研究科題名:「アクセス性からみた医療重点支援地域に関する研究」

 

氏名:目黒 大介

所属:政策・メディア研究科 修士課程2

 

キーワード:地域医療アクセシビリティ・地域交通政策・地域医療政策・GIS

 

1.総論

本研究では,以下の3点を実施した.

1)医療法の4疾病5事業に対応した救急医療・日常医療のアクセシビリティのGIS分析を実施し,医療アクセシビリティ改善が必要な地域を明らかにした.

2)救急医療アクセス分析の結果を基に,病院の医療機能付加に対するコストを算出した.

3)日常医療アクセス分析の結果を基に、地域公共交通導入時のコストを算出した

 

2.本研究の背景・目的

 医療法では自治体に対して,4疾病(癌・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病)5事業(救急医療・災害時医療・僻地医療・周産期医療・小児医療)に対応した医療計画を作成することを規定している.医療計画では,地域内の医療機関の役割分担は明確化されているが,住民のアクセス性の評価が十分に実施されていない.また,医療アクセス整備が必要とされる地域に対し,人口動態や交通の観点から費用分析が実施されていない.

 以上より,本研究では,4疾病5事業で主要な疾患に対応した医療機関へのアクセシビリティの評価手法を開発し,分析の結果,医療アクセシビリティの重点的な改善を必要とする地域に対して病院の機能付加や公共交通整備に対する費用分析を実施することを目的とする.

 

3.研究対象地域

 本研究は,山口県と千葉県を対象に分析を実施する.山口県は中山間地域と離島を有した地域であり,国内で高水準に高齢化が進行することが予測されている地域である.県内にはドクターヘリが1機配置されている.

一方で千葉県は首都圏近郊に位置した県である.千葉県は,交通的に不利になりやすい半島の地形を輸している.県内にはドクターヘリが2機配置されている.

 

4.救急医療アクセシビリティ分析

 救急車とドクターヘリを用いて急性心筋梗塞と脳卒中の急性期対応病院までの搬送時間を分析した.分析の結果,千葉県は両疾病共に病院到着30分圏の人口カバー率が100%であった.一方で,山口県は人口カバー率が約94%であり,30分圏外の地域は県北東部と周防大島に集中していることが判った.

また,救急医療アクセスのGIS分析により,初期治療開始時間が,救急車を使用した場合にドクターヘリより有利な地域に関する政策的知見を得た.ドクターヘリは県内に12機のみの配置であり,運行コストが高額であるため,本分析の結果はドクターヘリの適正な使用に寄与しうる.

1:山口県の急性心筋梗塞病院到着30分圏(左),初期治療開始可能時間と救急車がドクターヘリより優位である地域(右)

 

5.日常医療アクセシビリティ分析

 各疾病の予防や初期的な医療を受ける内科診療所と病床数200未満の病院と,正常分娩実績を有する病院・診療所を対象に道路距離2kmと路線バスアクセスによる分析を実施した.内科診療所・病院の2km圏は県内に点在していることが判った.正常分娩実績を有する医療機関の2km圏は都市部に集中していることが判った.また,路線バスアクセスによるアクセス圏は県内をネットワーク状に展開していることが判った.

2:山口県の内科診療所・病院道路2km圏(左),正常分娩実績を有する病院・診療所道路2km圏(右)

 

3:山口県の内科バスアクセス(左),正常分娩実績を有する医療機関のバスアクセス(右)

 

6.病院の機能付加

 岩国市北部・岩国市南部・周防大島町の既設の病院に対して急性心筋梗塞と脳卒中急性期の検査に必要な常勤医の配置と設備の導入を実施した際のコストを算出した.また,対象病院の救急車30分圏の人口により,新規に救急搬送30分圏となる地域の人口1人あたりのコストを算出した.

 

7.地域公共交通の導入

 山口県田布施町と千葉県御宿町に対し,地域公共交通のモデルルートを各2ルート設定し,バス事業者とタクシー事業者に運行を委託した場合のコストを算出した.また,新規導入により新たにバスアクセス圏となる地域の人口を算出した.使用車両と運行本数により委託方法を選択することがコスト削減となることが判った.

 

8.今後の課題

本研究では現状の統計データと空間データを用いてアクセシビリティ評価を実施した.しかし,長期的に実施する政策に対しては,将来の人口変動を考慮する必要がある.よって,小地域単位での将来予測人口を用いて政策の妥当性を評価する必要がある.また,定期的に医療アクセシビリティの変化を評価し,更なる医療アクセス改善を検討するPDCAサイクルの確立が重要となる.

本研究は地理的評価を主として実施したものであり,特に救急医療に対しては,臨床医学からのアプローチが必要である.また,医師や医療関係者,行政,住民等への調査を通してより現実的な政策を検討していかなければならない.

2013年度以降より,4疾病に精神疾患が追加され,精神疾患に対する医療連携体制の策定が必要とされる.そこで,精神疾患の特性を踏まえた上で精神疾患に特化した医療アクセス分析を実施し,支援が必要な地域や具体的な支援を検討しなければならない.

 

謝辞

本研究は,森泰吉郎記念研究振興基金研究者育成費の助成を受けて実施いたしました.ここに感謝の意を表します.

 

対外発表実績

1Inter University Seminar of Asia Megacities

2012年,於:ハバロフスク,太平洋国立大学)

Daisuke Meguro and Tomoyuki Furutani, “Analysis of special support region of medical services in Japan -Spatial balance on medical and public transportation services-“

 

2:地理情報システム学会2012年度研究発表大会

20121013日〜14日,於:広島修道大学)

目黒 大介・古谷 知之,「人口減少・少子高齢化する中山間地域での医療アクセス圏分析 ―長野県と山口県を事例に―」