2011年度 森泰吉郎記念研究振興基金報告書
デジタル情報収集によるユーザ追跡のリスク分析と対策

上原 雄貴
慶應義塾大学政策・メディア研究科 前期博士課程2年


研究要旨

情報技術の発展に伴い,ネットワーク上に発信されるデジタル情報は容易に 記録できるようになった.これにより,今まで単独ではユーザの個人情報と ならなかった情報を複数組み合わせることで,ユーザプライバシが侵害され る可能性がある.この問題に取り組むためには,ユーザが定常的に発信して いる情報を組み合わせた際に,どの程度までユーザプライバシが脅かされる のかを明確にして議論する必要がある.本論文では,ユーザが無意識に発信 している情報の収集によって,ユーザプライバシが侵害される可能性を提示 する.個人情報になりうるユーザ情報は,情報収集者と対象ユーザとのネッ トワークの上での関係によって変化する.そこで,一般的に取得可能である と見込まれる情報を複数挙げ,ユーザのプロファイルを作成する手法を提示 する.これらの情報によって,ユーザを特定することができれば,ユーザ のネットワークにおける行動履歴や,実際の生活時間や場所など,ユーザプ ライバシが脅かされる危険性がある.そして,提示した手法を実証するため に,各情報を収集・解析するシステムを実装し,検証し,ユーザのプロファイルが作成できるかを検討する. そして,ユーサか無意識に発信しているテシタル情報取り扱いに関するリスクを広く告知する.

アプローチ

ネットワークにおいて,取得可能な情報は,ネットワークのポリシや構成によって変化する.しかし,多くの環境では,パケットのヘッダ情報の取得は比較的容易である.そこで,今回は第一歩としてパケットのヘッダ情報から,ユーザのプロファイルを作成可能かどうかを検証する.検証方法は図1に記す.また,ネットワーク上で,サービス探索など同一ネットワーク上にブロードキャストを利用して,自身のプロファイルを発信している.このような通信はユーザが意識せずに行っている場合がある.そこで,サービス探索などネットワークに参加するだけで,ネットワーク全体に発信している通信にも焦点を当てて,図2に示すように検証する. 上記の情報はネットワークにホストが参加しなければ得られない.しかし,ネットワークに関わらないユーザが取得出来る情報も考慮に入れる必要がある.実際に,物理的に対象ユーザの近くで無線通信,赤外線通信,Bluetooth通信,ICカードの情報を取得することができる.近年,無線LANやICカードの普及により,これらのプライバシを守る技術は多くある.しかし,携帯電話やホストのほとんどに利用され,容易に利用できるBluetoothに関する情報はあまり着目されていない.そこで,Bluetooth情報に着目し,図3のように利用することでユーザのプライバシの影響について検証する.

パケットヘッダ情報プロファイル手法 ブロードキャスト情報プロファイル手法 Bluetooth情報プロファイル手法
図1. パケット
ヘッダ情報
による
ユーザプロファイル手法
図2. ブロードキャスト
情報による
ユーザプロファイル手法
図3. bluetooth
情報による
ユーザプロファイル手法

成果

2011年度の成果について述べる.2011年度は,本提案手法実現のために必要な要件や,システムによって実現可能な概念について検討・実験した.それらの実験結果をまとめ,以下の発表と,論文誌に投稿をした

発表

実験で収集した情報とプロトタイプをもとに,慶應義塾大学SFCオープンリサーチフォーラムにおいて発表し,フィードバックを得た.

論文誌採録

アプローチで述べた3つ手法のうち,より研究を進めた2手法の実験結果を情報処理学会特集号に[社会活動を支える情報システム]投稿し,採録された.
そして,情報処理学会特集号2012年2月に掲載された.論文誌の情報を以下に記載する.

上原 雄貴,水谷 正慶,武田 圭史,村井 純."ネットワーク通信情報の収集によるユーザ追跡". 情報処理学会論文誌 , 53(2):461–473, feb 2012.