研究成果報告書

    政策・メディア研究科修士課程1年 GRプログラム所属 小山 泰祉

 

研究テーマ

貴基金には「グラミン銀行とアクシオンにおけるマイクロファイナンスの比較研究」として、テーマを変更したが、現在は「『社会的企業』の政治化の研究〜グラミン銀行とBRACを事例に」に変更した。また、貴基金を戴いて行った研究活動は「バングラデシュの同銀行の活動におけるフィールドワーク調査」である。

 

語句説明

@    マイクロファイナンス(以下MF):これまで融資の対象ではなかった貧困層向けの金融手法貧者のエンパワーメントを促進するものまたは貧困を絶滅させる手法として世界中から注目を集めている。営利目的でしか成り立たないと言われていた金融業に対して与えたイノベーション的価値は大きい。本レポートで扱うグラミン銀行とBRACは共にマイクロファイナンス機関(以下MFI

Aグラミン銀行:世界で最も有名と言われるマイクロファイナンス機関または社会的企業。2006年に貧困層に対するボトムアップを行ったとして、同銀行と設立者のムハマド・ユヌスはノーベル平和賞を受賞した。1976年にマイクロファイナンスを開始。ダッカに本店がある。

B    BRAC:グラミン銀行と同じくバングラデシュで活動している、マイクロファイナンス機関または社会的企業。設立年は1972年。マイクロファイナンスは設立と同時に行われ、グラミン銀行より先んじてマイクロファイナンスを行った。融資人数、融資地域、融資規模はほぼ同程度でバングラデシュ最大のNGOと言われる。グラミン銀行と同じく「バングラデシュ3大NGO」の一つと言われる。グラミン銀行同様にダッカに本店がある。

 

変更理由

@  現実性→前回のテーマでは範囲が広すぎて修士2年では終わらない可能性が大きく、議論が収集しない恐れ。

A  整合性→社会的企業が行う業務は各種様々でそれを単に比較するのでは木に竹を接ぐような論文になる恐れ。ある程度、事業、ミッションに共通項がなければ科学的な比較が出来ない可能性。

B  妥当性→この両機関におけるミッション、事業、設立背景に共通項があり、MFIにおける影響力が大きいにも関わらず、その性質に異なる点が多いにあり、研究目的を果たすための比較対象として妥当であると判断した。

C  意義性→これも後に説明するが、日本において社会的企業研究は欧米に比べ遅れており2000年代に盛んになったとされ本研究分野はまだ萌芽的分野である。(例えば、谷本2006、塚本ら2008)また、筆者の建てた仮説が昨今注目されるグラミン銀行に対する新たな理解をもたらすことができるのでは考え、上記要因により本研究の意義性は高いものと判断した。

 

研究成果

 貴基金を戴いて行った研究概要とその成果は以下の通り。

 

概要

滞在期間2010813日〜915

 

滞在場所メヘルプール県ガンニ群カラムディ村

 

滞在目的研究対象である「グラミン銀行」「BRAC」の借り手と貸し手の意識調査をすること

 

 

なぜ上記地域を選出したか。メヘルプール県がバングラデシュの中でも貧しい地域であり、極小値としてのデータを取るのに有効性があったと考えられるため。また、既に日本側のNGOとカウンターパートの間に20年に及ぶ信頼関係が蓄積されており、1か月という短期間のFWにおいてはこのような条件がインタビューに有利に働くため。上記2点が主な理由である。

 

調査地域詳細カラムディ村(人口1万人)を形成する12のパラ(村落)の内6つのパラを訪問。後は、グラミンとBRACのメヘルプル支店を訪問。

 

調査対象:

     @グラミンとBRAC以外から融資を受けて

      60

     Aグラミン銀行借り手20

     BBRAC借り手20

     Cグラミン銀行バムンディ支店長

     DBRACマイクロファイナンス部門バム

      ンディ支店長

    DMFI営業員

     計103人(ただし、重複あり

 

どのような質問をしたのか。:

@構造型インタビュー

Ex:名前、年齢、性別、月収、○○は好きか嫌いか、今後も○○を利用したいか・・・等

A半構造型インタビュー

Ex:○○に対してはどのような印象を持っているか。なぜそのような印象を抱くのか。その印象を抱くに至ったきっかけは何か。

今後その印象がどのような影響を与えると思うか・・・等

 

研究成果

どのようなデータが得られたか。

@借りているか否かに関わらず圧倒的多数の村人は、両MFIに対して良い印象を持っているが特別に何か感謝しているというわけではなかった。

A現在バングラデシュの農村ではMFが盛んであり各々の機関は顧客獲得のため競争している。

BMFのおかげで貧困層の購買力が高まり、生活改善につながっているのは確か。その使い道は車購入農具購入といった短期的用途から、学費、商売への投資など想定以上に多彩である。

D    い貸しがグラミン銀行に見られたが、そのあり方が不明瞭であった。

E    買力は高まったが情報インフラ格差が生まれ借り手の年代では旧来型の情報源に頼る傾向にあるため、そこに依拠した借り手と貸し手の情報の非対称性が発生している。

 

小括

@追い貸しの実態が不明瞭なことから、グラミン銀行の企業ガバナンスがBRACより脆弱なイメージを持った。

A貸し手と借り手の力関係は、両機関とも研修、上部からの指示、また他機関との競争激化がインセンティブとなって比較的良好で著しい不平等は見られなかった。

Bしかし、営業員の人柄、出身地、隣人が借りている等が借り手のインセンティブとなっており、また情報の非対称性が拡大してきておりその関係性はぐらつきやすいものであると判断した。

 

今後の展望と予定

現場において、借り手の印象は比較的良好で手法や特色に差異はあるが、決定的に両組織差異を決定するとは判断し得なかった。

          ↓

ということは、現場の差異ではなく、マネージメント手法(イメージ戦略、企業外交、広告宣伝)にやはり差異があるのではと判断している

 

そこで、実際両機構の本部を訪れマネージメントの現場を観察することにしたい。実際、グラミン銀行はインターンシップという形で広告、宣伝部門で働く機会がある。そこで来年の夏にこれに応募する予定である。