研究成果報告書

研究課題名

「グラミン銀行の政治化に関する研究」

 

氏名

小山 泰祉

 

所属

GR

 

研究要旨 

 本研究はグラミン銀行の政治化、特に2007年の立党計画から20117月のバングラデシュ政府による事実上の接収に関しての政治動向を外交的視野から分析・考察している。

 貧困層向けの融資手法であるマイクロファイナンスの先駆者であり、2006年にノーベル賞を受賞したことで有名なグラミン銀行の創設者ムハマド・ユヌスが2011年に失脚した。

この失脚する過程において、ムハマド・ユヌスを支援するアメリカ政府と、バングラデシュ政府率いるシェイク・ハシナ首相との対立があった。そして、アメリカ政府はバングラデシュ政府に対してユヌスが失脚するのであれば、外交関係に影響が出る。よって、ユヌスの失脚を撤回するようにと要請していた。 

しかし、バングラデシュ政府はこれを拒否した。結果としてユヌスの失脚は決定的となりその上、政府が認めた人物をグラミン銀行の経営陣に送ることで事実上の接収が行われた。

 バングラデシュ政府は経済的にアメリカと経済的依存関係にあるにも関わらず、なぜアメリカの要請を断ることが出来たのか。なぜアメリカはムハマド・ユヌスを支援したのか。そこには、ユヌスを通じてアメリカの外交戦略を達成しようとする動きと、それに抗するシェイク・ハシナの駆け引きがあった。

 これらの外交駆け引きを通じて、結果としてアメリカ政府は、ハシナ政権に譲歩し支援してきたユヌスをほぼ見限る形となった可能性が高い。このアメリカの譲歩は、アフガニスタン・パキスタン問題に関するアメリカの戦略と台頭する新興国のパワーバランスを考慮した可能性があると示唆する。

 以上の研究を通じて判明したのは、グラミン銀行の政治化の帰結として、優位な立場にあったアメリカ―バングラデシュ関係が変化し、その背景に新興国の台頭がバングラデシュで起きているということである。以上のことから、本研究の成果はムハマド・ユヌスとアメリカの長年における関係の変化と、アメリカと新興国のプレゼンスの接触がバングラデシュで行われたことを発見したことである。

 

森基金が本研究に与えた意義

 森基金からいただいた資金は、バングラデシュにおけるフィールドワーク調査と調査機器を購入するために使用した。結果として、バングラデシュにおけるグラミン銀行とその借り手の意識を調査することができ、これまで日本の先行研究が示し来たようなデータとは違った「グラミン銀行に対する不満と、アメリカとの関連性」についての言明を獲得することに成功した。

 この言明の獲得によって、本研究の方向性と独自性を深める上で大きく寄与した。