2011年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費・博士課程)研究助成金報告書

 

研究課題:東アジア諸国・ユーラシア圏における高速交通インフラ整備の経済効果の研究

 

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 博士課程2

柴田 つばさ(wings@sfc.keio.ac.jp

 

本年度の活動報告の概要    

 

本年度は、主に3つの活動を行った.

 

まず,国内の3つの学会の年次大会に参加し発表を行ったことである。昨年から開発を続けてきたミクロ経済学的基礎に基づく最適化による産業連関モデルの研究成果を発表した。日本地域学会と環太平洋産業連関分析学会では日本国内を対象とした全国9地域間産業連関による分析を中心に報告し、国際開発学会では東アジア諸国(8か国)と日本と米国を加えた計10か国を対象としたアジア国際産業連関による分析を中心に報告を行った。外部へ発信したことで有益な意見を多数いただくことができた。更なるモデルの精緻化のための課題を発見することができた。学会以外にも毎年開催されているORFにも出展し、モデル分析の有用性について積極的に発信した。

 

次に、査読論文1本を仕上げたことである。運輸政策研究に『交通インフラ効果のモデル分析−全国9地域間産業連関モデルを用いて−』というテーマで学術研究論文として4月に投稿した。何度か修正した後、運輸政策研究Vol.14 No.4 2012Winter号に掲載された。

 

最後に、博士論文を執筆したことである。これまで進めてきた全国9地域間産業連関によるモデルの分析結果に加え、東アジアを対象としたアジア国際産業連関によるモデル分析の有用性にまで踏み込んだ内容となった。

 

 

本年度の具体的な活動 

 

本年度の国学会発表

 

学会名:日本地域学会

会議名:第48回年次大会

開催期間:2011108~10

開催地:和歌山大学

発表テーマ:東日本大震災復興の計量分析 -全国九地域間産業連関モデルの観点から-

[概要]

2011311日,東北地方の太平洋沖を震源とする大地震が発生した.地震の直後には,未曾有の大津波が押し寄せ,東北や北関東のライフラインを破壊し,自動車部品や半導体電子部品などの製造業に壊滅的な被害をもたらした.その震災被害は,政府試算で最大25兆円とも言われている.震災復興の議論は,財政的な観点だけではなく,金融・経済への波及を考慮した総合的な視点で検討してゆく必要がある.

本研究では,1965年から2000年の5隔年8時点の全国9地域間産業連関表から構築した多地域多部門モデルと,日本の財政モデルとクライン金融モデルの3つのモデルをリンケージした財政・金融・地域間IOモデルを用いて震災による経済的損失と今後の日本経済の行方について定量分析を行う.

 

 

学会名:環太平洋産業連関分析学会

会議名:第22回年次大会

開催期間:2011115~6

開催地:慶應義塾大学三田キャンパス

発表テーマ:Modeling for the Nine Interregional System of the Japanese Economy

[概要]

Traditional input-output model has been built since primary work of W.Leontief; a sector production model plus a price determination model. This model is simplistic one which are aggregated by each economic element. However, in order to reflect tendency of model building in recent years, it is advocated that model should be built based on the micro economic theory, where behaviors of all economic agents are deduced from optimization. Thus, following this line, we intend to develop input-output modeling for the nine interregional system of the Japanese economy based on the micro foundation.

 

 

学会名:国際開発学会

会議名:第22回年次大会

開催期間:20111126~27

開催地:名古屋大学

[概要]

1992 年,国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)によって,アジア陸上交通インフラ整備(ALTID)計画が採択され,アジア横断鉄道とアジアハイウェイの開発が計画されている.今はまだ国家間の調整が進められている段階ではあるが,将来,アジアハイウェイは,32 カ国を横断する全長14 万キロにもわたる大規模交通道路ネットワークとなる予定である.今後,アジアがさらなる経済発展を遂げて行くためには,効率的な交通インフラ整備が不可欠であり,これらの開発は,より一層,進展してゆくものと思われる.しかし,交通インフラ整備が各地域・各産業に具体的にどのような経済波及効果が生じ,どの程度の影響があるのかということについては,必ずしも十分な検討が行われているとは言えず,いまだに,定性的な判断で交通インフラ整備を進めている傾向にある.交通インフラ整備の効果の実態を正確に把握するためにも,交通インフラの整備効果を計測するモデルの開発は重要である.よって,本研究では,各国経済の相互依存関係や,各国間かつ各産業構造の関係を定量的に分析できるアジア国際産業連関モデルを用いて,アジアハイウェイという交通インフラの発達が東アジア諸国の経済にどのような影響を与えるのか分析を行う.

 

 

SFC Open Research Forum 2011

開催期間:20111122~23

開催地:東京ミッドタウン

ポスター展示で出展を行った。

 

 

本年度の論文執筆

論文名:交通インフラ効果のモデル分析−全国9地域間産業連関モデルを用いて−

学会誌:季刊運輸政策研究Vol.14, No.4, 2012, Winter

[概要]

本研究では,1965年から2000年の5隔年8時点の全国9地域間産業連関表から多地域多部門モデルを構築し,我が国の基幹的な3つの高速交通インフラ(高速道路,高速鉄道,航空)の代表路線を対象として,それらの整備の進展が地域経済や産業立地にどのような影響をもたらしてきかについて定量分析を行った.これにより,今日に至る日本の高速交通インフラ整備は各地域に経済成長をもたらしたが,その恩恵は大都市圏よりも地方地域にあったこと,今日の地域問題である地方圏から大都市圏へ人の流出,大都市圏の経済の集中を生みだすことにもつながったことを説明することができた.

 

 

 

最後に

博士課程在学における3年間、森基金の『研究者育成費』と『国外学会発表経費補助』をいただいてきました。それらによって、多数の国内外の学会に参加することができました。学会に参加することで、様々な人たちに出会い意見を交換するという何事にも代えがたい素晴らしい経験をすることができました。そして、今年、博士論文を仕上げるところまで辿り着くことができました。こころから感謝しています。ありがとうございました。