2011年度 森泰吉郎記念研究振興基金「研究育成費」研究成果報告書

 

研究科題名:「ソフト・パワーをめぐる日本の対外政策の批判的考察−パブリック・ディプロマシーから国家ブランディングまで−

 

原田博行

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程2年 

学籍番号:80825082  ログイン名:handa

 

【研究の内容】

論文題目「ソフト・パワーをめぐる日本の対外政策の批判的考察−パブリック・ディプロマシーから国家ブランディングまで−」

 

<概要および研究の背景>

近年、文化をその国の外交資源として利用する対外政策が盛んに行われている。例えば、隣国の韓国は2008年に大統領直属の国家ブランディング委員会が設置され「韓流」という文化コンテンツと韓国製品を組み合わせたパッケージ戦略で輸出の促進や外国人に韓国への興味を持ってもらおうと政府が中心となり積極的に対外政策を実施している。日本においても2009年に内閣府の知的財産戦略本部によって「日本ブランド戦略」が発表され、ソフト・パワー産業の成長戦略が推進されることとなった。ここで言う、ソフト・パワー産業とはアニメ・ゲームなどのコンテンツ産業や食、ファッションなど日本のライフスタイルも含んだ包括的な産業となっており、これらを「日本ブランド」として海外に戦略的に発信していくことを目指している。ジョセフ・ナイの提唱したソフト・パワー論が登場して以来、日本はアニメ、漫画、映画、ドラマ、音楽などのポップカルチャーを対外政策に利用しようと必死である。そして、1990年代以降アカデミズムの世界でも国際関係の研究・実践において文化の戦略的活用への関心が高まっている。しかし、文化を戦略的に活用する政策は、相手国の「心と精神を勝ち取る」ことを目指す「パブリック・ディプロマシー」、商品のブランド、企業ブランドのように国家をブランディングし、イメージによって国家の魅力を高める政策である「国家ブランディング」、そして軍事力や経済力という強制力によらずその国の文化や政治的価値観、政策の魅力を源泉とした惹き付ける力によって相手国の国民の信頼や影響力を得る「ソフト・パワー」など重なり合った概念が存在する。日本でもクール・ジャパンをめぐる政策の推進など文化の戦略的活用への関心は高いが様々な概念が、様々な形で使用されており種々の政策の違いと関連性が曖昧なのが現状である。

 

<論文の目的>

冷戦後にソフト・パワー論が台頭する中で日本においてパブリック・ディプロマシーと国家ブランディング政策が積極的に推進された背景とその展開過程を分析する。特に、両理論の特徴を念頭に置きながら「クール・ジャパン」といスローガンをめぐって外務省と経済産業省を中心として政策が推進された背景と展開過程を分析する。また、イギリスや韓国の事例と比較しながら、日本の政策の特徴と問題点を明らかにし、今後の課題を考察する。

 

<研究手法>

研究手法としては、一次、二次資料を中心に文献調査を行う。各国政府、関係機関による報告書、新聞記事、各機関のウェブサイトなどの一次資料と、先行研究、文献、論文等の二次資料を利用する。また、研究の全体として、シンポジウムや関係者との意見交換の内容なども参考にしていく。分析枠組みは、まず【各概念の生成過程】に注目し、ソフト・パワー/パブリック・ディプロマシー/国家ブランディングは、どのような経緯で誕生した概念なのか、そして、日本においてはどのような政策背景を有しているのか、を分析する。次に【日本における各概念の流通過程】を分析し、日本が文化を巡る諸政策を通して何を実現したいのか、を明らかにする。さらに、【他国との比較】によって日本が文化を巡る諸政策でどのようにこれらの概念を用いてきたかをイギリス、韓国の事例と比較しながら検討する。

 

<結論>

・世界的に文化の戦略的活用への関心が高まるなかで、ソフト・パワー論と国家ブランディング論が急速に浸透し、既存のパブリック・ディプロマシーにも「文化の戦略的活用」という側面が一層強化されるようになった。

・そして、近年の日本の文化をめぐる対外戦略においては、「クール・ジャパン」というキャッチ・フレーズのもと、ソフト・パワーの源泉であるポップ・カルチャーやファッション、食文化を戦略的に活用し、外務省を中心としたパブリック・ディプロマーや経済産業省を中心とした国家ブランディングが展開された。

 

【主な発表日程】

GR中間プレ 1019

GR中間発表 1022

GRピルグリム発表 1224

・修士終了プレ発表 126

・修士最終試験 131日、21

 

【その他】

・論文テーマに関係するシンポジウムやイベントへの参加

経済産業省主催CREATIVE TOKYO フォーラム記者発表

1011日)

CREATIVE TOKYO フォーラム参加(114日)

 

・関係者との意見交換

内閣広報官の四方敬之氏、内閣官房内閣広報室 内閣参事官 加治慶光氏と意見交換をさせていただいた(1121日)。

 

2011年度の研究活動及び研究成果は、森泰吉郎記念研究振興基金と基金を運用して頂いた慶應義塾大学湘南キャンパス研究支援センターのおかげです。研究育成費は主に文献購読、研究に必要な備品の購入に使用いたしました。ありがとうございました。

 

 

2011228

原田博行