研究成果報告書
「設置環境によって偶発的に変化する実体ディスプレイ」

政策メディア研究科　後期博士課程2年
81149175
平山　詩芳
hirayama@sfc.keio.ac.jp

研究成果実績
　　現在、一般的に広く使われている工学ディスプレイは、常に安定して同じ映像を表示できることに特化したシステムである。これに対して、本研究では、設置された環境の要素をシステムの挙動に取り入れ、観賞する一時の条件によって、偶発的に変化していく有機的なインタラクティブメディアを実現し、同時にこれによって可能になる偶発性を含んだ視覚表現のプラットフォームを示すことを目的としている。
　このような目標の実現のために、本研究では実体のある素材、特に、シャボン膜に着目し、描画出力に利用する方法を検討している。この素材は、非常に薄く繊細であるため、風や気温といった環境要素にダイレクトに影響を受けると同時に、同時に膜の伸縮性が高く，その形状に対して様々なアプローチで制御を行え、また膜の破裂・再生か可能であるなど、観賞者が直接触れたり，壊したりするなどといった積極的な介入が可能となる．本研究では、シャボン玉が膨らむ位置を固定し、その大きさやタイミングを制御することによって、シャボン玉の集合体によって動的な表現を生成するシステムを考案してきた。
　昨年度以前に作成した地面に対して水平方向に2次元構造だったのに対して，より広い空間的な利用が可能となるシステムの開発を行った。１つはシャボン玉を細い糸に這わせて落下させることで空間中に描画を行う"Shaboned Drop"、もう一つは長いパイプの先端に上向き方向にシャボン玉を繰り返し生成することが可能なシャボン玉生成モジュール"Shaboned Garden"である。このうち、Shaboned Gardenは、これまでにシステムのスケールが固定化していたのに対し、モジュール化したことで空間に応じて様々な配置が可能になり、個々のシャボン玉の制御がより多様化するなど、より自由度の高い描画が可能である。このシステムは2012年11月に行われたOpen Research Forum2012，２月に二子玉川ライズ XD Exhibition2013にて展示を行った他,３月にITOKI SYNQAでも、展示を予定している.　
　本システムの展示では、環境によってはシャボンの膜生成が困難になるなど、システムの精度の面で課題は残るが、子どもは積極的にシャボン玉を割ろうとするのに対して、大人はシャボン玉の振る舞いから規則性を見出し、その挙動を見守るなど、人により様々観賞の仕方が見出された。これによって、同じものをプログラムでも実際には見る時々によって、内容の異なるディスプレイとして機能したものとかんがえられる。また、ピクセルの挙動を「シャボン玉をふくらませる」という、できるだけ自然に近い振る舞いのままで制御を行ったため、従来の実体ディスプレイに比べ、機械じかけのキネティックな印象が軽減し、老若男女あらゆる層に対して訴求力訴求力が高く、いかなる環境に対しても親和性の高いディスプレイであるとかんがえられる。
　また、今年度は「かわいい人工物」研究部会のシンポジウム、アメリカ・サンフランシスコでおこなわれた4th Applied Human Factors and Ergonomicsにおいて， ”Kawaii as an aesthetics for product and system design”というセッションの中で、本研究に関する発表を行った。工学の分野では，これまで学会発表の中心はシステムの新規性・正確性・利便性など，数値的に評価ができる部分が中心であった．これに対して，本研究が関連するインタフェースやインタラクションの研究においては，今回のテーマであった「かわいい」という感覚をはじめとした、感性的な感覚に現在注目が集められている．
　本研究が利用しているシャボン玉の見た目による印象、、幼少期の遊びと関連付けられた親しみやすさなど素材がもっている普遍的な価値，人間に対するアフォーダンスの効果、また、壊れやすさなどシステムの利便性・安定性の面では欠点にしかならない部分の価値や、テクノロジー技術を隠すテクノロジーなどという点で非常に多くの議論が行われた。このような感性的な評価点というものは、
論理的には語り辛いものの、一方で人間にして「何だかよい」という心地よさを与え、便利さ以前単純に好きだと思わせるなど、実際に人がその装置を目の前にした振る舞いを想定した多くの議論を行われた．　
　本研究では今後、システムの改善と同時により描画と表現の面での検討を行う。また、本システムの開発を通して正確に伝達しないメディア、便利さとは異なる価値のなるメディアという点で、今後人の心理的影響と社会・文化面での効果などを検討していく必要があると考えている。

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図1 Shaboned Drop 1	図2 Shaboned Drop 2
図3 Shaboned Garden 1	図4 Shaboned Garden 2
図5 Shaboned Garden 3 XD Exhibitionにて	図6 Shaboned Garden 4 XD Exhibitionにて

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