2011年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金報告書

 

研究課題名:消費電力の可視化による省エネ効果測定と予測

 

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士1

塩飽圭亮 

 

 

研究課題

 

今回の東日本大震災を契機に、電力の安定供給に対する不安が高まり再生可能自然エネルギー、分散電源、省エネなどへの注目と期待が高まっている。中でも省エネは設備投資、即効性といった面からしてもこの夏に危惧される東電管内での大規模停電に対し、非常に有効な手段となり得る。一方、省エネ策やその効果は今まで具体的に示されていない。理由として省エネ効果を実感できる環境が整備されておらず、省エネという言葉が抽象的な概念を脱していないことが考えられる。

本研究では、電力消費量の可視化により省エネ効果を具体的に実感できる環境を整備し、どれほどの省エネ効果を上げることが出来るのかを明らかにすることを目指す。また、気温などの外的要因と消費電力の相関性を検証することにより電力需要予測モデル作成を目指し、分散電源導入研究に活かす。

 

 

背景

 

 今日、資源の枯渇や温暖化問題などから新たなエネルギー利用形態の模索があらゆる分野でなされている。

これに加えて、東日本大震災の影響によって電力供給不足といった問題が発生、実際に東京電力管内では計画停電も実施され、電力需要が増大する今夏の計画停電再実施も否定できない。この一件で電力の安定供給という点から考えても現在の大規模一極供給型の電力供給システムの脆弱性が浮き彫りとなった。また、大規模一極集中型の電力供給システムは発電効率で優位性を持つが、送電ロスや出力が不安定な再生可能自然エネルギーの接続などで課題を抱えている。このように安定供給の脆弱性、再生可能エネルギーの導入、送電ロスの解消といった点から再生可能エネルギーを中心とする分散電源の導入など、新しいエネルギーシステムの構築が求められている。

一方、再生可能エネルギーはその出力を気象条件に左右されるため出力が安定せず、系統電力接続時の電圧や周波数などの電力品質に問題を抱えている。こうした問題を克服するために電力の供給、消費の両サイドを情報通信技術ネットワークで接続、管理するスマートグリッドの開発研究が進んでいる。

こうしたスマートグリッドでは電力の需要予測が欠かせない要因のひとつである。デマンドレスポンス(需要反応)は電力使用量の可視化によって電力需要を間接的に抑制するものである。このデマンドレスポンスのメリットについてはシミュレーションではなく、実証実験を通して定量的・客観的に評価することが重要である。

目的

 

本研究では主に以下の三点を目的としている。

 

1、デマンドレスポンスの効果測定

2、デマンドレスポンスと省エネの相関性検証

3、電力需要予測モデルの構築

 

 デマンドレスポンスは電力消費量を測定、可視化することによって電力消費に対する人間の行動を間接的に制御しようというものである。これによって電力消費の時間帯を誘導できれば、より効率的な電力利用が可能となる。これに加えて、デマンドレスポンスによる省エネ効果も期待される。実際、我が家において電力測定、可視化したところ電力消費量そのものが20%前後減少している。しかしこれはデマンドレスポンスによる効果かどうかは未だに十分な検証が出来ていない。また、家庭、工場、商店、公共施設など電力消費主体が変わればデマンドレスポンスの効果も変化し、一般的にはその規模が大きくなればなるほど希薄化することが予想される。こうしたデマンドレスポンスの効果と規模についても検証が必要である。また、電力消費は消費者の意識変化という内部要因はもちろんのこと、天候などの外部要因にも依存する。こうした外部要因と電力消費の相関関係を検証、消費予測モデルの構築も必要である。

 

研究対象

 

小規模工場、学校等公共施設、商業施設、家庭

 小規模工場、学校、商業施設は住宅地内に立地もしくは隣接することが多い。また、地域内の物件としては消費電力が大きく系統電力への影響及び省エネ効果が大きいと考えられる。今後、分散型電源でコミュニティ内の電力を賄うことになれば地域内の電力系統に対する影響力も必然的に大きくなるため本研究の対象とする。

 具体的には市内食品工場に本研究に協力して頂く。その他、藤沢市北部地域の学校やコンビニ、スーパーなどにも協力を呼び掛け、地域内でデータを収集する。

 

期待される成果

 

 デマンドレスポンスのメリットを実証的に検証することが出来る。また、短期的にはデマンドレスポンスによる対象地域内の消費電力の削減を見込め、夏の電力不足解消に貢献する。長期的には、デマンドレスポンスと省エネの相関性を検証することにより、今後の省エネ政策に活かされる成果を上げられると同時に、修士論文(再生可能エネルギーを中心とした分散電源導入提案(仮))執筆の際のデータとして有効な結果を得ることを期待する。

 

研究活動

 

20115月に工場と家庭への計測機器設置を行なった。

家庭への機器設置は予算都合で8月に打ち切り、データの取得が出来なかった。

その他、進捗なし。

 

参考文献

[1]横山明彦、合田忠弘、林泰弘、浅野浩志、坂東茂、今井伸一、林秀樹、木槻純一、新井正伸、山田竜也、姉川尚史、弥栄邦俊(2010)「スマートグリッドの構成技術と標準化」日本規格協会

[2]合田忠弘、諸角哲(2011)「スマートグリッド教科書」インプレスジャパン

[3]古賀昭浩、田中裕大、土肥祐樹、本田恭敬、山浦武、米田賢太郎(2010)「九州大学における消費電力の見える化プロジェクト」情報科学技術フォーラム講演論文集 9(4), 547-548, 2010-08-20

[4] 大場淳一(2011)「スマートグリッド普及に向けたデマンドレスポンスの役割」413日。

2011527日 URL:http://sangyo.jp/ri/sg/na/article/20110413.html