2011年度 森基金研究活動報告書

政策・メディア研究科 修士2年 久保田真帆

 

 

研究課題:地方自治における中国・民間主導型業界団体の有効性と可能性

 

1.研究課題

1990年代以降、中国では計画経済から市場経済への移行過程において、政治・経済・社会領域の分離が進められている。その中で、政府は「小さな政府、大きな社会」のスローガンを掲げ、政府機構改革を進め、かつての政府における管理権限を「行業協会」(日本で言う「業界団体」)に移譲した。「行業協会」は「代表・橋渡し・協調・管理監督・公正・統計・研究・サービス」の7つの機能を有する重要な中間組織として、政府と企業および住民の間を取り持っている。民主自治領域である業界自治の媒介を担う「行業協会」に注目することで、@経済・社会領域における行政の衰退や業界自治の度合いを確認でき、Aまた業界内の大多数を占める中間階層の結社状況、政治参加状況およびその政治志向を間接的に考察し、B中間階層が市民社会の担い手としてどこまで役割を果たせるかを検討できる。

本研究は、国際的にNPO として分類され、事業型NPO である、中国「行業協会」に焦点を当て、その役割や特徴、課題を調査する。先行事例として、中国・浙江省温州における2つの行業協会を挙げ、行政とNPO のより良い関わり方や、行政との協働実現に向けた最適なコーディネート方法、その有効性と域外移植の可能性について考察することが目的である。

 

2.研究計画

2-1 研究目的

本研究の目的は、近年重要視されている国・自治体・企業・地域・NPOの協働実現のために、これらのより良いパートナーシップ構築やコーディネート方法について明らかにし、地域行政モデルを提案することである。国際的に非営利組織に分類され、事業型NPOである、温州の「行業協会」を研究対象とし、その役割や現状と課題を調査する。先行事例として中国・浙江省温州における2つの行業協会を挙げ、地方自治体と行業協会との自治手段や資金繰り、運営システムを分析することで、その有効性と域外移植の可能性を模索・考察するものである。

 

2-2 研究対象

本研究においては、「事業型NPO」である、中国・温州の「行業協会」を取り上げる。

 

2-3 実施した調査

研究方法としては、組織マネジメント・イノベーション・マーケティングなど相応する理論の専門性を高めながら、以下の調査を行う。先行事例を踏まえながら、実地調査を行い、考察した。

 

2-3-1 先行事例調査(67月)

@温州煙具(ライター)協会

温州は世界最大の使い捨てライター生産基地であり、国内シェア95%、世界シェア70%を超え、温州煙具協会は200以上のライター生産企業を抱える大規模団体である。1991年に設立後、中国全土に先駆けて、NPOの自立と発展を目指した「権益保護公約」を打ち出し、全国でプロモーション活動を行っている。

現在の日本では、NPOの活動基盤や環境、社会的地位が整備されておらず、行政との間で不当な契約が結ばれていない問題、そのためにNPOの継続的で有効な活動を阻害している問題がある。その原因の一つとして、行政がNPOを安価な委託先としか見ていないこと、他方でNPO側も経費全額を要求するだけの専門性、交渉力、知識がない場合が多いと言える。この公約においては「政府が、NPOは独立した存在で、行政と対等な関係にあると認める」「双方が継続的な協議と対話の義務を果たし、説明責任を負う」といった内容が含まれており、双方の公平な運用環境づくりを考慮している。上記課題解決において有用である。

 

A温州市服装商会

1990年代初め、服装会社が自発的に連合し、1994年に設立された。以降は業界内にとどまらず、社会問題にも積極的に取り組んでいる。温州市内約2500社の服装企業のうち、60%の1500社が入会している。

主な活動は以下の通りである。a.業界内企業との連携(商品の仕入れから販売ルートの拡大に至るまで、中小企業の国際市場進出をサポートするなど、民間経済を支える)、b. 地方自治体との連携(温州市政府と温州市服装企業の係争を仲介する、政府委託事業に関する要望や報告を行うなど、自治体をバックアップする)、c.国家との連携(中国「新労働契約法」施行時、労働局の関係者を招聘し、会員企業への研修会を開催する、施行後の労働力不足と労働紛争防止のための活動を行うなど、国家行政との連携を図る)

温州市服装商会では、政府からのプロジェクト委託や支援金を受けているが、以上のような様々な活動を行いながら、継続的な関係を維持するために、政府との意見交換、要望提出、報告を重視し、良好な関係を築いている。行政とのパートナーシップ構築方法やその有効性を証明する事例として収集。

 

B温州市政府

現在の行政とNPO間の大きな課題の一つとして、助成金を渡したら終了、民間・NPOに丸投げし、「契約」が成り立っていないことが挙げられる。温州市政府では、継続的な監視・関係づくりと業界団体からの報告を重視し、指示を出しながらも、NPO本来の自主性や独立性を失われないような関係づくりに尽力している。民間からの「提案」や「意欲」を重視にし、NPOの主体性や地域のニーズを重視しながら、行政として側面的に支援する事例として収集し、今後の地域行政モデル構築の参考とした。

 

2-3-2 実地調査(89月)

中国の復旦大学と浙江大学の協力を得て、『温州市私営企業家調査』などのデータ収集。また、浙江省・温州では上記した2行業協会と、行業協会に加入する企業数社にインタビュー調査を実施。データの実証分析、インタビュー調査による定性分析によって、その有効性を確認。

 

2-3-3 考察(10月〜)

以上の過程を通して得られた先行事例や調査結果を基に、日中比較。日中の社会的経済的基盤の違い、パートナーシップの在り方や業務関係の改善方法などについて考察し、日本への適用を検討。

 

 

 

最後に

御基金、関係者の皆様のご支援により、様々な土地において実地調査やインタビュー調査を行い、研究活動を円滑に進めることができました。ここに厚く御礼申し上げます。