研究課題名                      「なぜ、消費者は不合理な選択をするのか?」

氏名                                田中仁

所属                                政策・メディア研究科・ 修士課程  1年

 

【研究課題】

世の中には低価格で高品質なモノが沢山あるにもかかわらず、高いモノを買う人が存在しそれを利用して不当に高い利益を上げている事業者がいることも事実である。同じような品質のモノを3倍或いは5倍の価格を出してまで買う消費者が実在するがそれは何故なのか?情報不足なのか或いはブランド信仰なのか。そういった不合理な消費者の行動を解明し、是正することの価値は大きい。今回の研究対象はメガネ業界に的をしぼり詳細を研究する。

 

【研究の前提・目的】

研究対象であるA社にとって顧客が不合理に見える現象を分解する必要がある。

@    A社が捕らえられていない合理性の因子(購買要因)が存在する。

A    A社は特定の合理性の因子を満たしているが、顧客が情報不足で合理的判断が出来ていない。

以上、二つの状態が考えられるが@Aは共存している可能性もある。

 

考えうるその二つの状態に分けて不合理に見えている顧客を分解・分析しA社に誘引するというビジネス上の実験をすることで、実用性を伴った新たなマーケティング理論にまで昇華させてみたい。

 

【研究方法】

Step.1:購買要因の洗い出し(他業種を含めた一般的な購買要因の把握)

眼鏡市場において、最も活用されているレポート(眼鏡データベース)とその他アパレル業界などの市場レポートを参考に、購買要因となるであろう要因をリストアップし、それを元に、A社の各部門の代表者を集め、購買要因を出し合った。

その結果、以下の45種類の購買要因に集約することとした。

品揃えが豊富であること/ハンドメイドであること/フレームの軽さ・材質/手触り、質感/全体的なかけ心地・フィット感/耳や鼻への力のかかり方/耐久性・耐久年数/レンズの薄さ・軽さ(度数に対して)/レンズの見えやすさ/レンズの機能(UVカットなど)/デザイン・ファッション性の優れていること/自分の顔に合ったメガネを取り扱っていること/オーダーメイドでメガネを作れること/フレーム原産国(日本製であること)/レンズ原産国(日本製であること)/自分の服装との合わせやすさ/自分の顔の形とのバランス・かけた際の違和感のなさ/目立たない眼鏡があること/有名ブランドのメガネを取り扱っていること/テレビなどで広告をよく見ること/周りの知人がかけていること/レンズ、フレームの価格が安いこと/割引きをしてくれること/値段が明朗であること(後でレンズ代を請求されたりしないこと)/駅の近くなどアクセスがよいこと/家の近くに店舗があること/待ち時間用の施設・設備が整っていること/メガネができ上がるまでの時間が早いこと/店に入りやすいこと/店内に活気があること/店内が落ち着いた雰囲気であること/高級感があること/カジュアル感があること/売場でゆったり商品を見られること/商品の試着がしやすい雰囲気であること/店員に話しかけやすい雰囲気であること/店員の接客が丁寧であること/店員が明るく、親しみが持てること/店員の商品知識が豊富であること/店員のアドバイスが的確であること/店員の勧め方がスマートで、べたべた接客してこないこと/馴染みの店員がいること/検眼やフレームの調整などを丁寧にしてくれること/眼科医にみてもらえること/アフターサービスの対応がしっかりしていること

 

Step.2:買わない理由での顧客セグメント化 (顧客アンケートの実施)

A社で買っていない顧客にA社で買ってもらうにはどうすればよいか”を考察していくためにもまずは、“A社非ユーザーはどういう人で、何を求めていて、なぜA社で買ってくれていないのか”の実態を知らなければならないと考えた。

そこで、メガネユーザー全般に対してアンケート調査を実施し、A社への認知・A社の購入可否や重要視する購買要因ごとに非A社ユーザーをクラスター分類した。

 

A社の認知・購入者の比率

ü  A社を認知している人は、26.8%

ü  A社を買っている人は、7.8%

ü  A社を認知しているが買っていない人、18.9%

 

図1.A社の認知・購入者の比率

 

■眼鏡の購入決定要因とA社非購入者の割合

ü  A社が独自に行ったマーケティングの結果から眼鏡の購買決定要因の分析をした結果、顧客は7つのクラスターに分かれることが分かった

ü  7つのクラスターのそれぞれに対して、A社を知っているが買っていない人は、どの程度いるか、は以下。

ü  コストパフォーマンス重視派、ファッション重視派(+薄いレンズ重視)、丁寧なサービス重視派の順に多くのA社非購入者の割合が多く、その3クラスターで70%以上を占めることが分かる

 

図2.A社を買わない人の種類と割合

 

Step.3:未充足購買要因の深堀りと充足方法の模索(顧客インタビューの実施)

アンケートにて非A社ユーザーは、重要視する購買要因によって7つのクラスターに分けられることが分かった。

その非A社ユーザーに対して、グループインタビューを行うことで、より詳細に“なぜA社で買わずに他社で買っているか?”を定性的に追っていくことで、A社への誘因方法をより具体的に考えていくことを想定して、以下のインタビューを行った。

 

■分析対象者

ü  コストパフォーマンス重視派、ファッション重視派(+薄いレンズ重視)、丁寧なサービス重視派に所属し、A社の店舗に足を運んだことがあるが、他社で買っている人

@     コストパフォーマンス重視派:
27
歳女性、B社ユーザー
63
歳男性、C社ユーザー
57
歳男性、D社ユーザー
37
歳女性、B社ユーザー
55
歳女性、E社ユーザー

A     ファッション重視派:
40
歳男性、B社ユーザー
49
歳女性、F社ユーザー
28
歳男性、G社ユーザー
25
歳男性、H社ユーザー

B     丁寧なサービス重視派:
30
歳女性、B社ユーザー
39
歳男性、I社ユーザー
51
歳女性、B社ユーザー
57
歳女性、B社ユーザー

 

■インタビュー内容

ü  以下の論点に答えるべく、インタビューを設計し、重視している購買要因とそのそれぞれにおける、購入ブランドとA社を改めて比較検討してもらった

A)     各クラスターのユーザーが重視している購買要因におけるA社の提供内容がしっかり伝わっていないのではないか?

B)     一見、重要とは感じていないが、実は必要条件となっている購買要因があるのではないか?

ü  アンケートの質問内容

Ø  眼鏡購入時の実態と選択理由

Ø  購買重視点における購入店とA社に対するイメージと比較評価

 

■インタビュー結果(コストパフォーマンス重視派)

コストパフォーマンス重視派の5名に、重視している購買要因の順位とそれぞれの購買要因における他社とA社の提供内容の違いを評価してもらった。

 

結果、コストパフォーマンスを重視している顧客ですら、A社の非球面レンズを含めた価格に関するサービスは伝わっていないことが判明した。

この点は、インタビューの中で価格比較表を渡し、しっかりと比較をしてもらったうえで、A社購入の可能性について言及してもらったところ、大きくA社への興味を抱いて頂いた点からも、今後のプロモーションの中でどのように伝えるか、が最重要点となると考えられる。

また、レンズのみにフォーカスして聞いた場合においても、各社の取扱いレンズの内容・スペックは全く比較検討していない様子であり、眼鏡において非常に重要なレンズに対して、自発的に情報収集していないことが見えてくる。

この点からも、価格比較表の内容を伝える努力は必要不可欠に感じる。

しかしながら、同じグループにおける他の視点にて、A社は商材の印象によって、軽い眼鏡を扱っている印象が強くある様子であり、“軽い≒品質が悪い”という印象を抱いている、ということが分かった。

そのことからも、軽いこと以上に、安いという事実も伝え方を間違えると、品質が悪いイメージが一人走りする可能性があり、非常に慎重にコミュニケーションの方法を考えていく必要を感じる。

 

■インタビュー結果(ファッション重視派)

 ファッション重視派の4名に、重視している購買要因の順位とそれぞれの購買要因における他社とA社の提供内容の違いを評価してもらった。

 

ファッション重視派に関しては、A社のマスマーケット向けの商売がネガティブな印象を生んでしまうことが明白になった。この点に関しては、現業の成功を考えると簡単に対応・シフトしていくべきではないと考えられる。

そのような中でも、デザインディティールなどの点で現業のまま、訴求していく伸び代は各所に存在する様子であるため、その点は、実直に企業努力を続けていくことは無意味ではないと考えられる。

それ以外には、マスマーケット向けプロモーションの弊害も考えられるため、A社と異なるブランドの立ち上げなどが考え得るが、経営資源の分散などを考えると、現在それに踏み切っていくべきか、は悩みどころである。

 

 

■インタビュー結果(丁寧なサービス重視派)

 丁寧なサービス重視派の4名に、重視している購買要因の順位とそれぞれの購買要因における他社とA社の提供内容の違いを評価してもらった

 

丁寧な接客を好むタイプの顧客の中でも、若い年代(30)では、A社に対して悪い印象はない様子だが、シニア(50代)では遠近両用レンズのサンプルを置いていない点などから、A社の接客方法・接客そのものに悪い印象を持っている方が多い様子である。

このことのみを背景にすると、A社が顧客を席巻するためには、シニア向けの接客方法などを確立することが必要条件になると考えることもできる。

その場合、A社がこれまで志向してきた迅速な店舗オペレーションとそれに伴う接客の基本を変えていくことが求められ、確立してきた強みを失う可能性がある、というトレードオフの選択を迫られることになるとも考えられる。

この事実をどのように捉えるべきか。シニア市場でのシェアアップを図るうえで、現顧客に対する事業とのトレードオフを推し量り、どの程度・どうやって進出していくか、が大きな悩み所となる。

 

 

【結果考察】

インタビューをして分かったこととして、眼鏡購入者の多くは、自分が買った眼鏡や眼鏡店に大きな不満を持っていない。それは、眼鏡という購入頻度が低いものであるため、他社眼鏡や他店のサービスなどに触れることが少ないとともに、比較購買をすることが少ないためであると考えられる。

つまり、眼鏡の購入に関しては、知らない事が多いため不満を持ちにくく、他社にスイッチするきっかけを持つことが他の商材に比べても低い、ということが改めてわかってきた。

Ø  そのような商材を扱っているA社として、現在持っている競争優位性を如何に伝え、またどの領域に更なる競争優位を構築していくべきか

Ø  ファッション重視、丁寧な接客重視(主にシニア)に対して、現業とのトレードオフを如何に解消し、どう進出を図っていくべきか

 

これらの課題を解消するプラットフォームを築くことが出来れば圧倒的シェアが可能になることを確信した。