2012年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金 報告書
遠隔センシング情報のプレゼンスとしての統合化

佐藤 弘崇
慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 修士課程2年


研究要旨

近年ネットワークにつながっているデバイスは増加を続けており、その種類も増加して いる。また、それぞれのデバイスに搭載されているセンサーやアクチェータも数、種類共 に増加傾向にあり、実世界の情報をより詳細に、迅速に取得することが可能となった。し かし、センサーデバイスはそれぞれ別個のサービスに紐付けられていることが多く、身近になったセンサーデバイスから情報を取得・活用しようとしても、外部から柔軟かつリア ルタイムに取得することができない、という問題がある。この問題の解決のため、デバイスと人間とを結びつけることを中心に考え、 個人にとって扱いやすい、ネットワークにつながったデバイスを統合的に扱う拡張可能な アーキテクチャを提案した。 人とデバイスの結びつけを軸とした拡張可能なシステムをXMPPをベー スとして構築できることを確認した。まず、既存のセンサーネットワークのモデルを整理し、データ の所有権の所在がデバイスの所有者ではなく、データを取得する人にあるべきであること を確認し、センサーデータの共有技術についての比較を行った。次に、デバイ スの所有者のダイナミックな切替と、デバイスから取得できるデータの共有が実現できる必要があることを示した。さらに、デバイスの所有者のダイナミックな切替にお いてデバイスの種類によってその権限に違いがあることを明らかにした。以上の条件をも とに、ユーザとデバイスがフラットであり、これらの間において結びつけに伴う所有権の切替が可能なアーキテクチャを提案を行った。提案アーキテクチャが実現可能で あることを示すために、周期起動型イベント向けセンサーとして放射線量計、散発型イベ ント向けセンサーとして体重計、アクチュエータとしてWeb カメラを用いて実装を行っ た。

提案アーキテクチャ

双方向性とセキュリティ、ライブラリが豊富であること、またチャットプロトコルとして標準化されていることから今回はXMPPを採用した。
以下は本アーキテクチャで実現する機能である。
・デバイスと人間を結びつけることができるアカウント機構
XMPPはアカウントベースでメッセージのやりとりを行うため、この機構がすでに備わっている。センサーと人間を1つのエンティティとして捉え、フラットなネッ トワークを構築することによって、デバイスと人間に実空間に似たつながりを持た せるを持たせることができると考えられる。

・時分割によってデバイスの所有者が変化できること
管理者として、デバイスと人間のアカウントを結びつけることができ、さらにその アカウントが変更可能にしておく。

・センシングデータの型の違いを包括する拡張性 デバイスがセンシングデータを人間に送信すると同時に、そのデバイスの仕様を示すファイルの場所を送信し、それを人間側のクライアントで読み込むことで、拡張 性を担保することができる。また、この方式を使うことで、デバイスが様々な種類のセンサーを搭載している場合においても対応できる。

・デバイスの所有者が人間に提供するデータを制限できること
アカウントによってデバイスが人間に提供するデータを、デバイスの所有者が制限 できるようにしなければならない。デバイスの所有者と一時的な所有者との違いを区別する設計とする必要がある。
以上を実現するために、ユーザーとデバイスがそれぞれクライアントを持ち、ク ライアントはサーバへと接続されていることから、ユーザーとデバイスはフラットにエンティティ の形で存在し、デバイスがクライアントによって擬人化されるプラットフォームを構築した。

実装

実装については放射線量計、体重計、webカメラを各デバイスとしてアーキテクチャの動作検証を行った。

考察

本アーキテクチャの実現可能性、規模性、汎用性について検証をおこなう。 実現可能性としては周期起動型イベント向けセンサー、散発型イベント向けセンサー、 アクチュエータについてその正しい動作が確認された。これは、ネットワークにつながっ たデバイスが人間を中心としたアーキテクチャと親和性が高いことを示し、XMPP の拡 張性がネットワークにつながったデバイスの多様性と適合することを示した。 規模性としては、1 つ目にユーザーの増加によるセンサーXMPP クライアントからの Stanza の増加は、MUC を使用することによって低く抑えられることが判明した。これ は、本アーキテクチャを実際に運用する際に、ユーザの増減が頻繁に起こるうる場合にはMUC を使用し、チャットルームのユーザーの増減に伴うユーザークライアントへの通知 送信の負荷に耐えられるサーバを用いる必要があることを示す。2 つ目のデバイスに付属 しているセンサーの増加に伴うStanza の肥大化による処理時間は、指数関数的に増加す ることが判明した。したがって、XMPP にネットワークにつながったデバイスを参加さ せる際にはユーザー側のクライアントの性能を高くするか、センサークライアントから発せられるStanza を少なくする必要がある。また、比較的リソースの限られたアクチュ エータにメッセージを送信する際にもなるべく小さくする必要があることが推測される。 汎用性としては、3 つのサービスを使って動作検証を行った。これにより、サーバ側で独自拡張したStanza を受け入れるものと受け入れないものがあることが判明した。これ を解決するには、XMPPの機械向け拡張のXEP を標準化することによって今後サーバ側 の対応がなされていくのではないかと期待される。