2011年度森基金
研究成果報告書
研究題目名:商品のデザインとユーモアが消費者に与える影響
政策・メディア研究科 修士課程1年
高田芳和
学籍番号:81124877
■研究概要
研究当初は、特に“視覚情報”におけるデザイン(意匠・構成の工夫)やユーモアが消費者に与える影響、をテーマに文献を読み進め、近世外分光法(NIRS)による実験を目指して研究を進めていたが、「1.NIRSによる実験デザインのしやすさ」と「2.学部時代からの研究テーマ」を考慮して、“聴覚情報”における「構成の工夫」や「音楽におけるユーモア」にテーマを絞って実験を行った。
中でも、聴覚情報において「構成の工夫やユーモア」が比較的体系化されている「和声(Harmony)」を研究題材にすることで、聴覚情報でも当初の目的に沿った成果が期待できるのではないかと考えた。
現在、日本を含め世界中で用いられている西洋音楽の理論には、「音楽文法」というものが存在する。16世紀以降、Rameauを中心とした作曲家によって機能和声や調性が体系化され、音楽に「文法」を生じさせることが可能になった。言語と音楽は「耳で聴き、口で発する」という点で同じデバイスを用いていることから、音楽心理学では音楽を聴取する際に脳の言語理解における機能を借用していると考えられるが[1]、音楽に「文法」を生じさせることで、より言語理解の機能を借用して音楽を理解できるようになったおかげで、世界中に西洋音楽を前提とした音楽が広まったと考えられる。
本研究では、「和声付きメロディー」聴取時におけるブローカ野の役割を解明するため、近赤外線分光法(NIRS)を用いて単旋律及び和声課題聴取時の脳機能計測実験を行う。大脳皮質における毛細血管のヘモグロビン濃度変化から神経細胞の酸素使用を観測することで、側頭葉の活動及び脳活動における西洋音楽体系の役割の解明を目的とする。
■先行研究
和声・調性と言語野の関係については、以下のような先行研究・文献がある。
[
脳機能イメージング研究 ]
・単旋律と和音付きメロディーにおける逸脱刺激の聴取をEEGで計測した際、和音付きメロディーにおいて左ブローカ野付近に有意なミスマッチ反応が見られた。[2]
・左ブローカ野に障害を負った患者には和声進行の逸脱におけるミスマッチ反応が見られなかった。[3]
・音楽文法の処理におけるIFGの関与が示唆されている。
[4]
■本研究のアプローチ
和声とブローカ野の関係については、脳波(EEG)による実験は行われているが、脳血流を計測した(NIRSによる)実験はほとんど行われていない。また、調性と脳活動の関係を調べた脳計測実験はほとんど行われていない。本研究では、近赤外線分光法(NIRS)を用いて、「調性の捉えやすさ」「和声の有無」を変えた3種類のメロディー聴取時における「(左右の)ブローカ野」の脳活動の計測を目的とし、実験を行う。
被験者は楽器学習の経験がないもの(〜5年以内)を対象とし、側頭葉(下前頭回〜角回、縁上回)に左右各15チャンネルずつプローブを配置する。被験者は10名を予定している。
■実験デザイン
刺激には、YAMAHA XG-Worksのピアノ音で作成した4小節・7音のメロディーを用い、レスト10秒を挟んで、テンポを80(刺激時間12秒)として30施行聴取させる。課題には、「メロディーのみ」「和声付きメロディー」「メロディーのみ2(調性が捉えにくいもの)」の3種類を用いた。
今後は、得られたデータを解析し、「和声(Harmony)」課題に対する側頭葉の反応から、特に「構成の工夫」や「音楽的ユーモア」に関連した反応を見つけるべく、分析・考察を行っていきたいと考えている。
■参考文献
1)東条敏, 認知科学会2011冬のシンポジウム論文集, 「人間の言語機能が理解する楽曲構造」(2011)
2)
S.Koelsch and S Jentschke ,“Differences in Electric Brain
Responses
to Melodies and Chords”, J of Cognitive
Neuroscience,2010
3)
D Sammler, S Koelsch, AD Friederici, “Are left fronto-temporal brain areas a
prerequisite for normal music-syntactic proccessing?”, Cortex,
2010
4)
G Novembre and PE Keller , “A grammar of action generates predictions in skilled
musicians”, Conscious Cognition, 2011
今回ご援助頂いた2011年度森泰吉記念研究振興基金「研究育成費」は、自身の分野理解のための脳・神経科学関連書籍、統計関連書籍、及び実験における交通費やデータ保存機器の購入にあてた。このような経済的支援のおかげで分野に対する基礎体力を経て脳・神経科学の領域や音楽の持つ可能性の広大さを知ることができた。この場を借りて御礼申し上げます。