森基金 研究成果報告書

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程 2 年 81125317 宮崎圭太
(所属:Cyber Informatics)

研究課題名 サービス適応層を用いた汎用 ID プラットフォーム

背景

近年,RFID技術が注目・普及されつつある.RFID技術には個品単位でのIDの割り振りが可能であること, RFIDタグ内に書き換え可能なメモリ空間を持つこと,パッシブRFID技術を用いる場合,通信電力を要さずに情報をやりとりできる利点が上げられる. このような利点から,実空間情報を情報空間上に集める仕組みを構築するためにRFID技術を利用する取り組みが盛んである. 実空間上のモノにそれぞれ固有のIDを割り振ることが可能で,実空間情報を一時的にRFIDタグ上のメモリに保存でき, それらを読み取るための電力が不要なため,従来のセンサネットワークに比べ優位な点が存在する.

RFID技術を用いた実空間情報の取得を適用できる領域は主に物流行程や多点観測にあると考えている. なぜなら,モノ・地点単位のIDの割り振りや,モノ・地点の情報を保持が可能だからである.また,運用において,利用電力の最小化が達成できることも適している.

一方,上記のような優位性を持つRFID技術が現在広く運用するまでに至っていないのは, RFID技術における標準・仕様が多く,また開発進行中のものも含まれているため, 標準・仕様の整理が煩雑な事態になってしまっているためである. 現在の標準・仕様ではRFIDタグとリーダライタ間で特別なエアインターフェイスコマンドの実装を要する部分や, RFIDタグのメモリのデータ構造を複雑に構造化・分散させる部分が存在する.

ここで多様な標準・仕様に基づいたRFIDタグから情報の取得を行う必要がある場合, 特定の標準・仕様・要件・RFIDタグとリーダライタの組み合わせに特化したシステムの開発は困難である. 特別なエアインターフェイスコマンドを利用する標準・仕様は機器の仕様上の制約から不可能になることが多く, また,RFIDタグのメモリのデータ構造を複雑に構造化・分散させる標準・仕様において, システムの構築を特定の要件に最適化させずに標準・仕様に基づいて読み取りを行う場合, 各データフィールドのアドレス,データ長,データ解釈の定義表や計算指標の取得を RFIDタグとリーダライタ間の通信のみによって完結させる必要があるため,それに伴い読み取り回数が増加し読み取り時間が肥大化し,業務要件に支障を来しうる.

本研究では,RFIDタグのメモリのデータ構造を複雑に構造化・分散させるような標準・仕様を用いる時のような 多様なデータ構造を持つRFIDタグからデータを高速に読み取ることを研究の問題領域として取り上げることする.

本研究では,多様なデータ構造を持つRFIDタグからのデータの高速取得を実現するためのネットワークアーキテクチャを提案する. このネットワークアーキテクチャは以下の3つの役割を持つコンポーネントを含む(図1).

Resolver
あるRFIDタグにおける各データフィールドのアドレス,データ長,データ解釈の定義表や計算指標を扱うコンポーネント
Subscriber
RFIDタグごとに持つデータフィールドの中でユーザが必要するデータフィールドを読み取り前に登録させるコンポーネント
Manager
RFIDタグから読み取る領域をリーダライタの仕様・特性にあわせて,分割・結合し読み取り領域を整理するコンポーネント

リーダライタミドルウェアはこのネットワークアーキテクチャと通信することで 読み取り領域や読み取り回数を最適化させるため,多様なデータ構造を持つRFIDタグからの高速取得が可能になる(図2). また,これらのコンポーネントは役割ごとにアーキテクチャ上で分離されており,再利用が可能である. そのため,従来のようにリーダライタミドルウェアを特定の要件ごとにシステムを構築する必要がなくなる.

本研究では上記の設計・実装と,提案手法を用いた場合と用いない場合の読み取り時間の比較評価を行い, 提案手法の核であるネットワークアーキテクチャの有用性を示した. 従来の状況を想定して実装されるケースと比較して本提案手法を用いた場合, データが構造化して保存されている例では3.3 倍(図3),データが分散して保存されている例では2.5 倍(図4)の高速取得が実現できることを示した.


図1 ネットワークアーキテクチャ

図2 シーケンス図

図3 データが構造化して保存されている例

図4 データが分散して保存されている例