2011年度森基金 研究成果報告書
線虫における新規tRNA分子の進化および機能の解析
政策・メディア研究科 修士課程2年
浜島聖文
研究内容
遺伝暗号の実体は塩基の種類とその並び方によって規定され, 3塩基ずつの組み合わせで20種類のアミノ酸を指定しタンパク質をコードするという生命の大原則は多くの生物で共通である. 転移RNA (Transfer RNA; tRNA) は遺伝暗号を解読するアダプター分子であり,
20種類のアミノ酸に対応して, 少なくとも20種類のtRNAとそのアミノアシル化を行う酵素が存在する.
多くのtRNAは共通してクローバーリーフ型の二次構造をとるが,
厳密にはそれぞれに特異的な塩基パターンやモチーフ構造が存在し,
これを各酵素が認識することで正確なアミノアシル化は達成される. ゆえに, このtRNAと酵素の対応関係は,
遺伝暗号に従った確実な翻訳を行う上で“普遍”でなければならい.
本研究では,
通常ロイシンまたはセリン用のtRNAのみに観られる可変アーム構造 (variable arm;
V-arm) が, 線虫において他のアミノ酸用
(グリシンやイソロイシン) のtRNAにも存在することに着目した. そこで, in
vitroでアミノアシル化再構成実験を行ったところ, これらのtRNAは普遍暗号に対応するアミノ酸ではなく, ロイシン用の酵素によりロイシンを変則的にチャージすることがわかった.
これらのtRNAは生体内で発現しており,
線虫で広く保存されていることからnematode-specific V-arm containing tRNA (nev-tRNA) と命名した. また, in vitroでnev-tRNAがタンパク質合成に使用されることも確認した.
以上の結果は,
線虫においてグリシンやイソロイシンからロイシンへの暗号の変換が可能であることを示唆している.
高等真核生物において普遍暗号によらない翻訳を生じ得るtRNAが発見されたのは極めて異例のことで,
遺伝暗号の起源や進化の更なる理解に繋がることが期待される.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22187151
2011年度 研究業績
国際会議における発表
(ポスター)
1.
○Hamashima
K, Fujishima K, Sugahara J,
Tomita M, Kanai A. uv-tRNA: Novel Class II tRNA with Gly and Ile anticodon Found in Caenorhabditis
Genus are Specifically Charged with Leucine. RNA 2011,
Kyoto, Japan (2011/6/14-18).
2.
○Hamashima
K, Sugahara J, Fujishima K,
Tomita M, Kanai A. Comprehensive Prediction of Eukaryotic tRNAs with Introns Located at
Non-Canonical Positions. RNA 2010, Washington, U S A
(2010/6/22-26).
国内学会・シンポジウム等における発表
(口頭発表/ポスター)
1.
○浜島
聖文, 藤島 皓介, 増田豪,
菅原潤一, 冨田 勝, 金井 昭夫. nev-tRNA: A novel non-canonical type of
tRNA in nematodes decodes an alternative genetic code
for leucine. 第34回日本分子生物学会年会, 横浜
(2011/12/13-16).
2.
○浜島
聖文. 線虫における新しいタイプのtRNAはアンチコドンに対応しないアミノ酸をチャージする.
第10回新しいRNA/RNPを見つける会,沖縄
(2011/9/6-7).
3.
○浜島
聖文, 菅原 潤一, 藤島 皓介, 冨田勝, 金井 昭夫.
Expression analysis of novel type of tRNA candidates
in Caenorhabditis genus and their evolutionary
divergence. 第33回日本分子生物学会年会, 神戸
(2010/12/7-10).
4.
○浜島聖文.線虫における新規tRNA分子の同定とその進化的考察. 第9回新しいRNA/ RNPを見つける会,弘前 (2010/9/15-16).
Kiyofumi Hamashima (Feb. 29th, 2012)