2010年度 森泰吉郎記念研究振興基金「研究育成費」研究成果報告書

政策・メディア研究科

修士2年 柏國芳

             

「日本人社会」再編

―契機としての在日新華僑:池袋「中華街」問題を事例に―

 

問題の所在

 

アメリカ、カナダなど欧米諸国においては、優秀な人材確保のため、移民政策を国家戦略と位置付け、行ってきた歴史がある。特にアメリカは、留学生などの受け入れを通じ、世界各国より優秀な人材を得ることに政策的重点を置くことで、多方面における国家規模での成長に大きく寄与してきた。それに対し、日本は長期に渡って移民の受け入れが極めて少なく、外国人の居留においても厳しい制限がなされてきた。

しかし、グローバル化の進展に伴い、外国人に対する規制や制限は、国際化進展の面においては障害となる。日本においても、戦略的な人材獲得のため外国人留学生の日本での就職を、排除的な姿勢から奨励する姿勢へと移行しつつある。

近年、平均寿命の長さ、高齢者数の多さ、高齢化の速さという三点において、日本は世界一の高齢化社会といえる。公式に発表された統計資料によると、20109月現在65歳以上の人口は前年より46万人多い2944万人となり、総人口に占める割合は23.1%と過去最高記録を更新した[1]。そして2005年の国勢調査による確定値を基に計算した結果、同年の出生率[2]1.26人であり、過去最低となった。よって、総人口の減少が始まっている。2005年には同年の労働力人口は6650万人であったが、少子化が続いた場合、2030年には2006年と比較して1070万人の労働力が減少すると予測される[3]

こうした著しい少子高齢化要因より、労働力不足を補うための外国人労働者導入も、議論の焦点となっている。海外からの移民問題、特にアジア諸国からの移住者に関する問題は、経済力維持の面における国家戦略と、移民増加が及ぼす日本社会への影響との両面において、より一層大きな焦点として浮かび上がることになるであろう。

それにもかかわらず、以上のような状況の下で、1980年に入ると、それまでのオールドカマーとは異なる新しい外国人労働者が続々と日本に流入するようになったのである。その後、外国人の入国への規制はますます緩和されており、日本における外国人の人口数が年々増加している。外国人登録数は1990年に約98万であり、2000年は169万人台に近く、さらに2009年の末には2,186,121人となった[4]。これはすでに日本の総人口の1.7%に相当する。

しかし、従来外国人に対し保守的であるため、日本国内、特に地域社会において移民受け入れ体制が万全であるとは言い難い状況にある。ここでは、本研究の問題意識である「移民を受け入れざるをえなくなる日本おいて、増えつつある外国人住民と日本人住民はどのように共存をはかるか」と提起する。さらに言うと、「外国人移住者はどのように現地社会へ溶けこむべきなのか?」、「現地住民はどのように外来者を受け入れるべきなのか?」といった点である。

人材確保といった目的で、今後日本社会において労働政策や社会保障などを含めた定住外国人の生活安定化の促進は重要な問題になる。

 

研究概要と目的

 

本研究はグローバル化と共に少子高齢化しつつある日本において近年増えている外国人移住者が、現地の住民とどのように共生・共存しているかを明らかにするとともに、今後の日本社会のあるべきすがたを検討しようとするものである。

著しい少子高齢化により、労働力不足を補うための外国人労働者導入をめぐる問題に多くの関心が集まっている。1980年に入ると、それまでのオールドカマーとは異なるニューカマーと呼ばれる外国人が続々と日本に流入するようになった。

従来、日本社会は、外国人に対し保守的であるため、日本国内、特に地域社会において移民受け入れ体制が万全であるとは言い難い。しかし人材確保という側面において、今後労働政策や社会保障政策などを含めて定住外国人の生活安定を促すための政策の検討が求められている。既に労働人口減少の時代に至り、また総合国力の一部である科学技術を担う理系人材の不足など、現在の日本は国力増強のための移民政策の転換点にあると言ってもいいだろう。

考察にあたっては、1970年代の日中国交正常化や改革開放政策以降来日した新華僑・華人となった人々が、異国である日本社会において、どのように日本社会へ溶け込んできたのかを明らかにする。検討事例として、近年形成されつつある池袋にある新華僑コミュニティを取り上げる。彼らがいかに地元住民と共生・共存をはかってきたのかを明らかにする。2008年も新華僑は池袋で「東京中華街」設立構想を立ち上げ、推進するための促進会を発足させた。これによって新華僑は地元の商店街や住民と軋轢が生じ、さらにメディアが報道したことにより、「東京中華街」設立構想は日本社会に大きな影響をあたえた。この「東京中華街」問題をめぐっての各アクターの取り組みを明らかにすることは、今後、類似した問題が発生した際の問題解決のための有力な参考事例となるであろう。加えて、同問題をめぐる各アクターの行動とその結果は、日本社会において、古くから地域に居住する住民と外来移住者との共生の道を模索するうえで重要な示唆を提供してくれるはずである。この問題は、今後の日本の移民政策を検討する上で非常に重視すべき事例であろう。

 

活動報告

 

本研究は外国人の流入、定住化がホスト社会にもたらす影響について明らかにすることを課題として設定する。研究対象として、池袋において近年形成されつつある新華僑コミュニティに焦点を与え、「東京中華街」設立構想をめぐる問題を考察する。本研究では主に現地調査を行い、研究を進めていく。

 筆者は200912月から201011月まで平均月23回程、研究対象に対して聞き取り調査を実施した。具体的には、中国系店舗と日系店舗の持ち主・従業員や「東京中華街」促進会メンバー、商店街会長、商店街連合会事務局職員、豊島区区役所の係長、新華僑住民、日本人住民などへのインタビューを行った。

 

 森泰吉郎記念研究振興基金「研究育成費」のおかげで、2010年の研究活動は順調に行われた。誠に有難うございました。

 

 



[1] 「統計からみた我が国の高齢者―「敬老の日」にちなんで」総務省統計局、2010919日発表。

[2] ここでの出生率は合計特殊出生率である。合計特殊出生率とは、人口統計の指標で、一人の女性が一生に産む子供の平均数を指す。この指標によって、異なる時代、異なる集団間に出生による人口の自然増減を比較・評価することができる。

[3]30年に1070万人減=労働力人口、昨年比で―厚生労働省」時事通信、20071128日。

[4] 『在留外国人統計入管協会、各年版。