2012年度 森泰吉郎記念研究振興基金成果報告書

田邉 浩介 kosuke@sfc.keio.ac.jp

題目

多フォーマットコンテンツ環境における関係性メタデータ作成のための基盤構築

研究の概要

 図書館や博物館においては、過去から現在に至るまで、利用者に供するコンテンツを組織化し、メタデータとなる書誌情報の記述や現物資料との対応を管理することを目的として、目録システムが構築されてきた。一方で、メディアの多様化、ネットワーク化された資料、多様な利用形態の出現により、 伝統的な書誌データモデルでは扱えなかったり、扱いに困難を生じたりする状況が発生している。 これらの状況から生まれる、目録への新しい需要に基づく調査と議論の結果から生まれたのがFRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records, 「書誌レコードの機能要件」; 以下「FRBR」と呼ぶ)である。FRBRにおける書誌データの新しい概念モデルは、1997年にIFLA(International Federation of Library and Associations; 国際図書館連盟)が最終報告として発行して以来、多くの研究や分析の報告が行われている。

 FRBRモデルは、書誌レコードに必要とされる複数の要素(Entity)を定義し、それらの要素の関連を記述することによって書誌データを表現する。FRBRモデルにおいて定義されている要素は以下の3つのグループに分けられる。

Group 1
資料についての記述のための要素のグループ。
Work(著作)
ひとつの作品。
Expression(表現形)
あるWorkの文字や音声として表現を表す要素。
Manifestation(体現形)
あるExpressionが本やCD、コンピュータ上のファイルのように流通するための形状を表す要素。
Item(個別資料)
個人や図書館によって所有されているあるManifestationの複製のうちの1部や1枚を表す要素。
Group2
Group 2
Group 1の要素について創作、出版などの責任を持つ人物や団体を表すための要素のグループ。
Person:
個人を表す要素。
CorporateBody:
組織や団体を表す要素。
Group2
Group3
Workに対するSubject(件名)となる要素のグループ。
Concept:
抽象的な概念を表す要素。
Event:
時代や出来事を表す要素。
Object:
物質を示す要素。
Place:
場所などの地理的なものを示す要素。
Group2

 このように、FRBRは書誌を複数の要素に分割し、その要素間の関係性を定義することによって書誌を記述する。このため、利用者が目録を検索する際、ある作品に対する翻訳、翻案、パロディ、また映像化や小説化によって制作された作品の情報を、関連をたどることによって入手できるようになり、情報探索の利便性の向上が期待される。
 しかしながら、FRBRモデルにおいて導入されたWork(著作)およびExpression(表現形)をどのような形で目録システムの中で実装し、またシステム上でどのように書誌のメタデータを作成し、どのように利用者に提示するか、また複数の図書館で作成されたFRBRの書誌データをどのように関連づけるかといった課題については、さほど多くの研究があるわけではない。
 本研究では、これらの課題解決に寄与することを目指したメタデータ管理システムとして、複数の図書館が用途によって複数種類のWork/Expressionの関連データを作成できるシステムを構築した。

活動報告

 本年度は、国立教育政策研究所教育研究情報センター教育図書館(以降、教育図書館と呼ぶ)の所蔵する教科書コレクションの書誌データのうち現行国語教科書を対象とし、複数の図書館が用途によって複数種類のWork/Expressionの関連データを作成できるシステムを構築した。開発中のシステムは、フリーソフトウェアとして公開を行っている

 本研究は、情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会の第97回研究発表会において発表を行った。また、システムやデータモデルに関する情報交換のため、2013年2月11日から14日にかけて、アメリカのイリノイ大学シカゴ校で行われた図書館・美術館・文書館のシステムに関するカンファレンスである、Code4Lib conference 2013に参加した。

参考資料

本報告書の図の出典は以下からによる。

以上