鉄道旅客流動分析基盤の確立とその応用
政策・メディア研究科
角田 史記
1.概要
本研究の目的は、鉄道利用環境に入出場した際の行動履歴データを利用して、利用した駅、列車等、環境内での移動を詳細に把握することである。そのために、蓄積される行動履歴データを、既存・異種のデータベース群と動的に統合し、比較、分析を行って、精度が高く、新たな価値を持つ情報を獲得するシステムを構築した。首都圏の1日を対象とした実験では、精度や新たな価値の創出において、その有用性を確できた。
2.背景
本研究の背景は以下3点である。
(ア) 鉄道オペレータにおいて精緻なサービス設計が求められているにも関わらず、現状の鉄道空間における利用者流動に関するデータ群や調査・分析は、頻度、規模、精度、システムが不十分
(イ) 鉄道空間においても、センサー、ネットワーク、ストレージ技術の進化により、多くのデータが取得・蓄積可能となってきた
(ウ) 革新的サービス創出、新たな危機への対応のための利用者流動把握システム基盤が存在しない
3.目的
本研究の目的を以下3点とした。
(ア) 流動分析基盤の実現
動的オブジェクト群の移動状況把握、計算可能な形式で再現
動的オブジェクト群の移動状況の情報モデリング
分析結果の可視化
(イ) 流動分析基盤の応用
流動分析基盤をベースとした、新しい知識やサービスの創出
今後の予測
(ウ) 流動分析基盤の実用化
今後の研究「基盤」
鉄道会社の幅広い利用を目的とした実装
4.本研究の成果
本研究の今年度の成果を以下に示す。
#ただし、未発表の部分もあるため、概略に留まる。
(ア) 旅客流動分析基盤の実現
以下の図1ように、流動分析基盤構造をメタレベルに実装するシステムアーキテクチャを開発した。鉄道利用空間内外にあるデータを変換、集約して、時間的、空間的なクエリに応じて、メタレベルで処理することが可能である。
図1:旅客流動分析基盤の概略
(イ) 分析基盤の応用
応用として実現した応用例データを以下に示す。
l ある2線区の利用者の流動
ある2線区の線区内流動や通過人数等の結果を示す。このように、従来では把握できなかったデータが本研究の成果により把握可能となった。
(ウ) 分析基盤の実用化
応用例や使用可能性、ユーザビリティを含めて改善し、今後、継続的に取り組む。
5.まとめ
本研究により、旅客流動分析基盤が確立できたため、さらなる応用や実用化に指針を与えることができた。また、この応用として従来は把握が難しかった利用者の流動を捉えることができた。
今後は乗換駅の流動人数や、利用者のニーズに応じた列車ダイヤの策定、運行遅延時の影響人数の把握、影響人数を把握した上での列車運用などの反映等が可能になると考えられる。さらには、昨今の鉄道会社では商業施設の開発にも積極的であるが、乗り換え利用者の鉄道利用属性を踏まえた店舗展開や商圏などのデータが実態に即したものになることが期待される。そのほかにも、風雨・降雪・地震などの自然災害時の影響把握や、パンデミック時の接触人数の把握や感染拡大のシミュレーションの利用が期待できる。
6.謝辞
基金により支援を受け、1年間継続して研究に取り組むことができた。機会を与えてくださった森泰吉郎記念研究振興基金に御礼申し上げます。