物語と場所における構造的カップリング : 観光振興に向けたアニメ聖地巡礼の理論構築
近年、アニメファンがアニメ作品のロケ地やアニメ作品ゆかりの地へ探訪する「アニメ聖地巡礼」という動向が注目され始めている。アニメ聖地巡礼は、これまでの発地主導や着地主導の観光とは異なる「旅人主導」の次世代ツーリズムとして、とりわけ地域の観光振興という観点から高い期待が寄せられている。特に2000年以降になると、アニメ聖地巡礼による観光振興が成功したケースも複数誕生し、このような背景から、アニメによる観光振興に期待を寄せ、アニメによる観光振興を実施する地域が全国各地で確認されるようになった。しかしながら、アニメによる観光振興への取り組みが活発になる一方で、それを懸念する声も聞かれるようになった。地域の伝統的な文化を破壊するのではないかという疑問、アニメの人気が衰退するとともに観光客が減るのではないかという持続性への懸念など、多くの課題を抱えている。さらには、企業や自治体が観光振興を目的としてアニメを用いることに対して、アニメファンが嫌悪感を抱き、不買行動や地域へのマイナス評価を下すといったケースもあり、成功事例をそのまま模倣するかたちで、アニメを用いた観光振興を行うことが難しい状況にある。このような課題を克服するためには、観光振興を結果として引き起こすに至ったアニメ聖地巡礼そのもののメカニズムを明らかにすることが重要であると考える。そこで、本研究では、アニメファンが観光振興とは異なる目的でアニメのロケ地を訪問しているにも関わらず、その活動が結果として地域の観光振興に貢献しているという現象についての理論構築を目指す。
本年度は国内6箇所のフィールドワークを行った。地域住民やアニメファン、アニメ制作者など、各地域で各関係者にインタビューを行い、定性データを取得した。