2012.02.29

2011年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金
「研究者育成費 修士課程・博士課程」


研究課題名「低・未利用地の時間的変化が生物分布に及ぼす影響」


政策・メディア研究科
板川 暢

 

研究主題:「生物相との関係から見た都市緑地・河川の評価」

1.低・未利用地の時間的変化が生物分布に及ぼす影響

今年度調査地選定をを行い、来年度より現地調査及び分析を行う。
生物生息空間が減少している都市において、既存のストックを活かしながら、効率的に生物多様 性の保全に取り組むことが求められている。当研究では、コモンデータによる生物の分布情報と、 バッタ類を指標にした現地調査で得られた分布情報から、低・未利用地の時間およびに空間分布 の動態的な変化が、生物の生息・分布に及ぼす影響と効果を明らかにすることを目的とする。特 に、マクロスケールでは、コモンデータを利用して、生物の広域的な分布と低・未利用地の動態 的な分布の関係性、ミクロスケールでは、現地調査の結果を基に、低・未利用地への移入・分布 を規定する要因の影響度が時間変化に伴ってどのように変化するかを、多変量解析を用いて解明 を目指す。

2.東京湾沿岸部埋立地における緑被分類とバッタ相の関係について

・今年度分析及びにまとめを行い、学会論文へ投稿した(採択済・日本造園学会2012年度研究大会論文集 掲載予定)。
本研究は、臨海埋立地の緑地の質を生物の視点から把握することを目的とする。人工地盤である埋立地の緑地環境を、生態的な機能から区分、記述する手法は十分検討されていない。当研究では、緑地構造との関係が密接かつ人工的な空間に生息が期待できる生物としてバッタ類を指標に、生息状況と緑被分布の関係性を明らかにし、当該地域におけるバッタ類の生息予測を行った。調査は、公園や緑道、植栽帯などの計71箇所で出現種と個体数の記録を行った。生息状況と緑被分布の関係性の分析およびに生息予測は、TWINSPANによる出現種の分類を行い、各種群の出現個体数を目的変数、緑被分布に関する数値を説明変数にした一般化線形混合モデルを用いて行った。

キーワード:バッタ類(直翅目), 東京湾, 埋立地, 緑被分布, TWINSPAN, 一般化線形混合モデル

3.土地利用パターンとトンボ類の分布に基づく都市の生物多様性指標 -ジャカルタを事例に-

・今年度調査を行い、今年度分析及びにまとめを行っている。
生活・福祉といった人間活動は基礎的かつ直接的に生態系サービスに依存しており、その提供の基盤となっている生物多様性の重要性が謳われており(TEEB,2010)、この生物多様性の保全・向上のため、都市域においても生物生息空間の保全と創出が不可欠と考えられるようになった。日本国内においては人口減少時代に即した都市計画の展開が議論されている一方で、開発途上国では人口は増加し続けており、両者とも無秩序な開発を抑制し、計画的な開発が求められている。こうした状況から、都市や国土レベルでの生物多様性を定量的に評価する必要性が論じられており、その手法についての議論が進んでいるところである(森本,2010 など)。  アジアを中心とする途上国の都市域では、人口の拡大に伴い、居住域をはじめとする都市的土地利用が無秩序に拡大しており、生物生息環境は分断・消失を続けている。この状況を補完するために、都市の生物多様性の保全に向けて、モザイク性の高い土地利用を整備することが提案された(UNEP,2010)。生物の分布を促進する要因は、生息地の内部環境だけに留まらず、環境要素の配置や周辺土地利用など、マクロスケールの要因が影響していることが示されている。都市や国土スケールでの生物多様性評価を行う際には、広域を効率的に評価する必要がある。広い範囲を面的に評価するためには衛星画像や航空写真を用いたリモートセンシングが効果的であると言われている(今西,2010)ほか、自然環境保全基礎調査などの既存の基盤データを用いて評価する手法が提示されている(Kadoya et al,2010)。本研究では、都市の生物多様性を広域かつ面的に評価するために、トンボ類を指標にした生物多様性評価手法の提示を試みる。