寄付者と非営利組織を繋ぐ中間支援組織の災害時における役割について
修士課程2年 PS 石井陽子
【目的】
東日本大震災において多くの支援金(非営利組織をサポートする寄付)を仲介した中間支援組織(支援金中間組織)に着目し、その組織の「普段の活動における傾向」を明確にすることで、今後の災害に備えて支援金中間組織が取り組むべき活動を提示することである。
【方法】
質問紙の事前送付による半構造化インタビューを行った。基本的には対面形式、相手の都合によってはメールによる調査を実施した。
【調査対象】
東日本大震災で支援金を仲介した中間支援組織(支援金を仲介したので以下では支援金中間組織と呼ぶ)14団体を対象とした。
表1 調査対象の支援金中間組織
団体名 |
支援金総額(1月現在) |
ジャパン・プラットフォーム(JPF) |
67億127万2,644円 |
日本財団(CANPAN) |
38億4,761万7,291円 |
中央共同募金会 (災害ボランティア・NPO活動サポート募金) |
30億6,909万2,895円 |
JustGivingJapan |
7億1,657万9,783円 |
日本NPOセンター |
1億4,281万691円 |
被害障害者支援ゆめ風基金 |
1億1,859万9,050円 |
パブリックリソースセンター |
1億111万9,046円 |
Think
the Earth |
8,339万199円 |
国際協力NGOセンター(JANIC) |
7,842万4,110円 |
日本フィランソロピー協会 |
2,718万2,134円 |
公益法人協会 |
2,417万4,650円 |
助成財団センター |
795万円 |
市民活動センター神戸(KEC) |
760万9,918円 |
東日本大震災復興NPO支援・全国プロジェクト |
264万4,861円 |
【結果】
支援金中間組織14団体を支援金の分配方法により、3つに分類した。一つ目は、普段から交流のある非営利組織のみに支援金を分配する方法を取った事例である「ネットワーク型」、二つ目は、普段から交流はないが新しく関係を構築した非営利組織のみに支援金を分配する方法を取った事例である「非ネットワーク型」、三つ目は、ネットワーク型と非ネットワーク型どちらも実施した事例である「混合型」である。下記の表2が各タイプに当てはまる団体である。
表2 支援金中間組織の分類
ネットワーク型 |
非ネットワーク型 |
混合型 |
・国際協力NGOセンター (JANIC) |
・日本財団 ・中央共同募金会 ・日本NPOセンター ・公益法人協会 ・助成財団センター ・東日本大震災復興NPO支援・全国プロジェクト |
・ジャパン・プラットフォーム(JPF) ・JustGiving Japan ・被災障害者支援ゆめ風基金 ・パブリックリソースセンター ・市民活動センター神戸 (KEC) ・日本フィランソロピー協会 ・Think the Earth |
インタビュー調査の結果、分類ごとに特徴があることが判明した。それらの特徴をまとめたものが表3である。このように、「ネットワーク型」「非ネットワーク型」「混合型」という支援金の分配方法により、支援金中間組織には違いがあるのである。
表3 支援金中間組織の分類ごとの特徴
ネットワーク型 |
非ネットワーク型 |
混合型 |
・信頼できる団体に分配できる ・迅速に分配できた(等分配) ・定期的な報告がスムーズ |
・災害時の支援金仲介は今回が初めて ・普段交流のある団体が、支援金集めの仕組みや分配先を選定する際に役立った
|
・迅速に分配できた (ネットワーク型の側面) ・普段交流のある団体が、分配先を選定する際に役立った
(非ネットワーク型の側面) |
また、表1で示されているように、1億円以上を仲介した支援金中間組織が7団体ある。内、組織の規模が小さく知名度も高くない団体が5団体含まれている。それらの組織を東日本大震災以前の国内の災害時に支援金の仲介経験があるか否かで分類したものが、表4である。支援金の仲介経験の有無が、今回の活動の迅速性等に影響していると考えたため、このように分類した。
表4 1億円以上仲介した支援金中間組織の分類
国内の災害において 支援金の仲介経験があるケース |
国内の災害において 支援金の仲介経験がないケース |
・JustGiving Japan ・被災障害者支援ゆめ風基金 ・パブリックリソースセンター (GiveOne) |
・ジャパン・プラットフォーム(JPF) ・日本NPOセンター
|
それぞれに当てはまる組織のインタビューを分析した結果、表5のような特徴が見出された。国内での支援金の仲介経験があるか否かで、活動の特徴が異なるのである。
表5 1億円以上仲介した支援金中間組織の分類ごとの特徴
国内の災害において 支援金の仲介経験があるケース |
国内の災害において 支援金の仲介経験がないケース |
・活動実績があるので、 スムーズ に支援金集め・分配が可能とな った ・広報活動に著名人を活用してい る |
・以前から協力関係にあった団体 から助言を得られたため、ノウ ハウがなくても支援金集め・分 配が可能となった ・認知度が高く信頼のおける団体 と関わりが深い |
【まとめ】
調査の結果をまとめ、災害時に支援金中間組織が活躍するために必要な要素を述べる。まず、活動実績の無い支援金中間組織の場合は、支援金仲介経験のある組織との関係構築が重要である。例えば、支援金の分配先の選定や寄付者への活動報告等のノウハウを、活動経験のある組織から教わることでスムーズに活動できた。つまり、災害時の活動経験が無いというハンディを支援金の仲介経験がある組織からの助けで補ったのである。
また、知名度が低い組織の場合、著名な個人や活動実績のある組織との協力関係の明確化が信頼性の担保となっていた。具体的には、広報活動での有名人の活用や活動実績のある有名な組織と協働でプロジェクトを立ち上げるということが挙げられる。知名度の低い小さな組織であっても、著名な個人や実績のある組織と交流があることで、信頼性の担保に繋がったのである。そのため、非営利の組織であっても、広報等で著名な存在と協力関係を築くことが大切だと思われる。今回の調査では、以上の2点が、災害時に支援金中間組織が活躍するために必要な要素であると言える。
次に、今回の調査の課題について述べる。今回の調査は、2011年3月11日に発生した東日本大震災において活動した支援金中間組織を対象とした。そのため、公的な報告書等が無い状態で調査を進めた。また、支援金を分配された非営利組織の活動に対する評価や被災者への意識調査などはまだ行われていない状況であった。つまり、オンゴーイングの調査であったのでデータが足りないという課題がある。今後、報告書等が揃い、データが十分にある状態で再度考察を加えるべきである。
しかし、今回の調査は支援金中間組織の中でも、特に災害時の活動に着目したという特徴がある。このような調査は、先行研究では見られない。加えて、支援金を取り上げた研究も他にはない。そのため、本研究は課題もあるが、意義も十二分にあるのである。