2012年1月19日
2011年度 レコメンド型地図ナビゲーションシステムの研究
研究成果報告書
政策・メディア研究科 修士課程2年 渡邉翔太
shotea@sfc.keio.ac.jp


◆研究活動概要
修士論文に向け本研究の目標の達成と、それに伴う実験の実施および得られたデータの
分析の為の統計知識について学習を行った。本研究では、ランドマーク認知に基づく地図
の生成手法について研究を行い、論文の執筆を行った。
主な活動内容
・修士論文の執筆
・2つの認知地図描写

◆修士論文の執筆
1.背景
私たちの日常生活ではWEBの普及により、サーベイ型の全体地図を目にする機会が多
くなっている。しかしながら、従来の案内の為の略地図の方が情報量や認知度の面でナビ
ゲーションには適しており、どのような情報が案内地図に必要かを調査する必要があっ
た。


2.研究概要
実験を通じて、市街地の記憶形態を調査し、私たちがどのような情報を地図を読む手が
かりとして用いているのか調査を行った。主に次の3点を調査目的として設定した。
・案内地図におけるランドマークの有用度
・建物や店舗以外の文字情報の取り扱い
・情報の出現頻度と個人の属性との関係性


3.関連研究
研究にあたり、地図のインターフェースやナビゲーション、空間認知に関する先行研究
を調査した。既往の研究では、携帯端末の画面に表示するために情報量を削減したり
[*1]、ランドマークの有用度を調査したもの[*2]が見られた。しかし、性別や出身地な
ど、個人の属性と地理記憶、認知地図の関連を調査したものは少なく、こうした要素を調
査することによって、地図情報の統制に合理性を持たせる事ができると考えた。


4.提案手法
(1)予備実験
案内地図に出現するランドマークの種類、出現頻度を調査した。多様性を持たせるた
め、被験者には自分の自宅から最寄り駅までの地図を描いてもらった。被験者は33名で
あった。
先行研究と同様の出現結果が得られたランドマークもあるが、対象地域によって、その
頻度に変化がある可能性が確認できた。また文字以外の情報、イラスト類も確認でき、そ
うした非言語要素も地図の読みやすさを検証するにあたって考慮する必要があると考え
た。さらにいくつかの項目に関しては、性差や専攻分野による出現頻度の違いが確認でき
た。

(2)本実験
予備実験で明らかになった知見と課題を基に、本実験では刺激の統一を行いさらに調査
を行った。対象地域として渋谷駅前、横浜駅前、新宿駅前の3か所を選定した。なお対象
地域の選出に当たっては、GPS機能付き携帯電話を用いてあらかじめ歩行者の移動パタ
ーンを観察し、選択ルートに一定数以上の目印となるランドマークが存在する経路を選ん
だ。今回は情報量を制御するため、5分間の時間制限をもうけた。被験者は42名であった。
実験では、地図の描写のほか各被験者の空間認知能力を測定するため、竹内(1992)[*3]の
方向感覚質問紙簡易版を使用し自己評価を行った。

5.実験結果と分析
・案内地図に有用な情報、内容および表現
イラストは、街のシンボルとなる構造物や待ち合わせ場所など、特徴的なスポットを示す
ために有効である事が分かった。また、ナビゲーションの為に矢印や目標値の星印や斜線
による強調表示は、空間能力の高い者が多く用い、一方で空間能力の高くない者は言語情
報をより多く要する事が分かった。これらの情報を組み合わせることで、より見やすい地
図の生成が可能になる。
・案内地図に必要な情報の優先順位
コンビニや飲食店の店名など具体的な店舗情報が優先される傾向があることが明らかに
なった。しかし今回の実験で研究対象とした繁華街では、アパレル店舗や電気店など、特
別な業種の店が多く並び、これらの情報の方が優先されることが分かった。
・情報の出現頻度と個人の属性との関連性
信号機を図案として描く傾向が、予備実験で確認されたためこの項目に関して自動車の運
転経験との関連性を調査した。しかしながら強い相関は見られず、この項目を記載する特
徴は男性に有為に見られることだということがわかった。また前述のアパレル店舗は
ファッションに関心のある女性、電気店は家電に関心のある男性によって多く描かれる傾
向が見られることからランドマークの描写には個人の日常の興味との関係があることが分
かった。空間認知能力の自己評価では、男性の方が得点が高かった。

6.地図の生成と考察
今回の研究を通して得られた成果から、案内地図を作成した。完成した地図では、文字
情報を減らしている。この研究成果を用いてどの程度の情報量が削減できるのかや地図の
読み手の心理負担、時間的負担などパフォーマンスの向上に与える影響を今後は調査した
い。またアルゴリズムをモデル化し、ユーザーに応じて情報量が変化するインタラクティ
ブな案内地図サービスの実装が今後の課題である。


◆参考文献
[*1] 丸山貴志子,谷崎正明 (2003),「デフォルメマップ生成のための道路変形モデルとそのシステム評
価」, 電子情報通信学会技術研究報告. ITS 102(695), 77-84
[*2] 中澤啓介,北望,高木健士,井上智雄ほか(2008)「ランドマークの視認性に基づいた動的な 案内地図
作成」, 情報処理学会論文誌 49(1), 233-241, 一般社団法人情報処理学会.
[*3] 竹内謙彰(1992),「空間認知の発達・個人差・性差と環境要因」, 風間書房.