連勇太朗/政策・メディア研究科博士後期課程/81249171

2012年度森基金報告書

デザインリソースによる木造密集地域の漸進的更新手法





□概要

本研究は、近代の都市計画理論で扱うことの難しかった木造密集地域(木密地域)の更新を、デザインリソースによって漸進的に実現する方法論を、実施プロジェクトを通して研究する。木造密集地域は都市防災の面で課題が非常に多く、都市計画において、最も緊急性を要する対応が求められる地域とされている。本研究は、情報化社会によって可能となったデザインリソースによる新たなデザイン手法を活用し、この問題に切り込む。筆者が実際に開発した「木賃再生レシピ」という44種のデザインリソースを用いて、実際に木密地域の木造アパートを地元主体と恊働で改修し、その有効性を検証すると同時に、防災に対応した新たなレシピの新規開発を行う。また、木賃再生レシピを地元主体に提供することで、自律的な都市の更新可能性を検証する。


□活動成果

本研究を実践的に進めていくために研究プロジェクトそのものを昨年NPO法人化した。9月に正式に法人化の手続きが完了し 「NPO法人モクチン企画」として、木造密集地域の漸進的更新のための研究と具体的実践を進めてきた。
ひとつの大きな成果は、もともと冊子として管理していた「木賃再生レシピ」をすべてウェブで閲覧できるようにし、10月に「ウェブ版モクチンレシピ」として正式にリリースしたことである。このことにより、より多くの主体に対してモクチンレシピを提供出来る機会が増えた。ウェブサイトを制作するにあたり、エンジニアリングのチームと恊働し、デザインのノウハウを要素化し、要素ごとに属性を設定し、関連づけ可視化するというデータベースのモデルを開発した。現在、プロトタイプとして作成したこのデータベースをもとに幾つかの実験を行っている段階である。


http://mokuchin-recipe.jp/


また10月よりモクチンレシピのリリースと合わせて地域密着型の不動産管理会社10社以上と協力関係を結び、デザインリソースである「モクチンレシピ」を利用した改修プロジェクトを開始した。このようにしてデザインリソースであるモクチンレシピを木造アパートに関係する主体(コミュニティ)に対して提供することで、面的に地域の更新をどのように進めていくことが可能か検証中である。現在、5以上の地域でプロジェクトを進めている。





具体的な実践と同時に、下記図にあるような木造アパートや木造家屋の間取りやタイポロジーの分析分類や、木造密集地域のフィールドワークやリサーチを行った。タイポロジー分析は、物件のデータを1000件以上分析し、下記に示すような系統整理を行った。また、この他にも生活者の実態調査や木造密集地域を構成するビルディングタイポロジーの整理および、木賃アパートや木造在来家屋の建物としての要素分解を行い、デザインリソースの適用可能範囲や方法を検討した。




□活動成果リンク

NPO法人モクチン企画>>>

モクチンレシピ>>>

idea 2 product>>>


また、この他にもストックホルムで開催されたIdea 2 Productというビジネスコンテクストに出場し研究成果を発表した。Idea 2 Productは、世界中の大学の研究者が開発したシステムやプロダクトを発表し、実社会への適用方法に関して発表する場である。モクチンレシピを支えるデータベースやウェブインタフェースの仕組み、さらに木造密集地域というターゲットをしぼり、地元不動産業者と協力しながら進めていくモデルは審査員からも高く評価された。


今後の課題

現在、上記内容をまとめた論文を執筆中である。2013年4月の提出を目標にデータをまとめている段階である。本研究は、木造密集地域そのものの研究とデザインリソースのふたつの柱によって構成されるが、本年度はバランスよく基礎的な整理を行うことができた。木密地域の更新は、本研究のテーマでもある漸進的成長にも関わるため、本年度の成果をもとにした来年度以降の展開が重要であると考えている。来年度も引き続き同じ主題で研究を進めたい。