2011年度 森基金研究成果報告書

研究課題名「コンゴ民主共和国における日本語教育政策とその普及

          政策・メディア研究科修士課程1年(CB) 清田晴香

                         

                                              

1:目的

本研究では、アフリカ・コンゴ民主共和国、大学機関における日本語教育の普及を通したコンゴ人の意識変容と相互理解の形成を「協働」に焦点をあて考察することを目的としている。

コンゴ民主共和国首都キンシャサ市内に所在する教員養成大学にて、2011年5月末から新たに日本語プロジェクトが開設し、岩崎メソッド(後述)を用いた日本語教授と日本文化理解授業を行っている。本研究の核となるフィールドワーク調査では、前半、教員養成大学の現地日本語履修者と日本人渡航者を交えたサマーキャンプを実施し、一週間寝食を共にする事でどのような相互理解・意識変容が形成されていったかを中心に調査を行った。また、後半は大学での日本語授業第二期がスタートし、授業の参与観察、継続的なフィードバック・インタビュー調査を行い、コンゴ人の中に「協働」という精神がどのように定着していくのか/定着していかないのか、また日本とコンゴで「協働」してプロジェクトを進めて行く意義はあるのか/ないのかを考察する。これは、従来の一方的な支援、先進国対途上国というトップダウンの構造の中で行われる国際協力の形とは異なり、先進国と途上国という枠組みを取り払い、人対人というお互い対等な立場のなかで、相互にイニシアティブ・オーナーシップを発揮しながら物事を進めて行くという新たな関係性構築の在り方を、自身の研究で明らかにしていく為の核となる調査である。

 

2:調査方法・内容

【1.フィールドワーク調査(20118/14~9/21)】

毎日フィールドノーツを付けることに加え、主に3つの軸を基に調査を行った。

@     アカデックス小学校におけるサマーキャンプの実施

822日〜28日の約1週間首都キンシャサ地区郊外に所在するキンボンドという地区で現在運営中のアカデックス小学校(後述)にて、本年度5月から日本語を履修し、導入プログラムを修了した現地履修者8名と、現地建築関係者数名、日本人渡航者(松原研究室・長谷部研究室学部生・院生・教授)計約30名が寝食を完全に共にした形のサマーキャンプを実施した。長谷部研究室・教員養成大学日本語履修者のメンバーがチームとなり、双方に言語(現地の国民語であるリンガラ語と日本語)の授業や文化授業、アカデックス小学校の生徒達にワークショップを行うなど、相互理解や双方のモチベーションを高められるような工夫を凝らしながらキャンプを構成した。日本人側コンゴ人側双方に毎日のスケジュールや気づきをフィードバックノートに記述してもらい、またそれを基にコンゴ人側に対しインタビュー調査を行った。

 

A     教員養成大学(I.S.P/Gombe)における日本語教育の実践

本年度9月から第二期日本語授業が開始され、導入クラスを修了した8名から7名が次の段階に進んだ。前期と同様に週2回の日本語授業、週1回の文化授業に加え、課外授業なども行った。また、第二期導入クラスも開校され(フィールドワーク中には開校せず10月からスタート)、日本語授業履修者も8名から25名に増加した。授業内における参与観察を含め、毎授業のフィードバック調査、また日本人長期渡航者に対しインタビュー調査を行った。

 

B     日本の対コンゴODA政策や日本語教育実施状況調査

在コンゴ日本大使館やJICAに訪問し、実際にコンゴに対し日本がどのような支援・プロジェクトを行っているかお話を聞きに行った。更に、WFP(国連世界食糧計画)コンゴ民事務局にも訪問し、食糧支援の現状をレクチャー頂いた。また、日本大使館が支援を行い現在行われている日本語教室2つの機関での日本語状況も調査し、日本が(また世界が)コンゴに対しどのような政策を実際に行っているのかを調査した。

 

2.JICA(東京本社)訪問、文献調査】

フィールドワーク帰国後、JICAコンゴ事務局所長からご紹介いただき、JICA東京本社に訪問した。またフィールドワークデータ分析の為文献調査を行った。

 

以下本研究の中核となるフィールドワーク調査について詳述する。

 

3:訪問先

・国立教員養成大学(I.S.P/ Gombe)

1961年に創立された総合大学。教師を養成するための各教科に加え、テクノロジーやホスピタリティー、観光学部なども設置されている。当初女子大学として創立されたが、近年共学になっており、約6000人の学生が在籍している。大使館や官邸など主要な機関が近隣してある為、電気や水道などが完備されている。また、大学に併設して女子寮があり、滞在中後半は、女子寮に無料で宿泊させていただいた。

 

・高等教育省

国立教員養成大学で日本語授業を開始するきっかけとなった省庁。2010年夏季フィールドワークの際、高等教育省大臣、マシャコ氏からコンゴでの諸大学と長谷部・松原研究室との協力体制を作っていくと言う公式文書が交わされた。今回、日本語授業等の進捗状況を報告の為、教員養成大学の教授らと共に訪問した。

 

・在コンゴ日本大使館

毎フィールドワークの際にプロジェクトの進捗状況を報告し、安全情報や治安等のコンゴの現状をレクチャー頂いている。また、参事官は現地で合気道の指導者でもあり、サマーキャンプ中に日本文化授業の一環として、合気道のご講義を頂いた。大使館職員の方々には、滞在中大変お世話になっている。

 

・日本大使公邸(3回)

本フィールドワーク中、大使官邸に3度訪問する事となった。前大使の離任レセプション、教員養成大学日本語プロジェクトに対する激励を含めたレセプション、また個人的に大使夫人にご自身の経験談や女性という立場から見たコンゴなどについてお話頂いた。

 

・JICA(2回)

2007年に事務所を設立。現在は保健・衛生(水)・環境・人道支援(警察研修)の4つを主に事業を行っている。対コンゴ国際協力の現状を所長自らお話頂いた。また、事務所に併設する所長のお宅で歓迎会も催していただいた。

 

・WFP(国連世界食糧計画)

途上国に対し、食糧支援を行う国連機関の一つ。主にプロジェクトと物流部門の2つに部門が分けられており、各部門から、更には所長からもコンゴの食糧支援の現状をご講義頂いた。コンゴ事務局には2人の日本人職員が現在働いている。

 

・ンガリエマ教会

コンゴに約25年滞在されている、日本人シスターがいらっしゃる教会。コンゴ側近辺の丘の上に建つ教会で、病院も併設されている。日曜礼拝に参加させていただき、シスター中村ご本人が教会周辺を案内して下さった。

 

・ンガリエマ浄水場

日本のODAにより建設されている浄水場。現ジョセフ・カビラ大統領(コンゴ民)の掲げる「5つの公約」のうちの1つとして浄水場を建設している。日本の2つの企業(大日本土木と戸田建設)が参入しており、現地職員と共に日本人職員も在留しながら建設が進められている。2012年2月に完成する予定。

 

・ビアンウルーズ・アニュアリット校

日本大使館草の根無償援助金で支援を受けた学校。幼稚園から中学校まで約1000人以上の生徒が在籍している大規模校。すべての人数を受け入れらる校舎の数が足りなかった為、日本の支援により新たに校舎を建設したそうである。

 

・博物館見学(名称不明)/シンフォニー・ド・アート

前大使夫人のご紹介により、コンゴの伝統文化に関する博物館を訪問させていただいた。そこでは、アフリカ大陸を発見したスタンレーの歴史から始まり、コンゴ各地の伝統工芸品やモブツ大統領政権時代、実際にモブツ大統領が使用していたイスなどが展示されていた。また、国立キンシャサ大学で歴史教授であるミレイユ氏を紹介していただき、彼女の友人が経営するシンフォニー・ド・アートという伝統工芸品が展示・販売されているお店も訪問させていただいた。

 

4:スケジュール

日付

地域

訪問先

活動内容

8/14 18:45

東京/成田発

香港→南アフリカ→

 

8/15

12:45

8/16

キンシャサ/ンジリ空港着

キンボンド

教員養成大学

アカデックス小学校

 

長期滞在組とミーティング

キンボンド滞在

8/17

キンシャサ

教員養成大学

第一期日本語授業修了式

(教員養成大学女子寮に滞在させて頂き、翌日のJICA訪問の準備や生活基盤を整える為の買い出し等)

8/18

午前:キンシャサ

 

午後:キンボンド

JICA

 

アカデックス小学校

所長と対談・事務所内を見学

キンボンド滞在

8/19

午後:キンシャサ

教員養成大学

 

JICA米崎所長宅

日本語補習授業

 

歓迎会

8/20

キンボンド

アカデックス小学校

データ整理・インタビュー調査

8/21

午前:キンボンド

 

午後:キンシャサ

アカデックス小学校

 

日本大使館参事官宅

サマーキャンプ準備・一斉清掃

後発組の研究会メンバーと合流・ミーティング

8/22-28

キンボンド

アカデックス小学校

サマーキャンプの実施

⇒日本人渡航者・教員養成大学日本語履修者・アカデックス関係者が寝食を共にした共同生活を行った。

双方の言語・文化紹介授業、アカデックス生徒に対するワークショップの実施などを協力しあいながら行っていった。

 

8/29-30

キンボンド

アカデックス小学校

長期滞在組のインタビュー調査・データ整理

8/31

キンシャサ

ンガリエマ浄水場

 

ビアンウルーズ・アニュアリット校

日本のODA・草の根支援施設の見学

国際協力の現状を、インタビューを通した聞き取り

9/2

キンシャサ

教員養成大学

 

日本大使公邸

寮生活の準備

 

日本語プロジェクトを表彰・激励する為のレセプションを開催していただいた

9/3-9/4

キンシャサ

教員養成大学

データ整理・インタビュー調査・短期滞在組のお見送り(9/4

9/5-6

キンシャサ

教員養成大学

日本語授業オリエンテーション・ログ、データ整理

9/7

キンシャサ

教員養成大学

午前:中級クラス(Novice program)授業開始

午後:第二期導入クラス顔合わせ

9/8

キンボンド

アカデックス小学校

アカデックス小学校の授業を見学・現地の家庭を訪問

9/9/12

キンシャサ

教員養成大学

日本文化授業の実施

 

9/13

キンシャサ

夜:JICA

所長宅で歓迎会(2回目)

9/14

キンシャサ

教員養成大学

 

動物園

日本語授業実施

 

課外授業として日本語履修者と一緒に市内の動物園に訪問

9/15

キンシャサ

教員養成大学

 

 

WFP

 

 

日本大使公邸

学長・英語学部主任インタビュー

国連食糧計画を訪問・各部門に関する講義をしていただいた

 

大使退任レセプションに参加

9/16

キンシャサ

教員養成大学

 

日本大使公邸

日本文化授業の実施

 

大使夫人と対談

9/17

キンシャサ

博物館

シンフォニー・ド・アート

ミレイユ氏のお宅

大使夫人、キンシャサ大学歴史教授ミレイユ氏のご同行の元、コンゴの伝統文化・歴史博物館・展示場に訪問させていただいた。

9/18

キンシャサ

ンガリエマ教会

 

 

教員養成大学

日本人シスターを訪問し、日曜礼拝に参列

 

インタビュー調査・データ整理・パッキング

9/19

 

9/21 20:20

キンシャサ

 

成田着

→南アフリカ(1泊)→香港

帰国

 

5:考察・今後の展望

 今回のフィールドワークにおいて、「協働」に焦点をあて、コンゴ人の意識変容・相互理解の変容を明らかにしようと試み、2か月間を通して彼らなりの意識変容は見受けられた。しかし、「協働性」に関しては普段の言動を観察してみても、あまり見受けられなかった。今回のサマーキャンプはある意味大成功を収め、日本人とコンゴ人が協力し合いながらプログラムを組んでいく事が出来たと言える。しかし、それはある一定の期間だけであって、継続性はあまり見られないとも言える。そもそも、彼らの中に協働という概念が根付いていないのかもしれない。約1カ月半コンゴの人々と生活を共にしてやっと協働プロジェクトとしての「協働」が授業内でも見受けられるようになった。

今回のフィールドワークの反省点としては、自分自身の中に「協働」という定義付が曖昧だったこと、インフォーマントに対しインタビューが1回ずつしか取れなかったことなど準備不足も露呈した。しかし、現地に訪れなければ知りえなかった、コンゴにおける日本の国際協力の現状、国際協力の現場で働く日本人職員の生の姿、私たちのプロジェクト含む日本語教育の実態と履修者たちの日本語力・意識の大きな変化は今回のフィールドワークにおいて大きな成果であると言える。

 今後フィールドワークデータを基に、自身の研究を深化・発展させていきたいと考える。