2011年度森基金研究成果報告書

 

 

 

 

 

慶應義塾大学 政策・メディア研究科

所属プログラム:GR

修士課程2 折原健太

 

研究成果の報告                                           

 

 修士課程最終学期につき修士論文を提出したので、下記報告する。

 

論文題目:

日本型「人間の安全保障」の変容:

政権交代、自衛隊の海外派遣との関係に焦点を当てて

 

論文概要:

 本研究の目的は、日本外交における「人間の安全保障」の位置づけを明らかにすることである。最大の着眼点は自衛隊の海外派遣との関連性であり、イラク復興支援活動とハイチPKOを事例として、派遣経緯や活動内容などにおいて同概念がどのように関係したかを分析する。そして同時に、ハイチPKOを分析するべく、民主党政権に移行したことで生じた変化にも着目し、マニフェストや首相、外相の演説などからその姿勢を考察する。

 「人間の安全保障」は、1994年にUNDPが提唱した概念である。日本外交においては1990年代後半、小渕首相のリーダーシップのもと積極的に取り入れられた。その後、外務省や緒方貞子、JICAなどが概念の普及、実践に努め、今となっては日本外交、とりわけ開発援助の主柱となる考え方となっている。

 ただし、政権としての姿勢に着目するならば、小渕以降の自民党政権末期や民主党政権では、特段積極的であるとは言い難い。現在、「人間の安全保障」の普及や推進、実践は、実施機関である外務省やJICAに委ねられた形となっている。

 自衛隊の海外派遣については、イラク復興支援活動やハイチPKOの支援活動を見る限り、「人間の安全保障」の実現に一定程度資するものであることがわかる。しかしながら、イラク、ハイチともに「人間の安全保障」は派遣の根拠や目的として明示的に用いられなかった。派遣のための法的整備や解釈、日米関係の深化や修復がより重要な課題であり、「人間の安全保障」への貢献は付随的に起こったものと考えられる。民主党は野党時代にPKO派遣の根拠として「人間の安全保障」の実現を掲げているが、防衛省・自衛隊にとってのプライオリティは低く、外務省の姿勢と比較してもその温度差は歴然としている。

 他方、2010年に改定された防衛大綱に「人間の安全保障」の文言が入れられたことの意義は大きい。今後、「人間の安全保障」はPKOなど自衛隊の海外派遣の直接的な根拠にはならないものの、その意義を説明するキーワードとして用いられることは十分にあり得る。

 

キーワード:

1.人間の安全保障 2.日本外交 3.政府開発援助

4.政権交代 5.自衛隊の海外派遣

 

 

基金の活用                                             

 

 研究に際しては、貴基金を有効活用させていただいた。とりわけ資料収集やフィールドワークにおいて不可欠な資機材を準備することができた。厚く御礼申し上げる。