2011年秋学期報告書

 

政策・メディア研究科 修士課程1年  平賀 俊孝

学籍番号:81125135 / ログイン名:tsh

 

 

「新都市開発と次世代技術普及のためのコンセンサス・デザイン研究」

キーワード 新都市開発、合意形成、スマートシティ、都市ストック、次世代モビリティ、交通インフラ

 


1.研究概要

概要(&仮説)長い版

 本研究は、人々の生活の質(QoL)を向上させる事を目的とした研究である。その為には、都市の建築的形態とモビリティの在り方を最適化する必要がある。ただし、その変化の規模からして社会経済的に与える影響が大きく、容易に実行できるものではない。現代においては、環境問題という大前提の課題に対する方策も必要とされる。そこで、最適化に当たって根本的に解決しなければならない課題と解決の糸口を次のように仮説立てた。

 都市が成長するプロセスで必要な要素は多数存在する。そして、ある都市の理想形態を実現するのに必要かつ重要な要素は、人々の意識とその共有だと考えた。意識の共有により、各々が考える理想像の方向性を定め、社会的認識から構築・実行・実現までのプロセスが高速化することが見込める。

 これには、情報化社会及び地球環境問題という第三者的な要素が現代に存在することが背景にある。これまでの開発でも人々の意識や意見は重要であったが、個々人の情報発信能力が向上して影響力が強くなり、理想像の構築に向けたベクトルの統一とその実現がより困難になっていくことが予測される。個々人の要求と社会的要求の齟齬をなくさない限り、ある理想像が定まったとしても実現・構築をする事は困難である。物事の開発普及の体制は現状維持が続く可能性が高く、将来的な社会の要求に対応する都市の理想像構築には長い時間がかかると考えられる。根本的な問題の解決には、人々の意識のベクトルを同じ方向に向かせる事が必要になる。一方、社会的要求、地球環境への対応は個々人にとって優先順位が低いのが実際である。これを乗り越える為には、個々人にとってメリットのある像もしくは社会的要求への対応にアグレッシブに関われる関係の構築が必要になる。理想像をなるべく分かり易く、メリットを理解してもらい、協力を得る事が最優先事項になるであろう。

 以上の仮説の証明において、本研究の有効性を示すと共にQoL向上に向けた手法の探求を行う。情報化社会における都市の成長において、人を主軸にした研究として新規性と有効性のある研究と言える。

 本研究では、人々の意識にフォーカスしていることから定性的なデータを主に扱うことになる。研究手法として、基本的な意識調査から、個々人に適合するより深い質問などから、ライフスタイルの中で無意識的に存在する都市やその成長について抽出する。また、それらを専門に関わっている人物にフォーカスすることも必要と考えている。アウトプットとして、それらのデータの考察と主観的評価が初段にあり、そのフィードバックを含め重ねて考察を行うものとして最終的なものにまとめる予定である。主に、仮説の証明に重点を置くが、その中で有効的な手法を発見することも期待している。繰り返しになはなるが、QoLの改善とその実現は個人が行って成せる事ではない。大きな政策的解決が必要であるが、そのバランスは難しい。これらを実行する前提とした仮説が、実際の活動には必要であり、それを示す研究としても有効性があると考える。


2.研究背景

 社会的要求として、低炭素社会の早期構築がある。近年になり、世界的に意識が高まりつつある環境問題がその主な理由になる。それに加えて、先進国における都市人口の集中増加も叫ばれている。これらの課題を解決するのには多大な労力が必要になり、都市開発における方向性の統一が必須になる。但し現代においては、新都市構想と実現・計画との差異の存在が実情にはある(※1)。それらの大背景として、人々の動向などに大きな影響力を与えているインターネット社会などのICT社会の構築があえげられる。

 また、次世代技術を投入したのちに構築されるべき新都市の形態を実現するためには多大な労力と時間がかかることも事実である。そんな中、実現に向けて必要となるのは、一般消費者と社会が目指す方向との合意形成であると考えられる。そして、低炭素社会の構築は我々が次の世代のために果たさなければならない責務である。修士研究においては「予測されうる未来のモビリティ構造に対応するための都市デザイン」を、「都市とモビリティの関連性」という切り口を主点にして、コンセンサス・デザインを行う。


※1 近年の先進国における都市は様々な面において飽和状態にあり、次世代技術を投入した低炭素な新都市をそこに創り上げるのは困難である。原因として、その都市における多くの物理的資産、土地所有権、人口形態などが複雑に絡み合い「都市ストック」として存在していることがある。そんな中、興進国では「スマートシティ」と言われるモデルを次々に開発・計画し、実行に移している。今後、30年から50年の長期に渡る視野を持つと先進国と興進国は、住環境、エネルギー対策などの面において立場が入れ替わる可能性が高い。加えて、立場の問題は常に存在するが当然ながら地球規模では各国が最先端のエネルギー対策を講じるべきであることも事実だ。ただし、先述したように都市ストックが存在する先進国都市部においては、今後開発される次世代モビリティの技術を適応するだけの対応能力が無いと判断される。仮に適応したところで、そのモビリティの魅力的な機能を活かす環境がない。都市とモビリティの融合は、モビリティそのものに革新が起こる今世紀においては今まで以上に注目すべき分野である。


3.目的

 研究の目的として、人々の生活の質(QoL)の向上と、移動の最適な在り方の探求が挙げられる。この二つの要素は相互に互換し合う関係にあり、研究の根幹として存在する要素である。低炭素社会の早期実現は前提として存在するものであり、前提の実現に向けて根本的な解決策を高じる必要があると考えている。本研究より得たデータを、実際の新都市構想の評価等のフィードバックのツールとして活用されて、都市構築のプロセスにおける意志決定の材料になることも目的である。


 

4.研究の意義                                       

 既存の都市開発及び事業は、現段階で実現レベルにあるモビリティ技術を想定して構築されており、インフラもそれに準じている。しかしながら、モビリティの発達速度が近年急激に加速しているのも事実であり、そのレベルは次の段階へとシフトしようとしている。それは従来のインフラでは受け入れらないものになる可能性が高い。

 本研究は、都市とモビリティの成長速度の差異を明確にし、認識させるという段階から、その問題意識を如何にして解決していかなければならいのか、如何に合意形成を得ていくのか、という範囲を扱うものである。これは、低炭素社会を早期に実現するためには不可欠な施策である。さらには、急速な技術発展に対する社会的アプローチの在り方や意志決定における判断としてのツールの役割を担うことができる。

 


5.研究の手法                                       

 ・仮説形成・情報収集

 ・アンケート等調査

  -都市の将来像におけるアンケート調査

  -将来像の形成に、将来像の画が如何に影響を与えるのかを調査(動画等を使用)

 ・密着調査(意識の変化に対する観察)

 合意形成のアプローチは、新都市のあるべき姿や新技術に対するビジュアル等によって行う。それは、消費者に対する一種の説明行為でもある。そのビジュアルに対してウェブやイベントなどによってアンケート調査などを行い、ビジュアルの修正を行う。さらにアンケート調査をもう一度行うことによって効果の測定を行う物とする。ビジュアルの製作やその内容については検討中になる。

 

6.仮説形成

 ・都市を構成していく要素が、人々の意識であるという仮説

 ・これまでとこれからの違いは、個々人の要求と社会的要求の齟齬であるという仮説

 (個々人の要求=便利を求めるー社会的要求=低炭素社会の構築)

 ・二点の仮説が証明される限りにおいては、人々の意識を良方向に転換させようとする本研究の試みは有効である。


7.進捗内容                                        

 清水浩研究会にて研究進捗を毎週行っており、小林博人准教授のアドバイスも定期的に頂いている。そんな中、本研究の最終的な目標を実現するに当たって技術普及等のコンセンサスの必要性があることも考えられるようになった。

 当初予定していた、小型ビークルの利用実験は金額的な面から中断せざるを得なかった。ただ、調査という面においては怠ってはおらず新潟県佐渡島の交通調査を7日間続けて行い商工会に実際の提案を行うことも行った。佐渡島のプロジェクトにおいては3カ年計画となるので来年度も参加する予定であり、連携大学として東京大学隈研究室、新潟大学関谷研究室が主にある。また、柏の葉のモビリティの分析を行い東京モーターショーにて提案もしている。この提案は、具体的な部分や実現可能性という面で課題が多い。これを応用してみなとみらいにて交通の提案を実際の行政に行うべく現地調査中である。

・テーマについて

 都市を扱うに当たって、その分野の広さから新技術との関連性を自らでも問うようになり、テーマのより詳細な選定を必要とした。今学期においては、研究会の活動と平行してテーマの選定に時間を割くことが大きかった。但し、本研究の内容においてはテーマの選定が非常に重要な位置づけであると認識しているので今後の研究においてその思考過程が活かされるものと考えられる。

・ビジュアルについて

 使用ビジュアルについての見当がおおよそ行われ、現在は動画が候補に挙がっている。その動画の使用につて所有者との交渉を行っている段階であったが、使用の許可がでた。今後は、その動画以外のビジュアルを探しつつ、アンケートの内容とどう絡めていくのか、定性的データの分析方法など考慮する必要があり、そのアウトプットの発表場所なども検討中である。

 

8.期待される成果                                     

 本研究が行われる事により、特に「都市とモビリティ」の二つの分野を今まで以上に密接に実社会で結びつけられる。さらに、それらを含めたマクロな視点による分析は技術そのものである「モノ」と、それを取り囲む「コト」の関係を行政・企業・国民に再考させる機会を創出する。そして、低炭素社会の実現がより早期になることが期待できる。そして、新しいサービス形態までをも提案することにより新たな雇用創出に繋がる可能性もある。

 そもそも、「都市とモビリティ」双方の分野は人間の本質的な生活に関連している要素であり、簡単に分野でまとめられるものでもない。都市の問題を解決するには、経済、環境、交通の問題は当然ながら入り込んでおり、人間の心理的な側面までもが存在する。心理的側面の大きな要素には「移動の欲求」があり、それはモビリティに深く関わっており、人間が生活をする為の基礎となっている。これらを考慮すると、本研究の影響する範囲が広いことがわかる。今まで、広範囲で扱われることのなかった研究に、最先端の研究を行っている大学研究室に所属しながら取り組むことで、モノゴト双方のデザインを社会的に良い方向へシフトできると確信している。

 コンセンサス・デザインにおいてはそのビジュアルの効果の測定が有効であるか否か、またその効果の測定や将来的な意識の普及に関わる意識調査のデータの収集が可能であり、今後の研究への応用可能性もある。

 さらに、本研究は世界的に展開が可能な基本モデルであり、各分野専門家を繋げる役割も果たす。今まで不明瞭であった構造を明らかにする役割も果たしているからである。そして、現時点で技術が成熟しつつある先進国に適応可能であることは当然ながら、今後興進国が急速に発展する場合を考慮すると、人口のバランスを鑑みても数十年後には同様に適応が可能である。以上のことより、研究の成果が社会にもたらす好影響を期待できる。