し手によって修復の操作が遂行される。このことは、本研究で収集されたデータからも言える。つまり、(b) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復は、(a) NMS発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復と比べると極端に出現頻度が低く、その修復の操作パターンは(a)のパターンよりも少なかった。また、(b)のタイプの修復が単独で現れることはまれであり、(a)の自己開始自己修復などにともなって修復の連鎖を組織する場合が多かった。

 

 

 

 

 

 

18 [SA_AT 4:27-5:02]

     27   nmsAT:    ja und kann man dort eine shönes milch trinken

                      そう そして できる   そこで unbest.Art. すばらしい 牛乳 飲む

                      そうそれにそこでは、あるすばらしい牛乳を飲めます

     28   msSA:     ah=ha,

                      はぁはぁ

                      はぁはぁ

  29   nmsAT:    (weil) direkt von (1.0) ka’ (--) wie heißt es-

                      であるから 直接の    から           う、         どのように 呼ばれる それ

                      直接だから、う、それは何と言う

  01   msSA:     kuh?

                      雌牛

                      雌牛

     02   nmsAT:    kuh ja ja ((lacht))

                      雌牛  そう そう ((笑う))

                      雌牛だ、そうそう((笑う))

 

 29行目でnmsATは、weil(であるから)という従属接続詞によって、27行目で発した主文の原因を説明する従属文の構築を開始している。von(から)という前置詞のあとには冠詞や名詞がくるのが通常であるが、ここで1.0秒ほどの長い沈黙がおかれ、ka’という不完全な発話のあとに再度0.5秒ほどの沈黙が観察される。ここまでのところでこのnmsATの発話(29行目)には言葉探しの性格が現れているが、2回目の沈黙のあとのwie heißt es-(それは何と言う)という質問文によって、何かここで言うべきことが産出されないトラブルを抱えていることが明確にされている。これをうけて、01行目でmsSAkuh(雌牛)という語を発し、続く02行目でnmsATは、kuhの繰り返しとja ja(そうそう)という返事によって肯定を示している。ここでは、ka’という不完全な発話という問題源に対して言葉の途切れによってnmsATが修復を開始し、沈黙という遅滞のあとにwie heißt es-という質問によって問題源の所在が明示されている。これに対して修復の操作をおこなったのは01行目のmsSAであり、次の02行目のkuh ja jaによって、修復は完了している。

 ここで興味深いのは、言葉の途切れによって修復が開始されたあとに、質問文でnmsATが抱えているトラブルが何であるかが明らかにされている点である。また、修復の操作はmsSAによる助け舟によっている[60]が、これが発されたのはnmsATによる問題源の明示のあとであり、その前の言葉の途切れや沈黙の際にはmsSAは何も発話していない[61]ことも、注目すべき点である。さらに、01行目のmsSAによる修復の操作(kuh)は、上昇イントネーションをともなって発話されており、修復案の提示というかたちをとっている[62]

 

6-3. 小括

 

 本章ではNMSから開始する修復の連鎖のタイプ(a)(b)について見てきた。まず全体的に言えることは、上でも述べたとおり、(a) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復と比べて、(b) NMSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復の頻度が圧倒的に低いことである。修復のパターンも、(a)のタイプの修復ではさまざまなものが観察され、それぞれの特徴も分析された。これによって、Schegloff/Jefferson/Sacks (1977)が主張する自己修復の優先性が、本研究のデータでも立証されたことになる。

 この点についてFærch/Kasper (1982)は、自己修復には連鎖という組織のうえでの優先性があるだけでなく、フェイスの観点からも他者修復に対する優先性があると主張している。つまり、他者修復には問題源を産出した話し手のフェイスを脅かす可能性があるため、回避される傾向にあるというのである。

 これについては、本研究でおこなったフォローアップ・インタビューの結果から説明することができる。ドイツ語MSの被調査者のうち、ほとんどの人が「日本人は恥ずかしがりである」というイメージをもっており、そのため「相手が話しているときには、それを中断するようなことはあまりしなかった」と回答している。また、「相手が困っていて上を向いたときには、助け舟を出すようにしていた」と回答したドイツ語MSもいた。このようなドイツ語MSの姿勢は、NMSによって開始された修復がほとんどNMS自身によって操作されており、NMS開始MS修復の頻度がNMS開始NMS修復に比べて非常に低かったことに結びついていると考えられる。

 また、日本語MSのほうからは、「自分のドイツ語に対する不安があるから、頻繁に言葉を言いかえたり言い直したりする」という回答が多く聞かれた。これはNMSによる自己開始自己修復の頻繁さと一致するものであり、たとえば、1つの問題源に対して2回以上修復の操作をおこなうことの裏付けにもなるものである。これと同時に、もう一方では「ドイツ語に自信はないものの、その限られたなかでもいろいろな表現の仕方ができるということを相手に伝えたい気持ちもある」という回答も多かった。これも、自身の発話中の問題源を自ら指摘し、修復の操作を試みるという行為の背後にある、NMSの意識のひとつのようである。

 以上のように、日本語MSに対するドイツ語MSの配慮と、日本語MS自身の不安と自負が、これまで見てきたNMSの発話に対する自己開始修復の背後に存在すると考えられる。

 


7章 MSの発話に対する他者開始修復

 

 次に、本論文の2つ目の課題であるMSの発話に対する他者開始修復について、詳しく見ていく。本章で取り上げるMSの発話に対する他者開始修復とは、3でおこなった分類にしたがうと、

 (c) MSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復

 (d) MSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復

2つである。(c)は、MSの発話(の一部)に生じた問題源を聞き手であるNMSが指摘し、問題源の産出者であるMSが修復を遂行するタイプである。(d)は、MSの発話(の一部)に生じた問題源を聞き手であるNMSが指摘し、NMSが修復を遂行するタイプである。いずれにおいても、問題源がMSの発話に存在しているという点、問題源の受け手であるNMSがその問題源の存在を指摘しているという点が、この2つの共通点である。問題源の産出者ではなく受け手が指摘するということは、話し手の発話を聞く/理解するうえでトラブルを抱えており、そのトラブルの存在を会話という相互行為のなかで明らかにするということである。

 

7-1. (c) MSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復

 

 Schegloff/Jefferson/Sacks (1977: 376)は、

 

        Furthermore, in the case of those repairables on which repiar is initiated,
        but not in same turn or transition space, OTHER-INITIATIONS
        OVERWHELMINGLY YIELD SELF-CORRECTIONS.

 

と述べ、聞き手によって開始された修復の連鎖は圧倒的に自己修復に終わるとされている。本研究のデータを見ても、MSの発話に対するNMS開始修復のなかでは、他者修復(=NMS開始NMS修復)より自己修復(=NMS開始MS修復)の方が頻繁に見られた。

 

7-1-1. 非限定的な修復の開始

 

 MSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復は、本研究では大きく2つに分けて分析する。まずは、問題源の位置や種類を特定せず、先行するターン全体をトラブルとして扱う[63]、非限定的な修復の開始である。

 

19 [MR_TT 3:26-4:01]

     26   nmsTT:    nicht grillen- sondern braten;

                      でない   グリルする   Konj.      焼く

                      グリルするのではなくて、焼く

     27   msMR:     hm=hm in der pfanne,

                      ふんふん なかで best.Art. フライパン

                      ふんふん フライパンでね

  28   nmsTT:    (1.0) ä?

                            

                            

  29   msMR:     äh: in der pfanne, oder=

                      えー なかで best.Art. フライパン もしくは

                      えー、フライパンで、それとも

     30   nmsTT:    =ja=ja im (.) pfanne

                       そう そう なかで(Präp.+best.Art.) フライパン

                      そうそうフライパンで

     01   msMR:     a=a a

                      はぁはぁ

                      はぁはぁ

 

 この19は、msMRnmsTTが料理の話をしている一部分であり、26行目でnmsTTnicht grillen- sondern braten;((薄く切った肉を)グリルするのではなくて焼きます)と説明している。これに対して、msMR27行目でhm=hm(ふんふん)と理解を表明したのち、少しはっきりしない声でin der pfanne,(フライパンで)と発話している。しかも、このin der pfanne,は中程度の上昇イントネーションをともなっており、nmsTTの発話(26行目)について理解候補を提示[64]したかたちで聞き返しをおこなう、極めて限定度の高い修復の開始となっている[65]。このmsMRの発話(27行目)が、聞き手のnmsTTにとっては聞くうえでの、もしくは理解するうえでのトラブルとなり、28行目で1.0秒ほどの長い沈黙をおいてä?(え)という非限定的な聞き返しによって修復が開始されている[66]。つまり、この聞き返しによってトラブルとされたのは先行するターン全体(27行目)であり、28行目の聞き返しでは、問題源が特定されていないということである。これに続く29行目でmsMRは、äh:(えー)というフィラーののち、in der pfanne,(フライパンで)といって27行目のあいづち以降の発話を繰り返している。このin der pfanne,29行目)も上昇イントネーションをともなって発話されており、さらに直後にoder(それとも)という「二者または他者間で選択が可能であることを示す」(国松ほか 2000)接続詞がきている[67]。このoderと密着するかたちでnmsTTja=ja(そうそう)という肯定のあいづちをうっており、im (.) pfanne(フライパンで)[68]という繰り返しも続けて、msMRの発話に対する理解を表明している。nmsTTによる修復の開始に注目すると、27行目のin der pfanne,が問題源、28行目の(1.0) ä?が修復の開始部、29行目のäh:が遅滞であり、その直後のin der pfanne, oderが修復の操作、30行目のja=jaが修復の完了となる[69]

 

7-1-2. 限定的な修復の開始

 

 MSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復のもうひとつのタイプは、先行するターン中の問題源の位置や種類を特定する[70]、限定的な修復の開始である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20 [SA_AT 18:3-22]

     03   nmsAT:                 [danke] °h äh: und woher komms’=

                                   ありがとう      えー  そして どこから 来る

                                   ありがとう、えー、それからどこ出身

     04   msSA:     =ich komme aus TÜhring’ (---) [also]

                           来る     から  テューリンゲ、        つまり

                       私はテューリンゲンの出身、つまり、

     05   nmsAT:                                        [a::]

                                                           あー

                                                           あー

     06   msSA:     JEna

                      イエナ

                      イエナ

     07   nmsAT:    a::=

                      あー

                      あー

     08   msSA:     =ich bin in jena (geboren) [und ich hab dort auch]

                        Hilfsv.  イエナ  生まれた       それから  Hilfsv. そこで  

                       私はイエナ生まれで、そこで

     09   nmsAT:                                    [a: schön]

                                                       あー よい

                                                       あーいいですね

     10   msSA:     studiert;

                      大学で勉強した

                      大学にも行きました

     11   nmsAT:    A:;

                      あー

                      あぁそう

     12   msSA:     (und) nach leipzig (gezogen)

                      そして      ライプツィヒ   引っ越した

                      そしてライプツィヒに引っ越しました

     13   nmsAT:    a:

                      あー

                      あぁ

     14   msSA:     (--) ja

                            はい

                            はい

     15   nmsAT:    gut

                      良い

                      そうですか

     16   msSA:     als’ ich hab dort die: zwei semester- japa[nisch-]

                      それで   Hilfsv. そこで  best.Art. 2  学期           日本語

                      それで私はそこで2学期間日本語を

     17   nmsAT:                                                       [a:]

                                                                          あー

                                                                          あー

     18   msSA:     studiert-

                      勉強した

                      勉強しました

  19   nmsAT:    e in jena?=

                       イエナ

                      え、イエナで

  20   msSA:     =in jena

                        イエナ

                       イエナで

     21   nmsAT:    [a::]

                      あー

                      あぁ

     22   msSA:     [ja]

                      はい

                      はい

 

 20は比較的長い断片であるが、ここで注目する修復の開始は19行目である。1618行目でmsSAは、als’ ich hab dort die: zwei semester- japa[nisch-] studiert-(それで私はそこで2学期間日本語を勉強しました)と発話しているが、これに対してnmsATは理解するうえでのトラブルを抱え、19行目で聞き返しをおこなっている。この19行目の聞き返しは、e in jena?=(え、イエナで)という理解候補を提示するものであり、上昇イントネーションをともなっている。これによって、nmsATが抱えているトラブルがdortという場所を表す副詞の指示の問題であることが明らかになっており、jenaという具体的な候補を提示することで、非常に限定度の高いかたちでの修復開始となっている。ここでnmsATが理解候補としてin jenaを提示することができたのは、03行目に始まるmsSAの出身地に関する話のなかで、msSAがイエナの生まれでそこで大学にも行っていたことに言及されていたからである。19行目のin jena?という聞き返しは、12行目でmsSAがライプツィヒへ引っ越したことに言及しているため、16行目のdortの指示対象がjenaであるのかleipzigであるのか混乱したことに起因すると考えられる。続く20行目で、msSA=in jena(イエナで)という繰り返しによって、nmsATの挙げた理解候補(19行目)が妥当であることを示している。この繰り返しが前の19行目と密着していることから、19行目のnmsATによる聞き返しは的確なものであり、そのためmsSAにとってもすぐ修復できたことがうかがえる。問題源は16行目のdort(そこで)であり、19行目のe(え)という会話の進行をせき止める発話とin jena?という理解候補の提示が修復の開始部、20行目のin jenaという繰り返しが修復の操作であり、21行目の[a::]という修復に対する理解の表明でこの修復の連鎖は完了している[71]

 

7-2. (d) MSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復

 

 7-1.で述べたとおり、聞き手によって開始された修復の連鎖は圧倒的に自己修復に終わるとされている。頻度は低いながらも、本研究で収集したデータのなかにもMSの発話に対するNMSの他者開始他者修復が観察された。修復の操作の形式によって、次の2つのパターンに分けることができた。

 

7-2-1. 言いかえ

 

 まずは、先行するMSの発話中にNMSがトラブルを見出し、MSの発話あるいは発話の一部を言いかえることで修復をおこなうパターンである。

 

 

 

 

 

 

 

21 [LB_EA 14:27-15:03]

     24   msLB:     =aber (-) hm (1.5) na=ja GUT (wir warn) auch schon in

                       しかし       ふん          いやまぁ いい  私たち  いた         すでに   
     25               städten auf dem (campin’)platz=

                       町(Pl.  上で  best.Art. キャンプ場

                      でも、ふん、いやまぁ、私たちはもういくつかの町でもキャンプ場に
                     
いました
     26   nmsEA:    =((lacht))=

                       ((笑う))

                       ((笑う))

     27   msLB:     =aber das war in skandinNAvien (da) [ist das]

                       しかし それ  であった スカンディナビア あそこ     である それ

                       でもそれはスカンディナビアだった、あそこは

     28   nmsEA:                                               [a:::]

                                                                  あー

                                                                  あー

     29   msLB:     alles so bisschen- (-) ah: °h na=JA: (-) gRÖßer oder-=
                     
すべて  とにかく 少し            あー      いやまぁ       より大きい もしくは

                      すべてがとにかく少し、あー、いやまぁ、より大きいというか

  30   nmsEA:    =ja viel platz,=

                       そう たくさんの 場所

                       そうたくさんの場所

     01   msLB:     =ja=ja viel platz genau ((lacht))=

                       そうそう たくさんの 場所 そのとおり ((笑う))

                       そうそうたくさんの場所、そうです((笑う))

     02   nmsEA:    =ja=ja

                       うん うん

                       うんうん

     03   msLB:     (---) ja: (1.0) (genau)

                             そう            そのとおり

                             そう、そうです

 

 この21も少し長い断片であるが、まず注目するのは30行目である。これは、先行するmsLBの発話(24,25,27,29行目)をうけて、とくに29行目のgRÖßer(より大きい)がもつ意味内容をviel platz,(たくさんの場所)と言いかえて他者修復をおこなったものである。続く01行目では、msLBja=ja(そうそう)という肯定のあいづちをうち、viel platzという繰り返しをおこない、さらにgenau(そのとおり)という相手の主張に対する全面的賛同を示し、非常に積極的に修復の受け入れを表明している[72]。そのあとの02行目では、nmsEAja=jaと肯定のあいづちをうっており、次の03行目でもう一度msLBja:(そう)と肯定し、1.0秒の沈黙のあとで再度genauといって賛同を示している。

 このmsLBの発話に対するnmsEAの他者開始他者修復(30行目)は、まず=ja(そう)という肯定を示す語から始まっている。また、これに続くviel platz,は上昇イントネーションをともなって発話されている。なぜこのようなかたちをとっているかということは、フェイスの問題と関連づけて説明できる。Færch/Kasper (1982)によれば、成功しなかった発話(an unsuccessful utterance)は話し手のフェイスを脅かす可能性があり、そのため他者開始他者修復の場合には、しばしばフェイスを守る(face-saving)慣行が観察される。それが、この21に見られるja(そう)という相手の発話に対する肯定のあいづちと、上昇イントネーションによって修復の提案(a repair suggest)としてデザインされた修復の操作である。

 また、なぜ30行目のこのタイミングで修復がおこなわれたかということは、先行するmsLBの発話中に、0.25秒ほどの沈黙やah:というフィラー、°hという吸気やna=JA:という遅滞(いずれも29行目)が存在していることに起因する。これらの要素が、msLBの発話に一種の言葉探しのような性格をもたせたことによって、30行目でnmsEAによる他者開始他者修復を導く一因になったと考えられる。

 

7-2-2. 語の付加

 

 もうひとつは、先行するMSの発話中にNMSがトラブルを見出し、MSの発話に語(句)を付け足すことで修復をおこなうパターンである。

 

 

 

 

 

 

 

22 [MR_TT 8:11-17]

     11   msMR:     (aber) sch’ (-) schweinebauch dünn geschnittene,

                      しかし    ぶ、         豚バラ                薄い    切った     

                      でも薄く切ったぶ、豚バラ

     12   nmsTT:    hm=hm,

                      ふんふん

                      ふんふん

     13   msMR:     sojasoße zucker-

                      しょうゆ     砂糖

                      しょうゆ、砂糖

  14   nmsTT:    (1.0) ingwer-

                             生姜

                             生姜

     15   msMR:     ingwer-

                      生姜

                      生姜

  16   nmsTT:    bisschen sake vielleicht-

                      少し               場合によっては

                      場合によっては少しお酒

     17   msMR:     bisschen sake-=

                      少し        

                      少しお酒

 

 この22は、nmsTTが紹介した生姜焼きの作り方について、msMRが材料を復唱している場面を切り取ったものである。ここで注目するのは、14行目のnmsTTによるingwer-(生姜)という他者開始他者修復である。これは、msMR13行目でsojasoße zucker-(しょうゆ、砂糖)と発話したあとに、約1.0秒という長い沈黙が生じたために、nmsTTingwer-と言って助け舟を出したかたちになっている。しかし、先行するmsMRの発話(13行目)には修復の開始部にあたるものが見当たらないので、nmsTTによる他者開始他者修復と考えた。14行目のnmsTTに続く15行目では、msMRingwer-と繰り返しており、これが理解の表明となっている。次の16行目では、bisschen sake vielleicht-(たぶん少しお酒)という、nmsTTのさらなる修復も観察される。このあとにも、msMRbisschen sake-という繰り返しをおこなっている。

 227-2-1.21と異なる点は、MSの発話中の要素を言いかえているのではなく、MSの発話を補っているということである。しかし、ここで他者開始他者修復がおこなわれた原因のひとつに先行するMSの発話に言葉探しのような性格が見られるということは、両者に共通している点である。また、この22は日本料理が話題になっている場面であり、nmsTTが日本料理についてmsMRに説明しているという構図が背景にあることも、このような修復の現れ方に関係していると考えられる。

 

7-3. 小括

 

 NMSから開始する修復の連鎖のタイプ(a)(b)について分析した6に続き、本章ではNMSから開始する修復の連鎖のうち、MSの発話が対象となるタイプ(c)(d)について見てきた。7-1.の冒頭でも述べたとおり、問題源を含む発話の次のターンで開始される他者開始修復の場合でも、他者修復に対する自己修復の優先性が存在している。このことは、(c) MSの発話内の問題源に対するNMS開始MS修復と比べて、(d) MSの発話内の問題源に対するNMS開始NMS修復の頻度が低いことからも、本研究のデータにも当てはまっていると言える。

 同様に、本章で扱ったNMSによる他者開始修復の例は、6NMSによる自己開始修復の例よりも出現頻度が低かった。これも、会話中に問題源が生じた場合、それに対する修復を開始する機会が最初に与えられるのが問題源と同一のターンであるため、他者開始よりも自己開始に優先性があるということを立証するものである。

 この点についても、フォローアップ・インタビューの結果から説明することができる。日本語MSの被調査者のなかには、「相手の発話に対して聞き返しをしたり、自分が理解できないことを相手に伝えたりすることにためらいがある」ということや、「相手の言っていることがわからなくても、うなずくことも多い」と言う人が多かった。このような姿勢は、NMSによる他者開始修復が比較的少ないことの背景のひとつになっていると考えられる[73]。その一方で、6-3.で述べたように、日本語MSには自分のドイツ語の可能性を相手に伝えたいと感じる面もあることも事実であり、他者開始修復の背景にはこのような自負もあると考えられる。

 また7-2.については、日本語の対話の特徴として、1つの発話を話し手と聞き手の2人でつくっていく「共話」の性格が強いことが挙げられる[74]。とくに7-2-2.のように、MSの発話を引き継ぐようなかたちでおこなわれるNMSの他者開始他者修復には、この日本語に特有な話し方の影響もあるように推察される。

 


8章 複数の修復を含む一連の発話に見られるNMSから開始する修復

 

 67では、3で詳述した修復の分類にしたがって、それぞれのタイプに見られる修復の過程について分析した。本章では、4で本研究の課題として設定した

 

III.     複数の修復を含む一連の発話中で、NMSから開始する修復は、相互理解の問題に関してどのような過程で意思疎通を導いているのか

 

に答えるために、複数の修復を含む一連の発話、とくに相互理解の問題が顕著に現れている例について観察する。

 本研究で収集したデータを見てみると、それぞれのタイプの修復が単独で現れる場合だけでなく、複数の修復が相互に関係しあって1つの連鎖を組織する場合が頻繁に観察される[75]。また、1で定義したとおり、相互理解とは相互行為の過程で産出される会話参加者の解釈の一致であり、この相互理解は修復の分析によって観察可能となるものである。逆にいえば、会話参加者が話したり聞いたり理解したりするうえでのトラブルを明らかにし、それを取り除くための装置である修復のメカニズム[76]は、相互理解の確保/促進という機能を果たすものである。

 Weber (2002)によると、会話はルーティンであると同時に、障害に対して脆弱である。そのため、会話参加者は会話のルーティン性を保持したまま、相互理解の問題をルーティン化して処理しようとする。そのメカニズムが修復である。ルーティン化された修復行為のおかげで、たいていの場合、会話参加者は相互理解の問題を「問題のない問題(unproblematisches Problem[77]」として克服できる。しかし、会話中にはルーティン化されたやり方では解決が困難な「問題のある問題(problematisches Problem)」も存在する。本章では、このような「問題のある」相互理解の障害が存在する一連の発話を例に、意思疎通の確保とNMSから開始する修復との関係性を分析する。

 次の23は、ある1つの問題源をめぐって、約45秒にわたって複数の多様な修復の連鎖が観察されたものである。

 

 

23 [SA_AT 8:20-9:18]

     20   msSA:     was w’ was gibt es noch was man sich unbedingt mal

                                ある   unper.Subj. まだ するもの RP 絶対の いつか    
     21               angucken soll was du empfehln’=

                       みる         するべき    あなた 勧める

                      絶対みるべきものは、ほかに何、な、何がありますか あなたは何を