フードセキュリティにおける食料価格指数の予測システムの構築

政策・メディア研究科

岡林 秀一

 

Construction of FFPI Prediction System for Food Security

Shuichi OKABAYASHI

 

 

Abstract

In recent years, natural disasters including rainstorms or localized torrential downpours have been invoking heavy floods worldwide. The disasters have affected world food prices and raised them. Such food price rise is serious in developing countries. The food price changes have correlation with environmental factors. Objective of this research is to construct a prediction system for the food prices using a neural network architecture. After some environmental disasters, the system will predict food price indexes and will contribute to establish food security in particular regions in the world.

 

Keywords:ニューラルネットワーク (Neural Network),フードセキュリティ (Food Security),自然災害(Natural disaster),予測モデル(Prediction model),食料価格指数(Food Price Index)

 

 


1.      はじめに

 

1.1.         背景

近年,世界的に暴風雨や集中豪雨による洪水などが頻繁に生じている.そのような自然災害の発生の増加は気候変動の結果であると広く考えられている.それらの災害の持つインパクトは破壊的であるのに加えて,国際的な食料価格を変動させる原因ともなっている.特に洪水による穀物被害は食料価格の上昇に影響している.図1.のグラフで示しているように世界的に大規模な自然災害(洪水,干ばつ)の後,半年から2年ほどの期間を空けて食料価格指数の上昇がみられる.

FFPIという指数は国際連合食糧農業機関(Food and Agriculture Organization FAO)が毎月公表しているFAO食料価格指数(FAO Food Price Index)をいう.FFPIは単に「食料価格指数」とも呼ばれる.本

指数は,食肉(Meat Price Index),乳製品(Dairy Price Index),穀物(Cereal Price Index),油糧種子(Oils/Fats Price Index),砂糖(Sugar Price Index)の5つの商品グループの価格指数から構成され,2002年〜2004年=100として,国際取引価格から算出される.一般に食料の生産量や消費量の増減を世界規模で見る指標として注目され,またインフレや食料危機の材料としても注目される.

本指数の公表機関であるFAOとは,世界中の人々の食料安全保障をするための機関として1945年カナダのケベックにて第1回総会が開催され,設立された.人々が健全で活発な生活をおくるために十分な量,質の食料への定期的アクセスを確保することが目的であり,国連総会の承認を受けた国連専門機関のひとつである.本部はイタリアのローマに設置されている.加盟国は20091月現在で191カ国であり,さらにEUが含まれる.本機関は世界の食糧生産,農林水産業の状況を常に把握,監視し,その結果を提供している.これらはインターネットでアクセスが可能である(英語版のみ).また各種統計,白書,調査研究報告書,会議文書,政策ガイドライン,国際規格,マニュアル等資料を作成している.2年に1度全加盟国が集まる総会がある他、地域総会,理事会,そして理事会の下部組織として8つの委員会がある.運営資金は加盟国からの分担金と加盟国,世界銀行,国連開発計画などの任意拠出からなる.日本の分担金負担額はアメリカに次いで第2位となっている.FAOの活動は主に先進国と発展途上国の両方で行われ,国際的な農業水産林業に関する政策提言および協議をする際に各国が公平に話し合えるプラットホームとしての役割も果たしている.FAOは,他にも知識と情報を蓄積する役割も担っており,発展途上国が農業水産林業分野で技術改善を進めて,その結果として発展途上国の一般市民がより栄養価の高い食物を入手できる手伝いをしている.近年はフードセキュリティ(食の安全保障)を重要課題として掲げ,様々な国際的な調査に基づき,世界各国の農林水産業への勧告などを行っている.フードセキュリティは環境保全活動家であるアースポリシー研究所長レスターR.ブラウンによって主張された概念である.この概念は人間が存続する上で食料供給を安全にする必要があるという意味を持つ.フードセキュリティとは,直訳すると「食料安全保障」となる.農林水産省によると,食料安全保障とは,「予想できない要因によって食料の供給が影響を受けるような場合のために,食料供給を確保するための対策」と位置付けている.事実,日本の食料自給率は約39%で先進国の中では最も低い.食材の多くを輸入に頼る日本は,地球温暖化や大干ばつなど,海外で問題が起きるだけで,たちまち食料危機に直面するという意見もある.こういった背景を踏まえるとフードセキュリティの構築・確保は日本にとっても重要な課題である.

一方で,フードセキュリティという言葉の定義や範囲は広く,同省の食料・農業・農村政策審議会施策部会における議論の中で,委員からは次のような指摘がなされている.「世界のフードセキュリティといった場合には,当然,貧困の問題であり,今現在の食料の確保が問題である.しかし,日本で食料安全保障という言葉が我が国の問題として使われる場合には,むしろ将来,あるいは不測の事態が起こったときのことであって,今現在食料に困っているという状態ではない」.ちなみに,日本で「食の安全・安心」を表す言葉としてはフード・セーフティが用いられることが多い.

今世紀に入り、フードセキュリティという言葉が注目されるきっかけとなったのが,環境や食糧の問題について警告を発し続けてきたブラウン氏が,「世界のフードセキュリティが崩壊に近づいている」と同名の著書で警鐘を鳴らしたことによる.ブラウン氏が世界のフードセキュリティの危機を訴えているのは,人類による生産活動が地球の自然システムの限界を超えつつあるとする,長年にわたる氏の持論に基づくものだ.

このように,フードセキュリティとは,日本の食料安全保障や世界の貧困対策の枠を超えて,エネルギーや環境などの問題をも内包した国際的な課題である.20087月に開催された北海道洞爺湖サミット(G8)では,世界のフードセキュリティに関する首脳声明が採択されるなど,近年注目を集めている.本研究では世界のフードセキュリティといった観点からフードセキュリティというテーマを用いる.

例えば,広大な食糧の生産エリアでの洪水や干ばつは世界的な食糧不足を喚起し,食料価格を押し上げる効果がある.FFPIのデータによれば,食品価格は過去6年で2倍に達した.食糧価格の変動は特に発展途上国の生活にダメージを与える.それは,まず,先進国では食糧価格の値上がりが,経済的に差ほど問題がないが,発展途上国では食料の貯蓄・確保において多額の資本を有することになり,経済的な打撃が考えられる.また,発展途上国では,食糧の生産側という立場が多く,それ自体に被害が出ることで,輸出が困難になり,貴重な収入源を薄なうことにつながるためである.これらの自然災害の増加による食料価格の変動は今後も継続するだろうと考えられる.

 

グラフ1.過去のFFPIデータ,およびそれらの間に生じた自然災害

 

1.2.        目的

本研究の目的は将来起きる自然災害に応じてFFPIを予測することができるモデルを作成することである.この場合、この研究で必要となるトリガーは環境災害のインパクトとなるだろう.この予測モデルは.ニューラル・ネットに基づいたモデルにより作成する。ニューラル・ネットとは,脳機能に見られるいくつかの特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデルである.このような数学モデルでネットワークを作り,利用することで,自然災害と世界における食料価格の相関において,より革新的かつ創造的な研究を行うことができる.

自然災害という事象と食品価格の変動の間に相関性がある.食品価格指数は自然災害(1を参照)に応じて急上昇する.自然災害が生じた後にそれらが及ぼすFFPIへの影響を予測することで,食糧価格の上昇以前に食料の準備が可能となる.例えば発展途上

国において,食料価格指数が安定期であるうちに食料をある程度の数,貯蓄することで,その国や地域で暮らす,人々へ食料を安全に届けることができる.これはフードセキュリティの概念に沿うものであると考えられる.本研究で作成を試みる予測モデルが最終的にはフードセキュリティの構築のための一つのツールとなることを目指す.また,今回の研究では,実際に自然災害と食糧価格指数との回帰があるかを確認する.目的において,重要な部分となってくるのは自然災害と食料価格指数との関係性に意味を見出すことである.こういった点は,様々な分野で叫ばれているが,科学的にそれを明らかにしたものはない.そういった意味で,今回の研究で対象となる自然災害と食料価格指数との関連性はとても興味深い.予測モデルの作成もまた興味深いが,そのツールにこだわるのではなく,扱う対象の関係を見出すことに重点を置くことが必要である.

 

2.      方法

2.1.        研究の流れ

まず,データを集めることからはじめる.ある程度のデータを収集した後は,それらを使って人工知能の分野の一つである機械学習を用いて,学習を行い,予測システムの構築を目指す.

 

2.2.        機械学習

本研究では予測を行う上で機械学習を用いる.機械学習とは言語やゲームなどをはじめとした人間の様々な知的活動の中で,人間が自然と行っているパターン認識や経験則を導き出したりするような活動を,コンピュータを使って実現するための技術や理論を指す.また,機械学習の扱う問題には,大きく分けて,教師付き学習(supervised learning)と教師無し学習(unsupervised learning)の2つに分類される.教師付き学習では、入力データが与えられた際にこれに対する出力を予測することが目的である. 事前に訓練データと呼ばれる,入出力ペアの事例が複数与え,学習をさせる必要がある.学習した後に新たなデータを入力し,それに対する出力をするような機械を機械学習と呼ぶ.また,与えられた訓練データを一般化して,出力未知のデータに対処する汎化能力が,高くなるよう学習手順を設計することが,教師付き学習の主要なテーマである.本研究では機械学習の一つであるニューラルネットワークを用いて食料価格指数(FFPI)を予測するシステムを構築することを目指す.

 

2.3.        ニューラルネットワーク

ニューラルネットワークとは脳機能に見られるいくつかの特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデルである.ニューラルネットワークは人工知能の初期から存在し,長きにわたって使われている手法である.モデルは脳のニューロン・シナプスを模倣して考えられており,複数の入力を受け取って、出力を行う単純な関数(シグモイド関数)が複雑につながりあった形をとっている.脳が単純なニューロンの組み合わせによって高度な認識・知識活動を実現しているのと同様に,ニューラルネットワークも複雑な現象を学習できるのではないのかと期待されている.ニューロンは相互に信号伝達を行うが、その信号伝達効率は一様ではない.そこで、 それぞれの入力に対し結合荷重を設定し,その重み付きの入力の総和が各ニューロンで設定されている閾値を超えたとき,発火したものとみなし,他ニューロンに信号を送る構造となっている.

 

2.4.        階層型ニューラルネットワーク

ニューラルネットワークを形成するニューロンとは神経細胞を指し,それ単体では電気信号の入力と出力を行うことしか出来ない.しかし,有機的にこれらの神経細胞が結びつくことによって,複雑な処理をこなすことが可能になっている.ニューロンによって形成されたネットワークをモデル化したものがニューラルネットワークである.その中でも階層型ニューラルネットワークとは一般的に図1のように明確に区分された入力層,出力層,そしてそれら2つの間に形成される1層以上の中間層と呼ばれる3つ以上の層によって形成されるニューラルネットワークを指す.

 

1. 階層型ニューラルネットワーク

 

階層型ニューラルネットワークでは入力層のニューロンに与えた信号がそれぞれの層のニューロン間に形成されている結合の重みによって変換されながら,出力層のニューロンの値として出力される前向きの信号伝播を行う.n番目の層の全てのニューロンは,n+1番目の層の全てのニューロンと接続されているものとする.また,本論文ではそれぞれのニューロンの出力値はn層目のi個目のニューロンであるならば式2.4.1と記述し,n-1層のj番目のニューロンからn層のi個目のニューロンに対する結合の重みは式2.4.2と記述する.

 

. 2.4.1

 

. 2.4.2

 

 

この結果,第n層のi番目のニューロンの出力値は以下の式2.4.3で求める.

 

. 2.4.3

 

2.4.3で用いられているuとはn層のi個目のニューロンに入力されている信号の総和であり,式3.4.4で求められる.hとはニューロンにおける閾値である.fは伝達関数であり,式2.4.5を用いた.

 

. 2.4.4

 

. 2.4.5

 

2.4.5はシグモイド関数と呼ばれ,特徴として単調増加関数であり,微分後の式を元の式を用いて表現することが可能である点が挙げられる.また入力層からの出力値は入力層に入力した信号がそのまま出力される.そのため,入力層からの出力には伝達関数と閾値が存在しない.しかし,実際にはこれでは入力層のニューロンに入力された信号のパターンから特定の決められた出力パターンが出力層のニューロンから出力されるだけであるという点が問題点としてあげられる.

 

2.5.        バックプロパゲーション

階層型ニューラルネットワークにおける問題点を解決するためには,入力される信号パターンに対して望まれるような出力が発生するようにネットワークを調整することが必要である.この代表的な手法がバックプロパゲーションによる学習である.バックプロパゲーションによる学習では出力層から出力される信号と教師信号との誤差情報を中間層から入力層まで逆向きに伝播することによって,ニューラルネットワークにおける結合の重みと閾値の調整を行う.バックプロパゲーションの学習情報δの伝播は出力層から最も出力層に近い中間層へは以下の式3.5.1を用いて求める.

 

3.5.1

 

. 2.5.1

 

2.5.1においてnは出力層の層番号を表し,dは教師信号を表している.またそれ以外の層への学習情報δの伝播は以下の式2.5.2で求める.

 

3.5.2

 

. 2.5.1

2.5.2kn+1層のk番目のニューロンを指している.以上のように求められた学習情報δを用いて,それぞれの結合の重みに修正を加える.その修正値を以下の式2.5.3を用いて求める.

 

. 2.5.3

 

 

2.5.3におけるηは学習定数を,αは安定化定数であり,一般的に1.0以下の正の実数を用いる.tは時刻を表す離散値であり,tt-1の次の時刻を表している.式2.5.3で求められた修正量を以下の式2.5.4で用いて結合の重みを修正する.

 

. 2.5.4

 

次にそれぞれのニューロンに設定されている閾値の修正を行う.閾値の修正では各ニューロンに対して,出力しているニューロンから閾値に相当する結合の重みを持って信号が来ていると考える.よって式2.5.5から閾値の修正量を求める.

 

. 2.5.5

 

したがって,結合の重みを修正するのと同じように以下の式2.5.6で閾値を修正する.

 

. 2.5.6

 

ここまでの結合の重みの修正と閾値の修正を繰り返し,出力層からの出力値と教師信号のとの差を小さくする.その結果として,その教師値に応じた学習が行われた階層型ニューラルネットワークが作成される.

  

 

 

2.6.        サポートベクターマシーン

サポートベクターマシーン(Support Vector Machine)は,教師あり学習を用いる識別手法の一つである.パターン認識や回帰分析へ適用できる.また,2クラス分類識別器の一つである.その大きな特徴として次の三つがあげられる.1つ目にマージン最大化という方針で識別平面を決定するので高い汎化能力が期待できる.次に学習がラグランジュ未定乗数法により二次計画問題に帰着され,局所最適解が必ず広域最適解となる.最後に識別対象の空間に対する事前知識を反映した特徴空間を定義することで,その特徴空間上で線形識別を行える.さらにその特徴空間上での内積を表したカーネルと呼ばれる関数を定義することにより,明示的に特徴空間への変換を示す必要がない.

 

3.    研究結果

3.1.        穀物価格指数と穀物生産量・消費量

 

グラフ2. 穀物価格指数と穀物生産量・消費量の比較

 

グラフ220022011年の穀物生産量・消費量と穀物価格指数を比較したものである.グラフから穀物消費量が穀物生産量を上回った際に穀物価格指数が上昇していることがわかる.このデータをもとに穀物価格指数の上昇・下降トレンドの分類をニューラルネットワークとサポートベクターマシーンを用いて測定した.

 

3.2.        トレンド分類

穀物生産量と消費量のほかに輸出量,ストック量を加えたデータを使用した.トレンド分類では,あるデータに対して穀物価格指数が上昇するか,下降するかを測定した.また,5つの要素(生産量,供給量,消費量,輸出量,ストック)を包括する機械学習としてニューラルネットワークとサポートベクターマシーンのどちらがより精度が高いかを比較した.穀物市場の70%を大豆が占めていることから,トレンド分類では,表1の大豆のデータを使用した.これらのデータを使用してニューラルネットワークとサポートベクターマシーンでそれぞれ測定し,分類を行った.

 

1. 過去10年間の大豆の生産・供給・消費・輸出・ストック量と穀物価格指数

 

11行を1データとしてニューラルネットワークのバックプロパゲーションを用いて学習させた.まず,10のデータから無作為に5つのデータを抽出し,それを学習用データに利用した.学習後,過去10年間のそれぞれのデータを使って測定値を算出した.今回は出力を二値に区分した.value>0の場合はPvalue<0の場合はNとした.Pは上昇,Nは下降を表している.

 

2. ニューラルネットワークによる測定結果

 

2に結果を示した.Trend(Truth)には実際のトレンド,Trend(Predict)には本測定によって得られたものから,トレンド分けしたものである.この2つを比較したところ10個中9個が正解であった.正解率90%であった.次にサポートベクターマシーンを用いて同様の測定を行った.同じく表1のデータを使用し,ランダムで5つを抽出し,トレーニングデータとして使い,残りの5つを評価データとした.測定の結果は,表3のようになった.

 

3. サポートベクターマシーンによる測定結果

 

作成したトレーニングデータをサポートベクターマシーンに学習させて、評価データを入れて正解率を見てみた.予測データの結果と正解を比較した。NPを間違えているのが1つ存在しているため、正解率は4/5 = 80%となる.高い正解率ではあるが,ニューラルネットワークのバックプロパゲーションによるものに及ばなかった.今回のトレンド分類から複数(今回は5つ)の要素を要する場合は,ニューラルネットワークによる分類がより精度が高いと考えられる.

 

3.3.        食料価格指数と原油先物取引価格

7FFPIWTIの過去5年間の毎月の数値を表している.WTIとは,アメリカ合衆国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称であり,ウエスト・テキサス・インターミディエート(West Texas Intermediate)の略である.ニューヨークマーカンタイル商品取引所で取引されている,原油先物価格である.また,WTIは世界で最も先物の売買量が多いため原油先物価格の標準的な相場となっている.

 

4. FFPIWTI

Date

FFPI

WTI

1/2007

134.0

54.2

2/2007

136.6

59.3

3/2007

137.4

60.6

4/2007

140.7

63.9

5/2007

144.8

63.5

6/2007

154.1

67.5

7/2007

160.3

74.1

8/2007

166.6

72.4

9/2007

175.5

79.9

10/2007

178.5

85.9

11/2007

185.4

94.8

12/2007

191.0

91.4

1/2008

199.8

93.0

2/2008

215.4

95.4

3/2008

218.3

105.5

4/2008

217.3

112.6

5/2008

218.5

125.4

6/2008

224.4

133.9

7/2008

220.4

133.4

8/2008

208.9

116.6

9/2008

196.7

103.9

10/2008

172.6

76.6

11/2008

157.3

57.3

12/2008

148.1

41.4

1/2009

146.3

41.7

2/2009

141.3

39.2

3/2009

143.1

48.0

4/2009

147.4

49.8

5/2009

157.6

59.1

6/2009

158.1

69.6

7/2009

154.2

64.1

8/2009

159.5

71.1

9/2009

159.9

69.4

10/2009

163.0

75.8

11/2009

174.9

78.0

12/2009

178.1

74.5

1/2010

180.0

78.3

2/2010

176.1

76.3

3/2010

168.5

81.3

4/2010

170.2

84.5

5/2010

169.6

73.7

6/2010

168.2

75.4

7/2010

172.7

76.2

8/2010

183.0

76.6

9/2010

194.2

75.3

10/2010

205.0

81.9

11/2010

212.9

84.2

12/2010

223.3

89.2

1/2011

231.3

89.5

2/2011

237.9

89.4

3/2011

232.0

102.9

4/2011

234.9

110.0

5/2011

231.6

101.3

6/2011

233.4

96.3

7/2011

231.2

97.2

8/2011

230.6

86.3

9/2011

225.1

85.6

10/2011

215.8

86.4

11/2011

216.4

97.1

12/2011

210.8

98.6

1/2012

212.8

100.2

2/2012

215.6

102.3

3/2012

216.0

106.2

4/2012

213.0

103.3

5/2012

204.7

94.5

6/2012

200.4

82.4

7/2012

212.9

87.9

8/2012

212.8

94.1

9/2012

215.8

94.6

 

2に表5のデータを用いてFFPIWTI   の両数値の推移を示した.図4のグラフの左軸はFFPI,右軸はWTI(バレル/USドル)を表している.

 

グラフ3. FFPIWTIの推移

 

グラフ3をみるとFFPIWTIは互いに連動していることが確認できる.これらの相関係数を算出したところ0.83となった.このことからも両数値の推移には連動性があると考えられる.FFPIの上昇は,天候不順や新興国の人口の増加で説明される.しかし,長期的なトレンドを見た場合には,現代農業には石油が欠かせない.その石油先物価格が変化すると食料価格も連動して変化するとみられる.現代農業には、トラクタやコンバインなどのもろもろの農業機械用の燃料,化学肥料,農薬などが必要である.これらの原料は石油や天然ガスにあたる.このような要因が長期的な両数値の推移において高い連動性をもたらしていると考えられる.これらの高い連動性のあるFFPIWTIのデータを用いて予測システムの構築を行う.WTI2035年までの予測値は表5に示したように米国のエネルギー省から公表されている.

 

5. 米国エネルギー省から公表されているWTIの予測値

Date

WTI

High

Median

Low

2013

135

88.0

56

2014

140.6

91.3

55.5

2015

146.0

94.5

55.0

2016

151.2

97.5

54.5

2017

156.0

100.4

54.0

2018

160.7

103.1

53.6

2019

165.0

105.7

53.2

2020

169.1

108.1

52.8

2021

173.0

110.3

52.5

2022

176.6

112.3

52.1

2023

179.9

114.3

51.8

2024

183.0

116.0

51.5

2025

185.8

117.6

51.3

2026

188.4

119.0

51.0

2027

190.7

120.3

50.8

2028

192.7

121.4

50.6

2029

194.5

122.4

50.5

2030

196.1

123.2

50.3

2031

197.3

123.8

50.2

2032

198.4

124.3

50.1

2033

199.1

124.6

50.0

2034

199.6

124.8

50.0

2035

200

125.0

50.0

 

3.4.        予測システムの構築

バックプロパゲーションを用いて予測システムの構築を行う.学習用のデータとして,表6DateFFPIWTIそれぞれの過去23年のデータを使用した.

 

6. 過去23年のFFPIWTIのデータ

Date

FFPI

WTI

1990

105.4

37.1

1991

103.6

31.5

1992

108.5

29.5

1993

104.6

25.9

1994

110.6

23.6

1995

123.2

24.8

1996

129.1

29.2

1997

118.5

26.7

1998

107.1

18.5

1999

92.4

24.3

2000

90.4

37.5

2001

93.4

31.4

2002

89.9

31.1

2003

97.7

36.3

2004

112.4

46.9

2005

117.3

61.9

2006

126.7

70.1

2007

158.7

73.9

2008

199.8

99.6

2009

156.9

62.0

2010

185.3

77.5

2011

227.6

81.0

2012

211.7

84.5

 

階層型ニューラルネットワークは入力層,中間層,出力層の3つの層によって形成されている.それぞれの層のニューロンの数は入力層が2、中間層が110、出力層が1となっている.入力層のニューロンの数を2とした理由としては,用いたデータが年,WTIFFPI3個であり,さらにFFPIは出力層の1に充てられるため,残りの年,WTI2個を使うためである.中間層を110にした理由は予め,入力層と出力層の数は変えずに,中間層が3500のものまでを作成し,どの中間層がより有効かを確かめた結果から選定した.作成した階層型ニューラルネットワークのバックプロパゲーションの際に用いた学習係数ηは0.001,安定化定数αは0.99,時刻t1000とした.学習回数は1000回となり,学習を行った.このようにして作成した予測システムで表10のデータを用いてFFPIの予測を行った.表10WTI予測データは表5WTI予測値の中央値(Median)から抜粋した.

 

7. 使用したWTI予測データ

Date

WTI

2013

88.0

2014

91.3

2015

94.5

2016

97.5

2017

100.4

2018

103.1

2019

105.7

2020

108.1

2021

110.3

2022

112.3

2023

114.3

2024

116.0

2025

117.6

2026

119.0

2027

120.3

2028

121.4

2029

122.4

2030

123.2

2031

123.8

2032

124.3

2033

124.6

2034

124.8

2035

125.0

 

作成した予測システムの精度を評価するために,学習量の違いで精度が変化するかを確かめた.結果を図5のグラフで示した.横軸は学習用に使用したデータ数を表している.学習用のデータ数のみ15101520と用意し,他の条件は同じものとした.それぞれ学習させ,2012年のFFPIの予測を行った.実行によって求められた数値を実際の2012年のFFPIFFPI227.593)数値と比較し,Accuracyを求めた.

 

グラフ4. 学習量におけるAccuracyの推移

 

グラフ4で示したように学習量が増えることでAccuracyが向上することを確認した.学習量10までは,大きな変化が見られなかったが,15以上からAccuracyの向上が確認された.実際の予測システムに用いた学習用データは22であり,今回の学習量を上回る.

 

3.5.        予測システム実行結果

今回,構築した予測システムを実行し,2013年〜2035年までのFFPIの予測を行った.本予測システムは確率変数で変化するため2012年〜2035年までの各年においてそれぞれ10回の実行を行い,算出されたデータの中央値を表8に示した.

 

8. 予測システム実行で予測されたFFPI

Date

FFPI

2013

230.2

2014

233.2

2015

236.1

2016

236.7

2017

237.0

2018

237.7

2019

239.1

2020

239.5

2021

241.8

2022

242.6

2023

242.7

2024

243.5

2025

245.7

2026

246.6

2027

248.8

2028

249.5

2029

250.6

2030

251.9

2031

253.2

2032

256.8

2033

260.0

2034

260.7

2035

263.9

 

8のデータを用いてグラフ5に本予測システム実行結果の推移をグラフに示した.このグラフから,FFPIの上昇が確認できる. WTIの予測値が上昇推移であったため,同様にFFPIの上昇もみられたと考えられる.

 

 

グラフ5. 実行結果によるFFPIの予測推移

 

また,各年における予測値の評価を行うために,分散分析を用いて簡易的な評価を行った.2013年〜2035年までの各年のデータの分析を行い,各年の予測値のバラつきを確認した.この分析では,バラつきが大きいほど有意に表れる.よって,帰無仮説0.05を下回る場合は,バラつきがあり,有意であることとなる.反対にそれを上回る場合は,有意にバラつきがないということとなる.この前提のもと分析の結果,各年の数値において設定した帰無仮説を上回った.これは,有意に差が無いことを示している.しかし,実際には多少の誤差が生じている.したがって,本結果によって各年のそれぞれの算出された予測値のバラつきの誤差が少なかったと考えられる.表9に本分析によって得られた数値を示した.

 

9. 分散分析結果

Date

p

2012

0.749

2013

0.720

2014

0.562

2015

0.931

2016

0.805

2017

0.463

2018

0.614

2019

0.640

2020

0.762

2021

0.740

2022

0.805

2023

0.508

2024

0.809

2025

0.714

2026

0.752

2027

0.749

2028

0.845

2029

0.571

2030

0.757

2031

0.727

2032

0.374

2033

0.557

2034

0.435

2035

0.647

 

 

4.    考察

4.1.        機械学習の比較

今回,トレンド分類において階層型ニューラルネットワークとサポートベクターマシーンを比較したところ階層型ニューラルネットワークがより高い精度となったことの一つに要素の数が理由に挙げられる.本来,サポートベクターマシーンは現在知られている多くの手法の中で一番認識性能が優れた学習モデルの一つである.特に3次元までの線形分離によって,対象を2クラス分けることに長けている.それ以上の高次元でも線形分離は可能であるが,精度が変化する.今回のトレンド分類では,今回のトレンド分類では,生産量,供給量,消費量,輸出量,ストックの5つの要素を加えた.よって5次元のデータを扱うことになる.ニューラルネットワークでは,高次元になるにつれ,より精度が高まる傾向にある.そのような条件によってニューラルネットワークがトレンド分類においてより精度が高かったと考えられる.

 

4.2.        予測システムの考察

予測システム実行結果から,ある一定の予測を行うことができた.予測値の評価の分析によって,バラつきは少ないことが分かったが,実行毎の誤差が少なからずあることが指摘される.本予測システムは階層型ニューラルネットワークを用いたバックプロパゲーションによって構築された.ニューラルネットワークはより深い学習により,性能が向上されると言われている.そのためには,多数の要素と大量のデータを要することとなる.今回の予測システムの構築には,データが23と,少量であることから,誤差が表れたと考えられる.しかし,食料価格指数を予測する上でのデータが既存のものではごく僅かに限られてしまう.また,データに使用したWTIも数十年単位でしか存在しない.それは,人類がそのようなデータを記録し,収集し始めたこと自体が近年であるためであると考えられる.本来は食料生産量や消費量といったデータを用いて,予測システムの構築を目指したが,そのようなデータはより少量になってしまうため,今回は使用しなかった.今回の結果を踏まえ,より精度の高い予測システムを構築がすることが必要であると考えられる.

 

5.    おわりに

5.1.        研究のまとめと成果

まず,トレンド分類を通して,食料価格指数の上昇や下降が食料(穀物)の生産量と消費量によって少なからず関係があることが理解できた.また,食料価格指数は人の投機によるところが大きいと考えられているため,食料の物理的な量に依るところに比べ,思惑や政策等に依る面が大きいと言われているが,本研究によって,穀物に関しては実際の物理的な量の比較で,ある程度の食料価格指数の傾向が理解できることが示唆された.これは,簡易的に食料価格指数の傾向を知ることができるということも意味している.それらを踏まえると,食料の量を継続的に記録していくことが重要であると考えられる.現在は,各国における各国のやり方で食料の生産量等の記録が行われているが,国際的に統一した規定や方法を設定することで,より有効なデータとして利用できると思われる.また,予測システムの構築によって2035年までの食料価格指数を予測した.この予測から今後の食料価格指数の上昇が推定される.この結果が食料価格の推移を知る上での一つのデータとして利用できると思われる.

 

5.2.        今後の展望

今後,より精度の高い予測システムの構築を行うために,改善をすべきである点がいくつか挙げられる.まず,一つに学習用に使用するデータの要素を増やす必要があると考えられる.なぜなら,使用できるデータは時間的な制約により,限られた近数十年のものしかなく,それを増やすことは,より長い時間を待つ他にないためである.しかし,要素を増やすことは,可能である.要素を増やすことで,より高次元のデータとなり,深い学習を促し、より精度の高い予測が行えると考えられる.次に,季節性の影響度について考慮する必要があると思われる.今回の予測システムでは,毎年のデータを使用したため,季節性について考えていないが,毎月のデータを利用することで,季節性の影響を調べることができると考えられる.それを理解することにより,季節を考慮した予測システムの構築が可能になる.最後に挙げられるのは,自然災害の影響についてである.本来,本研究では,自然災害の影響による食料価格指数の予測を目指したが,研究を行っていくうえで,より複雑な課題があったため構築に届かなかった.そこで,より食料価格指数と連動性の高いWTIを用いることで予測システムの構築を行ったが,自然災害による影響は考慮できていない.自然災害の影響を考慮するためには時系列解析が必要である.今後の研究において時系列的な要素や自然災害の食料価格指数との関係性について,より深く学び,より有効な予測システムの構築を目指す.

 

6.    参考文献

A neural net model for prediction, POLI I. Journal of the American Statistical Association 89, 117-121, 1994

 

Using neural network ensembles for bankruptcy prediction and credit scoring, Expert Systems with Applications

Volume 34, Issue 4, May 2008, Pages 2639

 

Application Study of BP Neural Network on Stock Market Prediction, 2009 Ninth International Conference on Hybrid Intelligent Systems

 

Estimation of Neural Network Parameters for Wheat Yield Prediction, ARTIFICIAL INTELLIGENCE IN THEORY AND PRACTICE II IFIP International Federation for Information Processing, 2008,

 

Prioritizing Climate Change Adaptation Needs for Food Security in 2030, Science 1 February 2008: Vol. 319 no. 5863 pp. 607-610

 

Soil Carbon Sequestration Impacts on Global Climate Change and Food Security, Science 11 June 2004: Vol. 304 no. 5677 pp. 1623-1627

 

Food security: a post-modern perspective, Food Policy Volume 21, Issue 2, May 1996, Pages 155

 

The Impact of Food Prices on Consumption: A Systematic Review of Research on the Price Elasticity of Demand for Food, American Journal of Public Health Date: February 1, 2010

 

Global Food Security: Challenges and Policies

Mark W. Rosegrant* and Sarah A. Cline Science 12 December 2003: Vol. 302 no. 5652 pp. 1917-1919

DOI: 10.1126/science.1092958

 

Global Environment  Change Vol.9

Climate change and world food security