2011年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書
No. 107 「車両間ネットワークにおけるリッチコンテンツの流布」

澤田 暖

学籍番号: 81124720
ログイン名: dans
政策・メディア研究科 修士課程1年
所属プログラム: CI
プロジェクト: モービル広域ネットワーク


研究要旨

近年、モバイルデバイスに関連する技術発展は目覚しいものがある。そんな中、様々なデバイスが通信機能を持ち、グローバルなインターネットに接続され、シームレスに情報をやりとりしている。その一方で、無線通信インフラへの負荷は日に日に増加する一方であり、ユーザ経験を損なうことなく、デバイスの増加に耐えうるネットワークの構築が課題となっている。

そんな中、インフラ型の通信に依存しない、アドホック通信分野での研究が進められている。アドホック通信がもたらす最大のメリットは、インフラに一切負荷をかけることなく、物理的距離が近いデバイス同士で直接通信が可能となることである。一方で、モバイルデバイスの「移動」や、無線の通信可能距離を加味した場合、アドホックネットワークのトポロジ構成や通信品質は大きな不確実性を含む。

本研究では、既存のインフラ型のネットワーク(3G網など)と無線アドホックネットワーク双方の特性を生かし、近くにいる車載デバイス同士のグルーピングを行い、ドライバー間でリッチコンテンツのを流布共有する基盤の実現を目指す。

主なユースケースとしては、周辺にいる自動車間同士でアドホックネットワークのにいる者どうしでのビデオストリームの共有を想定する。例えば、自分の車両の前に、トラックなどがいた場合、トラックの前は完全に死角となってしまう。この時、トラックを追い越そうとすると、非常に危険である。そこで、自車両とトラックの車載デバイス同士で動的にアドホック通信グループを作ることができたら、トラックのリアルタイム前方映像のストリームを受信することが可能となる。



アプローチ

本基盤を実現する上で、一番の課題は「場」を共有するデバイスの動的グルーピングである。本研究ではグルーピングの際に、GPSによる位置情報・デバイスの向き・周囲にあるWi-FiアクセスポイントのBSSIDをキーとして用いる。これら情報を一度サーバ上に集約し、総合的に勘案することで、同じ「場」を共有しているデバイス同士を動的に判定し、グループを形成する。その後、グループごとに固有のESSIDと無線LANのチャンネルが割り当てられ、アドホックネットワークが構築されるものとする。

これまでの成果

2011年度秋学期は、米国マサチューセッツ工科大学のメディアラボに拠点を置き、 Viral Spaces Groupで本研究に関する検討を行った。その上で、プロトタイピングへ向けた既存技術のサーベイと、システムの全体像の設計を行った。現在は、アドホックネットワークのグループ形成アルゴリズムとビデオストリームフレームワークをAndroid上に実装中である。

マッサチューセッツ工科大学には、世界中から優秀な研究者や学生が集まっており、非常に刺激的な日々を過ごすことができた。特にMedia Labには、本当に様々な経歴やバックグランド、専門性を持った学生が同じ空間に集結しており、アドホックビデオコラボレーションの研究をすすめる上でも非常に有用なコメントやアドバイスをもらうことができた。



今回の森基金の助成金は、マサチューセッツ工科大学までの渡航費の一部として利用させていただいた。 SFCの研究環境も非常に優れているが、普段とは異なる、海外の研究環境で自分の研究をすすめることは、様々な意味でプラスの面にはたらくということが身をもって体感できた。来年度も是非機会があったらマサチューセッツ工科大学に再び赴きたいと考える。

来年度の予定

本システムの一次プロトタイプを、5月を目処に完成させ、デモと実験を行い、改良を行うと共に、修士論文の執筆を進めていく。