研究課題名: 南コーカサスにおける日本のODA

研究代表者名:ダヴィド ゴギナシュヴィリ

所属:慶應義塾大学 政策・メディア研究科 博士2

指導教員:廣瀬陽子

 

海外活動の報告

私は、82日から925日までの期間中に南コーカサス地域(グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア)において資料収集やインタビューなどの調査を行っていた。向こうで、JICAの現地の代表者、政府の官僚、実際に日本の援助で実施されているプロジェクトを担当する日本企業と現地の会社の代表者とインタビューを行い、研究に重要な書類を手に入れた。さらに、そのメリットさまざまなプロジェクトの現場を訪問し、そのプロジェクトによって実際に支援を受けている住民と話しができたという面で、日本のODAによって計画された案件のメリットやデメリットを分析する上で、非常に有意義な調査となった。

研究の目的は、南コーカサス3国に対する日本のODAの戦略を明らかにし、日本の政府開発援助(ODA)の発展やあり方を概観することである。

南コーカサスは大コーカサス山脈の南方に位置する地域の地政学的な呼称である。ロシア,トルコ,イランに隣接し、エネルギー源が豊かなカスピ海と、その資源へのアクセスを確保する黒海に面している点で地政学的に重要な位置を占めている。 「文明の十字路」とも称されるこの地域は、常にアジアとヨーロッパの大国の利益範囲として存続し、覇権争いの舞台でもなっていた。しかし、南コーカサスは日本外交においては重要な位置を占めておらず、従来から当地域に対する日本の関心は高くなかったと言える。

これらの事情に鑑みると、日本はなぜ関心の低い地域において主要なドナー国として登場しているのか?という理性的な問いかけが生じる。このクエスチョンを解明する要因は数多く、複雑な推論を包括的に把握する必要があるため、本研究において上記の問いは下記の2つのサブクエスチョンに分割されている:日本のODAは本地域においてどういう目標を追求するのか?なぜその特定の目標を追求するのか?の2点である。

これまでの南コーカサス3国に対する日本の援助の分析からは、日本のODAにはreal politicsの特徴であるプラグマティックなインパクトが強いという論点の裏付けが存在し、そのプラグマティズムを積極的にロビーしているのは日本企業である。しかし、その一方で、日本の援助政策には人道主義的な思想に基づいた要因も明らかである。同時に、日本のODAを分析する際に、欧米、とりわけアメリカの外交政策に配慮する必要がある。

南コーカサスの3カ国は、同一の地域にあるが、様々な要因から3カ国に対する日本の援助戦略は異なっている。それほど地理的に離れてもおらず、一見同じ対応をするかのようにも考えられる3カ国への日本の援助戦略の相違を分析することで、日本の援助戦略・外交戦略における決定要因を考察できる。

なお、本フィルドワークは、南コーカサスに対する外国の援助はいかなる形で現地の市民社会の発展に貢献しているかということに関心を有する私にとって、10月にグルジアで行われた議会選挙における市民社会団体の役割について調べる貴重な機会でもあった。この調査の結果を学術社会に紹介するために、2013130日にスラブ研究センターとハーバード大学のデイヴィスセンターが主催したワークショップにおいて発表者として参加するという目的でアメリカのケンブリッジ市を訪れた。

私の発表テーマはGeorgian Elections - On the verge between democratic transfer of power and nonviolent revolution」であり、当発表に対し東欧・旧ソ連の研究者また民主化や市民社会などの問題を研究対象とする学者によって興味を示し、非常に有意義な議論が行われた。

私が発表したワークショップ以外、私の滞在期間中にハーバード大学で行われた極東の民族問題をテーマとした特別セミナーや日本現代史・日露関係史を対象としたラウンドテーブルなどに参加し、ヨーロッパ、アメリカ、日本からの研究者と議論し、交流する機会も得たという面でも有意義な活動であったといえよう。