研究概要

 本研究では,粘土の形状によって色が動的に変わる光る粘土NeonDoughを開発・研究した.本研究の目的は,粘土にデジタル技術を内蔵することで,子供が粘土に興味をもち,創作意欲が高まり,新しい粘土表現の獲得である.子供は積み木やブロック,自然玩具などの創造的な知育玩具を用いた遊びを通して,素材の持つ特性を理解し,表現に繋げることができる.また近年,デジタル技術を内蔵したデジタル知育玩具が注目されている.
 本研究は粘土に着目した.粘土は柔軟性や可塑性を持つ素材であり,身体を通して形状と対話し楽しみながら造形表現を学べるツールとして広く親しまれている.しかし粘土の形状が自由なのに対して色は静的である.そこで形の変化により色や形状などが動的に変化するデジタル粘土を提案する.可塑性を理解しながら,従来の粘土にはない表現が可能になる.
 本研究では,形により色が動的に変わる光る粘土NeonDoughを開発した.本システムは電子回路やLEDから成るモジュールを内蔵した導電性粘土とデバイスで構成される.接続やちぎる,伸ばすなどのユーザの手の操作を認識し,色を動的に変化させる.さらに生成した色を保持するロック機能や明滅機能を開発した.また他のアプローチとして,スピーカーを内蔵することで音を生成したりやモーターを内蔵することで粘土を動かすことができる.子供のNeonDoughを用いた造形プロセスから,可逆性のある色の変化が創作のきっかけとなり,色と形を行き来しながら立体的な造形をする様子が見られた.実装した機能や体験の様子から,デジタル粘土の利点や電子知育玩具の在り方について考察する.
 

主な研究スケジュール

6月 森泰吉郎記念研究振興基金内定
8月4日~11日 ACM SIGGRAPH(LosAngels)Poster展示
9月14日 VR学会全国大会口頭発表
10月20日 修士課程中間発表
11月 ヒューマンインタフェース学会論文誌採録
11月22日23日 OpenResearchForum2012デモ展示
1月1日~7日 TechFest(India,Mumbay)デモ展示
1月11日 修士論文提出
2月1日 修士課程最終試験
2月23,24日 XD Exhibition 2013デモ展示
3月3日 ヒューマンインタフェース学会論文誌賞受賞
3月14~16日 Itoki SYNQA(京橋)展示予定

背景

近年,遊び道具にデジタル技術を入れることで,創造性を促すデジタル知育玩具が注目されている.本研究では,アナログな素材である粘土にデジタル技術を組み込んだ,デジタル粘土を提案する.粘土の形状の自由さにデジタルでしか表現できない機能を付加することで,これまでできなかった体験を可能にする.例えば,LEDを内蔵することで光る粘土やモータを内蔵することで動く粘土などが考えられる.このようなデジタル技術による性質をXとすると図1のように,「素材の理解/表現」と「形/X」という関係が成り立つ.
 「素材の理解」の工程では,デジタル技術の要素の付加による,通常の粘土とは異なる振舞いが創作のきっかけとなる.また「表現」の工程では,可塑性の理解とデジタル要素の性質の理解により,これまでの粘土とは異なる表現が期待される.子供はこれらの二軸の工程を自由に行き来しながら造形することが推測される.
本研究では,デジタルの要素XにLEDの発光部を内蔵した,光る粘土NeonDoughを提案する.図2


図1: デジタル粘土

図2: NeonDough

NeonDough

 NeonDoughは光る粘土インタフェースを用いた造形支援システムである.のばす/繋げるなど粘土の状態をセンシングし,粘土の色を変化させることができる.例えば緑色と赤色の粘土を混ぜ,橙色の粘土を生成した後,キャラクタなどの造形を行う.
 本システムは小麦粘土と電極を用いて粘土の状態をセンシングする.図2のように粘土内に電極とフルカラーLEDを内蔵したモジュールを配置する.各モジュールの片方をVCC,片方をGNDとすることで粘土内に流れた電流量から抵抗値を計測し,繋げたことや伸ばしたことをセンシングする.計測した抵抗値を元に各モジュールのLEDに色を加法混色に基づき割り当て発光させる.また操作によって混色をさせないようにするロック機能や明滅機能を持ったスイッチがあり,粘土で触れることで機能する.


図3: システム図

デモ展示によるフィードバック

本システムに対する子どもを中心としたユーザの反応を確認するために,いしかわ夢未来博2011(2011年10月28,29日 石川県産業展示館)にてデモ展示,第8回CANVASワークショップコレクション(2012年2月25,26日 慶應義塾大学 日吉キャンパス),いしかわ夢未来博2012(2012年11月10,11日 石川県産業展示館)にてワークショップを行った.子供たちの造形プロセスを以下のように分類し分析した.

(1)通常の粘土と同様の操作方法
A.接続・分割
B.変形
(2)NeonDough独自の操作方法
A. 粘土同士の接触による混色を使用して色を決めた後に,粘土の形を変えた「色を決めてから形を決める」場面
B. パレット機能あるいは形を作った後で,他の色の粘土の接触による混色を用いて,色の変更を行った「形を決めてから色を決める」場面
C. 粘土内モジュールの配置を考慮した造形を行った場面
D. 多人数により造形を行った場面
E. 造形物を組み合わせながら,粘土同士を接触し色を変更させて造形していた場面


図4: 体験の様子

まとめと今後の展望

デジタル粘土の利点

 本研究で開発/分析した機能について図 5 1にまとめた.行が可塑性を理解する工程と表現する工程で,列がアナログの粘土の要素(形状の変化,色の変化)とデジタル粘土の要素(色(光),動き,音)である.通常の粘土が減法混色に対し,デジタルでは加法混色であるため明るくなっていく.また通常は完成した後に絵の具を塗るのに対し,デジタルでは可逆性が有り自由に変えるや時間軸のある表現が可能である.
 また図の強調線は粘土の形状変化とリンクしているものである.つまり形状を変形するとデジタルの要素も同時に変化する要素である.時間軸を持つ明滅機能や形を作った後に色を変えることのできるパレット機能はデジタルでしかできない機能である.しかし本研究ではスイッチによる適用なので,形の変化と同期するインタラクションにするほうが望ましい.形の変化と同期することで,体験者に形とデジタルな要素の境界線を感じさせない体験が可能であると推測される.


図5: まとめ

今後の展望

 今後の展望として,形の変化とデジタル技術による特性の変化を等しくすることが挙げられる.具体的には,パレット機能や明滅機能などデジタルでしか表現できない機能を,粘土の形の変化によって変えることである.その結果,子供は可塑性を理解しながら,通常の粘土ではできなかった表現を獲得すること出来る.また形の変化によってデジタルの振る舞いが変化することは,図 5 2のように体験者に形とデジタルな要素の境界線を感じさせない体験が可能であると推測される.
 具体的な方法として,明滅する粘土と光り続ける粘土を配置し,明滅する粘土を接続すると粘土全体が明滅しはじめるなどのインタラクションが考えられる.このように様々な機能を持った粘土を用意することで,子供は自分の目的にあった粘土を選択しながら造形することができる.

修士論文目次

第1章 序論 9
- 1.1 背景と目的 9
- 1.2 コンセプトムービー 14
- 1.3 本論文の構成 15
第2章 関連研究 16
- 2.1 造形表現における粘土 16
- 2.2 デジタル知育玩具 21
- 2.3 オーガニックユーザーインターフェイス 28
第3章 NeonDough 36
- 3.1 システム概要 36
- 3.2システムの設計 38
- 3.3 ハードウェアの設計 38
- 3.4 ソフトウェアの設計 47
- 3.5 機能に関する考察 58
- 3.6 その他のアプリケーション 59
第4章 実装とユーザ体験の様子 63
- 4.1 作品例 63
- 4.2 展示の様子 65
- 4.3 ワークショップの様子 66
第5章 まとめと今後の展望 85