2012年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書
No. 28 「アドホック通信を利用したモバイルデバイス間のリアルタイムコンテンツ共有基盤の実現」 

澤田 暖

学籍番号: 81124720
ログイン名: dans
政策・メディア研究科 修士課程2年
所属プログラム: CI
プロジェクト: モービル広域ネットワーク


研究要旨

近年、モバイル通信技術の発展とともにスマートフォンやタブレットデバイスが台頭している。これらデバイスを用いることで、様々な大容量リッチコンテンツ(写真・動画等)を容易、かつ迅速に共有することが可能である。世代年代問わず、このようなデバイスが急速に普及する中、イベント会場などで、「同じ場」にいる他のユーザとリアルタイムにコンテンツを共有するといった使い方も提唱されつつある。

ユーザ数も増え、大容量リッチコンテンツの共有の幅も広がる一方で、大きな問題となっているのが、通信インフラの逼迫である。インフラを提供している通信会社等も、トラフィック増加に対する、あらゆる打開策を講じているものの、完全に「イタチごっこ」の状態が続いている。そんな中、通信インフラに依存せずに、デバイス同士が直接通信を行う、アドホックネットワークに関する研究開発が多方面で進められている。

本研究では、同じ場にいる(同じコンテクスト下にある)デバイス同士は、互いに直接通信できる距離圏内にあるという前提のもと、それらデバイスをグループ化し、あらゆるコンテンツをリアルタイムで共有するためのアドホックネットワークを動的に構築する基盤の実現を目的とする。アドホックネットワークではインフラによる制約を受けることなく、デバイス間で直接通信を行うため、限りあるインフラのリソースを節約できると同時に、通信遅延を削減し、リアルタイム性を高められるという利点がある。この時、「同じ場」の認識や複数デバイスのグループ化処理、さらにはネットワークの設定はすべて自動的、かつ動的に行い、ユーザによる手動操作を可能な限り省くものとする。

想定利用シナリオの一例として、「ライブコンサート」を挙げる。ライブ会場では、多くの観覧者がスマートフォンを演者に向け、ライブの様子の映像を撮っている状況を想定する。これら観覧者の持っているデバイス間で、映像ストリームをリアルタイムで共有することが出来れば、その場で多地点映像を楽しむ事ができる。この時、映像ストリームのトラフィックは広帯域を要するため、コンサート会場にあるデバイス同士で構築されたアドホックネットワーク上でストリームを共有することができれば、通信インフラに対する負荷を削減することともに、リアルタイム性を高めることができる。



アプローチ

本基盤を実現する上で、一番の課題は「場」を共有するデバイスの動的グルーピングである。 本研究ではグルーピングの際に、GPSによる位置情報・デバイスの向き・周囲にあるWi-Fiアクセス ポイントのBSSIDをキーとして用いる。これら情報を一度サーバ上に集約し、 総合的に勘案することで、同じ「場」を共有しているデバイス同士を動的に判定し、グループを形成する。 その後、グループごとに固有のESSIDと無線LANのチャンネルが割り当てられ、 アドホックネットワークが構築されるものとする。

これまでの成果

昨年度同様、2012年度春学期は米国マサチューセッツ工科大学のメディアラボに拠点を置き、 Viral Spaces Groupでプロトタイプシステムの実装とユーザー評価を実施した。 その上で、その成果を国際学会「IEEE CCNC 2013」で発表すべく、共同で プロジェクトを進めたEyal Toledano氏と共に論文を執筆した。

当該学会では、メイントラックにおける通常口頭発表用の論文と デモセッションにおける実働デモの論文の2本が再録され、 でもセッション向けの論文は「Best Demonstration Award」を受賞 することができた。



今回の森基金の助成金は、米国ラスベガスで開催された「IEEE CCNC 2013」 の参加費用と宿泊費用の一部として使わせていただいた。