ウェブベースの問題解決ゲームにおける因果推論と科学的認識の成長プロセス研究

2012年度森基金・報告書(81125449, 修士2年, 山﨑智仁)

  1. はじめに
  2.  本年度は森基金を頂き、大きく分けて二つの活動を行った。一つは古典的な心理課題を用いたバイアス研究、そして、もう一つはバイアスを克服する際の確率モデル構築と時系列解析による分析である。

  3. 批判的思考のための仮説領域可視化の効果(修士論文概要)
  4.  物事を鵜呑みにせず批判的に考えなさい”,“虚心坦懐でありなさい”とは師によく言われるものだが,言われた通り自らの思い込みに囚われずにいることができるのだろうか.教訓はその重要性を理解していても実践するのは非常に困難である.よって“教訓を与える”よりはむしろ,落ち着いて考えた方が思い込みに気付くことができるのではないだろうか.
     本研究では自分の考えに都合の良い例ばかりを集めてしまう“確証バイアス”を克服し批判的な目で物事を見るために, “考えを吟味する支援”方法と効果を検討した.実験1では,大学生を対象とし考えの“反対の例を考える”支援方法と,“二つ案を考える”支援方法のどちらに確証バイアス克服の効果があるか検討した.確証バイアスを克服できたか,人の試行錯誤のしかたを吟味する心理学の古典的な課題で評価した.
     結果,“反対の例を考える”支援は確証バイアスの克服に効果があったが限定的であった.また“二つ案を考える”支援に効果はみられなかった.実験2では中高生を対象とし“反対の例を考える”支援と“学年の順序”の効果を検討した.結果,実験1と同様に“反対の例を考える”支援は確証バイアスの克服に効果があったが限定的であった.“学年の順序”と確証バイアスの克服は無関係であった.“反対の例を考える”支援は自分の考えの行き詰まりに気付きやすくなり,確証バイアスの克服に効果をあげた.
     また“二つ案を考える”支援は二つのうち一つを選択して終わってしまうため,効果がなかった.そして,確証バイアスの克服が限定的であったのは,“一度自分の考えが却下され新たな仮説を考えだすと,それに満足して終わってしまった”ためである.一度の支援で完全に確証バイアスを克服できるようにはならず,度重なる支援と試行錯誤による学習により確証バイアスの克服を達成できるのではないだろうか.

  5. Wason(1960)の2-4-6課題におけるバイアス克服の確率モデル分析
  6.  修士論文で取り扱ったWason(1960)の2-4-6課題における近年の分析方法として、情報論的アプローチがなされている。ただ、そのアプローチでは一度仮説が反証されたとしても、なかなか捨てきれない人の性質を表すことはできていない。
     さらに、人の信念は以前から持っているものを捨て、急に新たなものへと変化するとは考えにくい。よって、仮説検証プロセスの中でこちらが設定した仮説を信じている確率を計算し、その時系列変化を計量経済学で用いられるVARモデルによって「時間的前後性と因果関係」の分析を行った。
     確率計算の結果より、多くの正解した被験者、並びに仮説を変更した被験者には「全て偶数」という仮説を持っている確率の変化と、「差が等しい」という仮説を持っている確率の変化に因果性をみることができた。
     よって、いずれかの仮説が断絶して引き起こされるのではなく、仮説を変更することができた被験者は連動して仮説の変化を起こすことができていたことがわかる。これは、一つに決めて仮説を検証しているのではなく広くいくつかの可能性を考えながらもひとつの仮説に絞って考え、検証していっていたことがわかる。

  7. 佐賀県納所小学校見学
  8.  総合的な学習の時間の先進的な実践のみならず、小中連携という全く異質な二つの学校が合体する際に生じる問題点を深く考える機会となった。
     総合的な学習の時間では「地域との深いつながり」が大変強調されており、地域の特色を生かした実践が行われていた。また、小中連携には先生や部活動などでの齟齬があり、連携がなかなか困難な状況を知ることができた。小学校は一人の担任が全ての教科を担当するのに対して、中学校ではそれぞれの教科の先生が教える。この先生と先生の間での心理的な齟齬もあると同時に、どのようにしてうまく連携を行なっていくのかが今後の課題である。
     詳しくは こちら

  9. 成果
  10.  本研究は第29回日本認知科学会大会で発表されました。
     山﨑智仁, 今井むつみ(2012) 『仮説領域の可視化による Wason2-4-6タスクでの科学的思考研究』, 日本認知科学会 第29回大会, 仙台, 2012年12月  発表ポスターはこちら

  11. 謝辞
  12.  本研究を実施するにあたり、2012年度森基金の助成なしではこれほどまでの成果を上げることはできませんでした。  感謝を申し上げ、謝辞と変えさせて頂きます。