2010年度森基金 研究成果報告書
研究題目名:『楽曲構造および視聴履歴を基にした楽曲推薦手法の研究』
慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 廣瀬隼也
学籍番号 : 81025336
研究概要
本研究の主題は,日々増加している音楽コンテンツからユーザの趣向に即した音楽を抽出することを目標としている.作曲環境の低価格化,公開環境の整備と増加に伴い,音楽コンテンツが止まることなく増え続けている.それにおいて,それらの検索や推薦を可能にするためのコンテンツの内容に即したメタデータの重要性が叫ばれている.推薦システムを実現するための方法としてコンテンツベースフィルタリングがあるが,音楽においてはジャンルやアーティスト,演奏された場所などの情報を用いたり,波形そのものの類似度を測る手法があるが,音楽の構造そのものを用いる研究は多くはない.また波形そのものを用いる場合,単純に分類を行おうとすると環境音や楽器の個々の特徴,演奏者の特徴など変数が細かく,周波数やノートで分類しても次元数の多さなどから過学習が生じやすい.また西洋楽曲はメロディー・ハーモニー・リズムに分けられるが,それをまとめて扱っているために正しい変数の選定が難しい.そこで,ノート情報をコード情報へと一段抽象化し、ハーモニーのみから特徴抽出すればいいのではないか.
本研究では,音楽におけるコードの遷移情報をネットワークにおけるノードやエッジとして捉えることで、音楽構造に基づいた類似度計量器を作成・評価を行う.
活動概要
プロジェクトにおける発表
- 先行研究の調査
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X. Liu, C.K. Tse and M. Small, "Complex network structure of musical compositions: Algorithmic generation of appealing music," Physica A, pp.126-132, 2010.
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Jonathan T.Foote, "Content-Based Retrieval of Music and Audio", Multimedia Storage and Archiving Systems Ⅱ, Proc. of SPIE, Vol.3229, pp.138-147, 1997.
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Hevner.K, "Experimental Studies of the Element of Expression in Music", American Journal of Psychology, vol.48, pp.246-248, 1936
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岩宮 眞一郎著, 日本音響学会編, 「音色の感性学ー音色・音質の評価と構造」, コロナ社, 2010
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ネットワーク抽出機構及び,類似度計量方法の定義.現在実際に集めたMIDIデータを基にテストを行なっている.
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ランキング評価方法の定義
- 各曲ごとに類似量を算出し,順位付けを行う
- 各順位の曲に対し、理想の順位と算出後の順位の差に対して理想の順位が持つ重みを掛け,生成された値から現在の順位にそった重みの列ベクトルを作成.
理想の順位が持つ重みとしては、実験時に用いた曲の総数から順位数を引いた数とした.これは今回の場合,順位の正確性を測る際には上位の誤差を減らすことが重要だと考えたため,上位の誤差に関しては罰則を強くする式となっている.
- 生成した列ベクトルとベクトルの原点からのユークリッド距離から,生成された順位の正確性を評価する.理想の順位と生成された順位が完全に一致した場合その値は0となる.
今回ご援助頂いた2010年度森泰吉郎記念研究振興基金「研究育成費」は,自身の分野理解及び実験環境の整備のために機器購入費や計算幾何学関連書籍,ネットワーク理論を基にした実践活動関連書籍の購入にあてた.このような経済的支援のおかげで分野に対する基礎体力を経てネットワーク理論の領域や音楽推薦の領域の広大さを知ることができた.この場を借りて御礼申し上げます.