陸上競技用下腿義足使用者のためのランニングウエアの開発

Designing The Running Wear For Athletes Using Below-Knee Protheses

政策・メディア研究科 (X-Design)
山中デザイン研究室 修士課程2年  西谷圭



1:研究概要

近年、義足は徐々に、様々な用途に合わせた開発の発展が見られるようになった。 中でもスポーツ用の義足は、陸上競技用、スキー用、スノーボード用、水泳用、など競技に特化させられている。 しかし一方で、義足使用者のためのスポーツウエアの開発は充分とは言えない。 そのため、義足のトップアスリートであるパラリンピック選手ですら、健常者用のスポーツウエアを(必要な場合は個人で加工して)使用しているのが現状である。
 義足は個人に特化させたものであるため、その使用を前提としたウエアは個人に特化させる必要がある。 本研究では、ひとりの片足下腿義足の陸上競技短距離選手のためのランニングウエアの開発と、開発を通した考察を行う。
 また本研究は、義足使用者の身体が左右非対称であることを魅力と捉えた開発である。 左右非対称な姿を左右対称の見え方に“加工”せず、左右非対称なまま見せる。 これは義足使用者を、健常者から何かが欠けた「障害者」とはしない、そのままの姿に向き合う考え方の創出を狙いとしている。 開発を通し、左右非対称の見え方をただの外観デザインではなく、社会的機能にしようとした効果の考察を行う。



2:発表と展示

2012年秋学期は、学会発表とOpen Research Forumでの展示を行った。

●第28回 日本義肢装具学会学術大会(愛知県名古屋市) (期日:2012/11/10)
日本義肢装具学会によって年一度開催される学術大会にて、口述発表を行った。 7分の発表時間であったので、概要とプロモーションムービーを用いた発表となった。 会場には約100人の聴講者がおり、ほとんどが学者や義肢装具士であるため、義足の知識に長けている人に対する発表となる。
義肢装具学会の来場者 ここで得られたフィードバックは主に、新しい構造と一般化についてのものであった。
・義足側の膝を覆うことは稼働の妨げにならないか
・走り幅跳び選手にとっては本当に便利なものとなるだろう
・これを多くの人が使えるようにする方法に対する考えはあるか
というような具体的な質問や意見である。非対称な見た目について得られた意見は 「“デザイン”でかっこよくするのはいいですね」というもので、「デザイン」という言葉の中の、スタイリング面に限定した見方であった。

●Open Research Forum 2012 (期日:2012/11/22-23)
ここで展示を見る人の多くは、義足を見たことがない人である。
展示で得られた意見は、見た目と構造の双方に対するものであった。 マネキンを用いて構造の説明をすると「便利ですね」「履き替え易そうですね」という反応があり、義足を見たことがない人にも着用をイメージしてもらうことができたと考えられる。 見た目に対しての意見は例えば
・(自然に見えたので)既製品かと思った
・このライン使いは健常者だったら寧ろ脚が短く見えるかもしれない(切断者だから活かせるラインだと思った)
・非対称にすることで義足と一体感を持たせる効果があるということは、義足を目立た展示の様子せたいときに逆に、左右対称にしたら効果的かもしれない
というものがあった。丁寧に説明した結果得られた意見ではあるが、好意的に捉える来場者がほとんどであった。 そのため、非対称な見た目は、これまで義足を見たことがない人が初めて義足スポーツを目にする際に、「障害者」としてでなく「スポーツ」として観戦してもらう手助けになるように思えた。

(図:OpenResearchForum2012 展示ブースの様子)



3:論文の執筆

2013年3月の卒業に合わせ、修士論文の執筆を行った。
構成は下記の8章による。
・第1章 序論
・第2章 関連研究
・第3章 開発するウエアの要件
・第4章 開発したウエア -Asimetria-
・第5章 開発の過程
・第6章 発表・展示とフィードバック
・第7章 評価と考察
・第8章 結論と展望




4:今後の予定

2013年2月のXD exhibitionsで展示を行う。それに向け現在は、4コマ漫画とコラムで構成された開発ノートの制作を進行させている。 論文でない形で記録することで、広く一般的な人にも開発の内容を伝えること。及び今後、他の義足使用者がウエアを開発することを希望したときに参考となるものを目指す。 また、論文上では形式として記録の難しかった言葉のやりとりや、開発後にインタビューすることで分かった開発への印象なども記載している。