2012年度森泰吉郎記念研究振興基金

政策・メディア研究科 修士課程2年 先端生命科学(BI)
新川 はるか
Login ID: moruka, Student ID: 81124836

研究課題名:緑藻類 Chlamydomonas reinhardtii の貯蔵脂質の炭素源解明

植物は温度,栄養欠乏,強光など様々な環境ストレスに対して脂質組成を変化させることで細胞の恒常性を維持しており,
近年これら脂質を網羅的に解析するリピドミクスと呼ばれる分野が注目されている.緑藻のモデル生物である
Chlamydomonas reinhardtii は栄養欠乏,光条件などに応答して脂質組成を変化させることが知られており,
窒素栄養欠乏に伴ってトリアシルグリセロール(TAG)を蓄積する。この藻類は一般的に酢酸を含む培地で培養される。
しかし酢酸を添加しない独立栄養条件下における脂質代謝に関して未解明な部分が多い。
本研究では液体クロマトグラフィー−飛行時間型質量分析計を用いて脂質を分子種ごとに定量し,
液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析計を用いてそれぞれの分子種の脂肪酸鎖組成を解析し,
酢酸栄養の有無,窒素栄養充足条件(光量子束密度 160 μmol/m2/s)と窒素栄養欠乏条件(光量子束密度 0,15,30,60,160 μmol/m2/s)
に応じた C. reinhardtii の脂質組成の変化を調査した。
その結果,窒素栄養欠乏条件下において多くの TAG 分子種は混合栄養,独立栄養条件共に光量子束密度の増加に伴って蓄積したものの,
いくつかの TAG 分子種は弱光条件下において蓄積した。一方,多くの膜脂質では混合栄養条件下においては窒素栄養欠乏に伴って減少したが,
独立栄養条件下においては弱光条件下では窒素栄養欠乏に伴って増加した。脂肪酸鎖解析から,TAG の合成に関しては酢酸の有無と光条件の変化に応答して,
新規合成と葉緑体膜脂質の再利用経路の配分を変化させることが示唆され,膜脂質に関しては酢酸同化と光合成という
エネルギー獲得状況の違いによって膜脂質の組成を変化させることが示唆された。

研究成果
本研究成果を8th Annual International Meeting of the Metabolomics Society, Washington, DC. にてポスター発表した.
また,本研究成果を Journal of Phycology (アメリカ藻類学会誌)に Research note の区分で投稿し,現在論文原稿の訂正を行っている.