2011年度森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費・博士課程) 研究助成金報告書

 

「集団における学生アスリートのスポーツ・コンピテンシーに関する研究―スポーツ・コンピテンシー尺度の開発―」

 

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 後期博士課程 竹村りょうこ

 

 

 

問題と目的

 

本研究は,「チーム・選手として優れた結果を生み出す行動特性(能力)」を評価するための尺度開発を目的とし,OECDのプロジェクト「Definition and Selection of Competencies : Theoretical and Conceptual Foundations (以下,DeSeCo)」によって定義された「キー・コンピテンシー」という概念をもとに,当該能力を捉えることを試みた.

コンピテンシーとは,多数の定義を持つ概念である.1970年代はじめにハーバード大心理教授のMcClelland が提唱したコンピテンシーでは,「ある職務または況において,基準と比べて果的または優れた業績をもたらす個人の根源的特性」と定義された(McClelland1973).すなわち,優れた業績を生み出す「能力」とは知識や技能だけではなく,それらを用いて環境に働きかけ,目標を達成する動機付けをも含む動的な概念であると考えた.また,ビジネスの現場では「高業績者に特有の成果を上げる行動特性」と定義され,成果を生み出す可能性が高い優れた人材を確保するための「コンピテンシー面接」と言われる手法が実際に企業の面接において行われている(川上・齋藤,2006).本研究で扱うキー・コンピテンシーは,「個人の成功と正常に機能する社会のために必要なキーとなる能力」(DeSeCo/OECD Executive summary, 2005;ライチェン・サルガニク,2008)と説明されており,「異質な集団で活動する」(対人的側面),「自律的に活動する」(個人的側面),「道具を相互的に活用する」(資源活用的側面)という3つのカテゴリーと,「思慮深い思考と行為」という側面から構成される.キー・コンピテンシーの定義においても,知識や技能を獲得するだけではなく,それらをどのように組み合わせて活用するかということを重要視しており,成功という結果を生み出すための行動特性として考えることができる.また,キー・コンピテンシーを取り上げた理由として,スポーツにおいて思慮深く考えること,批判的な思考を持って取り組むことが何よりも成長と上達に必要な要素であり,スポーツ集団での経験を社会で活用することへと繋ぐ概念といえるためである.

キー・コンピテンシーの概念を扱った研究としては,主に教育場面において取り上げられており,生涯の各段階におけるキー・コンピテンシー形成パターンとして,学習の連続性が保たれているかを明らかにしようとしたものなどがあるが(黒澤,2010),スポーツ場面などへの展開は未だなされていない.そこで本研究では,多様なコンピテンシーの定義とキー・コンピテンシーの概念をもとに,新たに「スポーツ・コンピテンシー」という概念を提示し「チーム・選手として優れた結果を生み出す行動特性」と定義した.個人の優れた行動特性とチームの競技レベルとの関連性を明らかにし,スポーツ集団における個人としての在り方を見出す観点は,集団研究への新しいアプローチとなると考えられる.

尺度作成へ向けた手続きとしては,まずは予備調査によって,既存尺度と自由記述から項目を収集・精選し,それらをもとに尺度における項目を選定する.次の本調査では,スポーツ集団における「チーム・選手として優れた結果を生み出す行動特性」を評価する尺度を構成し,その信頼性と妥当性を検証する.

 

予備調査

 

目的

既存尺度をもとに,優れた結果を生み出すことが可能なスポーツ集団の成員として必要な行動特性を評価する項目を収集,作成し,予備調査を通じてそれらの項目を精選,本調査で使用する項目を選定する.また,自由記述調査も実施し,集団の成員として必要な行動特性の抽出を試みる.

 

方法

調査対象 神奈川県内における,関東リーグ1部から6部に所属する3大学5チーム126名(男性84名・女性42名,4年生15名・3年生41名・2年生44名・1年生26名,平均年齢19.36±0.94歳)の学生を対象に行われた.競技種目はサッカー,テニス,ソフトテニス,卓球である.本研究では競技集団としての目標がより明確であると考えられる体育会所属運動部員を対象とし,同好会(サークル)に所属する学生は対象外とした.

調査時期 20099月から10月にかけて実施された.

手続き 調査票の配布と回収は,運動部の指導者や主将,主務などの複数の実施協力者により行われた.それぞれ,集団実施または個別での調査実施後に返送してもらった.

既存尺度からの項目収集と作成 スポーツ選手としての心理的成熟度尺度(杉浦,2001),スポーツにおける個人・社会志向性尺度(磯貝ら,2000),競技状況スキル尺度(上野・中込,1998)などの既存尺度を参考に作成した,チーム・選手として優れた結果を生み出すと考えられる行動特性を問う61項目である.個々の項目の評定は5段階の自己評定(1:そう思わない,2:あまりそう思わない,3:どちらともいえない,4:ややそう思う,5:そう思う)により実施した.評定値が高いほど優れた結果を生み出す行動特性が高く備わっていると解釈される.

内容的妥当性の検討 収集,作成された項目群は,本研究者とスポーツに関連する分野の指導に関わる大学教員5名,客観性を確保するためにスポーツ以外の分野に所属する大学教員1名,スポーツ科学関連分野に所属する大学院生3名によって「項目内容が集団の成員の行動特性を反映したものであるか」,などの内容的妥当性について慎重に検討された.

 

結果と考察

因子の抽出 既存の項目を参考にして作成した61項目における因子構造を事前に確認しておくため,項目群に対して探索的因子分析(主因子法・Promax回転)を実施した.抽出される因子は相互に関連し合っていると考えられるため,分析自体は斜交回転により行った.この因子分析の仕様は後述の本調査においても同様とした.因子分析の結果からは,集団の中での他者との関わりを示す11因子が抽出された.因子のα係数は.71.94という値であり,全体的に因子の内的一貫性は確保されていることが示された.

自由記述の精選結果 合計で114の記述を得たが,文章化されている記述をキーワード化した結果,1つの記述に複数のキーワードが抽出されたものもあり,最終的に182のキーワードが得られた.自由記述の結果からは,「主体性」,「反省性」,「創意工夫」といった個人的な要素を含むキーワードを中心に11カテゴリーに分類された.なお,個人の課題達成やチームでの目標共有といった内容に対して,具体的に日々の繰り返しを問い可視化することが重要であると考え,「継続性」カテゴリーを新たに追加した.また,「反省性」としてキーワード化された回答は2つであったが,OECDによるDeSeCoプロジェクトの中にあるキー・コンピテンシーという概念の根底にある思慮深さ(反省性)という考えにあるように,技術向上にも集団の中での人間的成長にも重要であると判断し,カテゴリーとして位置づけることにした.

予備調査の結果から,対人的,個人的,資源活用的側面からなる12カテゴリーと仮説を立て項目を再検討した.最終的に,各カテゴリー58項目の,スポーツ・コンピテンシーを測る75項目が作成された.

 

本調査

 

目的

スポーツ集団における「チーム・選手として優れた結果を生み出す行動特性」を評価する尺度を構成し,その信頼性と妥当性を検証する.

 

方法

調査対象 関東地区11大学における関東学生リーグ1部から4部のチームに所属する603名(男性306名・女性297名,チーム種目13チーム322名・個人種目21チーム281名,平均年齢19.26±1.08歳)の学生である.男女,競技種目の比率は同等となるようにしており,競技レベルにおいては関東大学リーグと全国大会での順位を基準に,全国大会上位(13位)と関東リーグ1部校,関東リーグ23部校,関東リーグ4部以降という3つの層に分類し,それぞれがほぼ同等となるようにした.

調査時期 201010月から20111月にかけて実施された.

手続き 調査票を各調査協力校の指導者または主将,主務などに郵送し,一斉法による集団実施,または個別(個人)形式による実施の後に返送してもらった.また,調査対象者の負担を減らすために妥当性を検証するための項目群を2つに分け,ABという2種類の調査票を作成して調査を実施した(A回答者305名,B回答者298名).

調査内容@:フェイスシート 性別,学年,種目,現在のチームにおけるポジション(レギュラー・ノンレギュラー・両方に該当),それぞれ回答を求めた.

調査内容A:スポーツ・コンピテンシーを評価する項目 予備調査を通じて選定されたスポーツ・コンピテンシーを評価する75項目(12側面を想定)である.項目の評定は予備調査と同様の5段階の自己評定で行い,評定値が高いとき,チーム・選手として優れた結果を生み出す行動特性が高く備わっていると解釈される.

調査内容B―G:妥当性を検討する既存尺度 予備調査で想定されたスポーツ・コンピテンシーのカテゴリーが実際に因子として抽出された際に,それらの妥当性を既存尺度をもとに検証していくこととした.調査内容Bの「スポーツ選手のメンタル評価尺度」(村上ほか,2003)からは,「主体性」と「反省性」の妥当性を検証する目的で「個性の発揮」と「危機回避能力」を採用した.調査内容Cの島本・石井(2006)による日常生活スキル尺度(大学生版)からは「計画性」と「情報要約力」を採用し,「自己規範」と「創意工夫」との関連性をみた.調査内容Dでは,スポーツ選手としての心理的成熟度評価尺度(杉浦,2001)の「自律的達成志向」と「明確な目的」を,「目標設定」と「継続性」との関連性の検証で,調査内容Eの島本・石井(2008)による運動部活動経験評価尺度(大学生用)からは「周囲からのサポート」と「努力忍耐」を,「謙虚さ」と「忍耐力」との関連性をみる目的でそれぞれ採用した.調査内容Fでは,本郷(2005)によって作成された中学生の学級における集団効力感尺度における「集団相互支援効力感」と「集団結束効力感」を,「他者理解」と「チーム支援」との関連性と,スポーツ・コンピテンシー尺度全体との妥当性を検証する目的で採用した.調査内容Gにおいては,Carron et al.1985)によって作成された集団環境質問紙の4因子を「チーム規範」と「目標共有」との妥当性を検討するために用いた.これまでの研究では,個人の競技レベルとの関連から妥当性を説明しているが,本研究では集団の競技レベルとの関連性から説明をしていくこととした.

統計ソフトと適合度指標 本研究におけるすべての分析は,統計ソフトのSPSS Statistics 17.0Amos17.0を用いて行い,有意水準は5%とした.また,尺度の因子分析モデルのデータへの適合度は,GFI(Goodness of Fit Index)AGFI(Adjusted GFI)CFI(Comparative Fit Index)RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)の各指標から検証した.

 

結果と考察

項目分析 項目の平均値(1.54.5を基準)から回答の偏向を調べたところ,すべての項目は基準内の数値であった.また,I-T相関(.20以上を基準)においても,すべての項目が基準を満たしていた.項目間相関をみたところ,「チームの一員としての自覚を持って行動している」と「チーム目標を強く意識して練習に取り組んでいる」の項目間にr=.71p<.001)という強い正の相関係数がみられたため,項目を除外した際のα係数の値の増減をもとに判断し,因子分析をする際に前者を除外することにした.

因子の抽出 74項目に対して因子数を「12」と指定した探索的因子分析を実施した.因子負荷量.40以上,単純構造を基準に検討を行った結果, 2項目が削除された.また,2項目から構成される因子を除外した結果,解釈可能性から8因子解を選択した.また,データへの適合度,尺度としての利便性の観点から,1因子あたりの項目数を「4」に統一することを試みた.項目数が4項目以上の因子においては,因子負荷量が高く保持される項目群を選択し,当該項目を除外する前後でのα係数の増減をもとに判断した.そのほかにも,因子的妥当性を確保するために,38項目が除外された.その後,32項目に因子数8による探索的因子分析を再度実施したところ,「寛容性」を構成する項目のみ.39という値であったが,それ以外の各項目は.40以上の因子負荷量とともに4項目からなる単純構造を示した.なお,性別と競技種目別(個人種目,集団種目),チームにおけるポジション(レギュラー,ノンレギュラー,両方に該当)ごとでも探索的因子分析を行ったが,いずれの場合も全体とほぼ同様の因子構造となった.

因子の命名 1因子は,チームの一員として目標に向かってどのように取り組むかを考える項目に高い因子負荷量を示しているので「目標共有」と命名した.第2因子は,自らの思考を表現するために,言語という資源を用いて説明や文章化するといった項目の集まりから「自己資源活用」とした.第3因子では,失敗や他者からの助言,ルールといったものに対して批判的な思考をもって考えるという項目から構成されているため「反省性」とした.第4因子は,チームの成員に対しての配慮や環境に対して感謝する項目から構成されており「寛容性」と命名した.第5因子は,目標を達成するための計画や日々の継続性を説明する項目であり「継続性」と命名した.第6因子は,目標や成功に向けて耐えて努力するという項目からなるため「耐久性」と命名した.第7因子では,自分自身の思考や行為に対して基準を設けている項目と読み取れるため「自己統制」とした.第8因子は自分自身の個性(長所)を資源として課題に対して多面的な方法による行動を表しており「創意工夫」と命名した.

適合度の検討 いずれの指標からも十分な適合を支持する値が得られたため(GFI=.902,AGFI=.882,CFI=.922,RMSEA=.046),本研究では1因子あたり4項目からなる8因子モデルを,尺度における因子構造として採用した.

因子間相関 すべての因子の間には.25.60の範囲で有意な正の相関係数が認められており,因子分析において斜交回転を採用したことは妥当な判断であったといえる.最も相関係数が高く示されたのは「目標共有」と「寛容性」であった.チームに貢献しようとチームの一員としての自覚が高まる時,チームの成員へ配慮をする意識も高い状態にあることが示された.

予備調査の結果との差異 予備調査の結果から,スポーツ・コンピテンシーは12のカテゴリーから構成されると仮説を立てたが,探索的因子分析の結果からは,「目標共有」,「チーム支援」,「他者理解」の項目が統合されて「目標共有」とするなど,複数のカテゴリー内の項目が統合され因子として抽出された.しかしながら,本調査の分析から得られた8カテゴリーは,対人的な側面に関するいくつかの仮説項目が統合されたことによるものであり,予備調査から得られたデータがより凝縮され,一般化された結果であるといえる.また,対人的な能力,個人的な能力に加え,3つめのカテゴリーとなる環境(目標,課題,人間関係など)との相互作用に必要なスキルとして,資源の活用スキルが得られたといえる.本研究では尺度開発の方針として,自己の知識や経験を資源というカテゴリーで捉え,どのように活用していくかを顕在化させることに取り組んだ.最終的に得られた8カテゴリーは,対人的側面2因子(目標共有,寛容性),個人的側面4因子(反省性,継続性,耐久性,自己統制),資源活用的側面2因子(自己資源活用,創意工夫)からなり,予備調査とOECDのキー・コンピテンシーの3カテゴリーの概念に対応しており,尺度の妥当性を支持する結果の一つと考えられる.

信頼性の検討 α係数をもとに各因子の内的一貫性の検討を行った.その結果,「目標共有」では.83,「自己資源活用」では.77,「反省性」では.78,「寛容性」では.72,「継続性」では.66,「耐久性」では.80,「自己統制」では.74,「創意工夫」では.72という値がそれぞれ得られた.一部,経験的基準の.70を下回るものもみられたが,因子の内的一貫性はおおむね確保されていることが示された.

妥当性の検討 尺度における8因子と,既存尺度との相関係数(.20以上を基準)から妥当性を検証した.まず,全ての因子と集団効力感を測定する尺度との間に相関が認められた.特に,対人能力を表す「目標共有」と「寛容性」の因子は,「集団相互支援効力感」,「集団結束効力感」との間にそれぞれr=.40以上の正の相関がみられ,集団の成員の対人的能力としての妥当性が示されたといえる.

個々の因子ごとにみてみると,第1因子「目標共有」は,集団における対人的スキルであり,集団環境質問紙の4因子との間に正の相関がみられると予想されたが,「集団の統合―課題」(r=.43)と中程度の相関が認められたことから,目標を共有する意識が高い時,集団としての課題的なまとまりも高いと解釈できる.第2因子の「自己資源活用」は,「情報要約力」(r=.51),「計画性」(r=.43)との間に正の相関がみられたが,自己のもつ資源を言語や行動によって活用することができる人は,必要な情報を獲得する能力や計画性も高いという傾向が示された.第3因子「反省性」は,「危機回避能力」との中程度の相関(r=.44)が認められた.批判的な思考で考える力が高い状態にある時,危機的場面においての解決能力も高まると考えられる.第4因子「寛容性」は,「周囲からのサポート」との正の相関が予想され,弱い相関(r=.34)がみられた.周囲から受ける助言などに対しての感謝が高まる時,周囲への配慮などの意識も高まると解釈できる.また,「集団相互支援効力感」(r=.42),「集団結束効力感」(r=.41),との間にも中程度の相関が認められ,対人能力としてのカテゴリー分けは妥当であったといえる.第5因子の「継続性」では,「目標設定」と「継続性」が統合された因子であり,目標を達成するための継続性という項目群から構成されているため,「自律的達成志向」との正の相関があると考えた.中程度の相関(r=.50)が認められたことからも,課題に対しての継続性が高い時,自律的な達成志向も高いと解釈できる.第6因子「耐久性」は,「努力忍耐」と正の相関があると予想され,中程度の相関(r=.52)が認められた.厳しい練習に耐え目標を達成することへ努力し続けるという意識が高い状態にある時,努力や忍耐力も高いことが示された.第7因子の「自己統制」においては,「計画性」と正の相関がみられると想定されたが,弱い相関(r=.23)が認められたことからも,自己への統制意識が高まる時,計画性も高まる傾向にあるといえる.第8因子の「創意工夫」では,「情報要約力」との関連性が予想されたが,中程度の相関(r=.51)が認められたことから,様々な情報を得て自己の判断によって多様な場面での対応力が高まる時,情報要約力も高まると解釈できる.全てにおいて.20以上の有意な正の相関係数が得られた(p<.01).

また,本研究の,「チーム・選手として優れた結果を生み出す行動特性」という定義の妥当性を明らかにする目的で,チーム所属レベルからスポーツ・コンピテンシー8因子の得点の比較を行った.その結果,「寛容性」において関東4部以降所属チーム群が,関東23部所属チーム群を上回ったが,その他の7因子においては,所属レベルが高くなるほど,スポーツ・コンピテンシーの得点も高いことが示された.したがって,妥当性検証の仮説どおり,スポーツ・コンピテンシーの高い個人が集まったチームは,競技レベルも高い状態にあることが示唆された.

なお,コンピテンシーの概念を競技スポーツに反映させた本尺度は,「スポーツ・コンピテンシー尺度」と命名された.

 

総合的考察

 

本研究では,運動部活動としてのチームに所属する学生に焦点をあて,集団における「チーム・選手として優れた結果を生み出す行動特性」をスポーツ・コンピテンシーと定義し,当該能力を対人的,個人的,資源活用的という3つの側面からとらえ,それらを評価できる尺度の開発を目的として2つの調査を実施した.第1に,予備調査では,既存の関連する尺度の項目を参考にし,また,自由記述を通じて得られた回答をもとに多数の項目を作成・収集し,精選の後に本調査で用いる項目群が選定された.第2に,本調査では,選定された項目群をもとに8因子構造の尺度が構成され,それら個々の因子は「対人的側面(目標共有,寛容性)」,「個人的側面(反省性,継続性,耐久性,自己統制)」,「資源活用的側面(自己資源活用,創意工夫)」という3つにそれぞれ分類されることが示された.これらは,キー・コンピテンシーの概念である「異質な集団で活動する」,「自律的に活動する」,「道具を相互的に活用する」という3つのカテゴリーにそれぞれ対応していると考えられた.また,尺度を構成する8つの因子にはおおむね満足できる信頼性と妥当性が確保されていることが示され,開発された尺度は「スポーツ・コンピテンシー尺度」と命名された.

本尺度によって集団に所属する成員として必要な行動特性が顕在化することで,チームとして優れた結果を生み出すための個人としての在り方を,チームに対しても反映することが可能となる.社会に出る前に運動部活動という組織を経験しているにも関わらず,組織の中でどう行動していくかの認識が不足していることへの対処として,本研究によって可視化されたスポーツ・コンピテンシーという行動特性は,個人に自己を把握する機会をもたらす.運動部活動は目標の明確な競技集団であるため,社会での組織としての集団に共通しており,スポーツ・コンピテンシーの獲得が社会に出た際の多様な集団においても活用可能であることを説明することで,運動部活動に所属する意義を社会に示すことが出来るであろう.