2012年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

カブトエビの発生に関わるsmall RNAの探索

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程1年
先端生命科学 (BI)
広瀬 友香


研究内容

 近年,多くのmicroRNA (miRNA) が同定され,その一部は真核生物の発生,特に形態形成に深く関与していることが明らかとなっている.一方,miRNA (18-24塩基) より塩基長が長いsmall RNA (sRNA) と発生に関する知見は乏しく,分子的な情報すら十分に得られていない.そこで我々は25-45塩基長のsRNAに関して,発生時期特異的な発現を指標にその分子種の同定を行うことを目的に据えた.また,幼生期に短期間で劇的な形態変化を遂げるヨーロッパカブトエビを対象生物とすることで,未だ見つかっていない,形態形成に関わるsRNAの同定を試みる.
 これまでに次世代シーケンサーによりヨーロッパカブトエビの各発生段階 (卵,幼生1-4令,成体) の12-45塩基の配列情報を約4700万本取得した.25-45塩基の配列を対象にsRNAの発生過程における発現パターン及び他種のnon-coding RNAとの配列類似性を解析した結果,リード数が多いものに着目するといずれかの1ステージ特異的に発現する配列が56種見つかり,そのうちの8種がtransfer RNA (tRNA) fragmentであると予測された.更に我々はヨーロッパカブトエビの成熟tRNA配列を数十種決定し,8種のtRNA framgnetのうち少なくとも6種が特定のアンチコドンを有したtRNAに由来する分子であることを確かめた.また,次世代シーケンサーにより取得した約1億本のゲノムDNAの配列情報を用い,5種がゲノムにコードされていることを明らかにした.次に,northern blot解析により5種の発現を発生段階で比較した.その結果,全ての候補が3令と4令で高く発現する傾向があり,次世代シーケンサーのリード数から予想した1ステージ特異的な発現パターンとは一致しないことがわかった.一方で,いくつかのtRNAからは発生段階によって異なる塩基長のfragmentが生成されている可能性が示唆された.以上の結果を元にtRNA fragmentの発生過程での発現や特徴について議論する.

※本報告書はWebで公開されるため、詳細な解析データは省略して記載した。


研究業績

国際学会における発表
○Hirose Y, Takane K, Noro E, Hiraoka K, Tomita M, and Kanai A. Characterization of Stage-Specific Small RNAs during Development of Triops cancriformis (Tadpole Shrimp). RNA conference 2012, Michigan, USA, May 2012
国内学会における発表
○広瀬 友香,高根 香織,野呂 絵美子,平岡 桐子,冨田 勝,金井 昭夫.ヨーロッパカブトエビにおいて発生時期特異的に発現するtRNA fragmentの解析.第35回日本分子生物学会年会,福岡,2012.