「つぶやき便」

東京都三宅村におけるコミュニケーション・デザインに関する研究

Tsubuyaki-bin A Study of Communication Design in Miyake Island

 

政策・メディア研究科 修士課程2年 上地 里佳

 

 

本研究は、生活空間において人びとの習慣的なふるまいのなかにコミュニケーション・ デザインのしくみを設計することで、人びとのコミュニケーションを誘発することを目指す実践的研究である。本論では、東京都三宅村を研究対象地とし、デザイン思考に基づいて制作をおこなった。三宅村は2000年の噴火による全島避難を機に、人口減少がすすんでいる島である。筆 者のフィールドワークからは、移動手段が限られコミュニケーションが制限されている高 齢者の存在や、わずかではあるが避難解除後に島外からの移住者が増えたことから新村民 が旧村民のコミュニティに介入していく必要性の高まりが見られた。このことから、筆者 は研究対象地として三宅村を選定し、コミュニケーション・デザインを試みた。筆者は、フィールドワークから習慣を書き出し、デザインのプロトタイプを行うなかで辿り着いたコミュニケーション・デザインは、人びとをつなぐ「チャネル」、媒体である「メディア」、情報の内容である「コンテンツ」の3つの軸から設計していくものである。筆者は、日頃から村民に手に取られている「築穴製菓」商品をメディアとし、その配達経路をチャネル、三宅村の過去の記録をコンテンツと見立て、「つぶやき便」のデザインと実践をおこない、人びとから得られたフィードバックをもとに、分析、考察をすすめていく。

 

 

|三宅島でのFW

・.観察から得られたこと

・移動手段が限られている人びと

・「新村民」と「旧村民」という言葉

・「よそ者」がコミュニティに介入していく困難さ

・病院の待合室が憩いの場

→日常生活でコミュニケーションの「きっかけ」を求めている。ニーズ。

 

・.『あしたばん』を持った交流

→村民同士の話題には、三宅村という身近な出来事をトピックにすると、

コミュニケーションが促進されていた。村民は、村の出来事に興味がひかれるのではないか。

    

 

|アイデア出し、コンセプト構築

・.コンセプト

築穴製菓のパンの流通を用いることで、

1.村全域を対象と出来ることで、より多くの村民を巻き込むことが可能

2.毎日配達されるものであるため、更新頻度が高い

3.村民が日常的に手に取る

が可能となる。築穴製菓の商品をメディアとし、村民同士の話題のきっかけとなるコンテンツを用意することで、コミュニケーションが促進される。

 

|実験

 20128月、24日間の実験をおこなった。以下がその手順である。

 

     :tsubuyaki.png

 

|観察・評価

 実験での観察結果から、「つぶやき便」をおこなったことで会話する場面が観察された。そのなかでも特徴的な事例を示す。

 

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最初は全然知らなかったんです。職場で横に座っているひとが「今日、こんなのついてた」という話になって。で、そのとき中身を読んでみて面白かったので、それからシールを集めるようになりました。みんなで「このシールは甘いパンにしか貼られていないんじゃないか?」「お昼休みにパンを買いに行かないとないよ」って、勝手に言って、勝手に楽しんでいます(笑)。

20代女性/島外出身者 Kさん/2012814日のインタビューより)

 

職場での会話のきっかけとなり、その後も更新されることで、会話が継続されている。

→毎日内容に変化があるので、毎日触れても楽しめるメディアと言える。

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築穴パンは、島でやっていたからよかった。島内でやっていて、「あ、島もこうゆうことも始めたんだな」って思って、それが嬉しくて、楽しくて。地域でやっているってところがね。だから、このバッグがどうこうとかじゃなくて、例えばこれがボールペン、なんか鉛筆一本だとしてもやったと思う。やっぱ地域で、地域のことをやれば、もっともっと地域は盛り上がって行くんじゃないのかな。

50代女性/島外出身者 Aさん/821日のインタビューより)

 

「地域で地域のことをしている」ことに魅力を感じ、支持している。

→村に既にあるモノ・コトを用いてデザインをおこなったからこそだと言える。

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|今後にむけて

 東京都三宅村におけるコミュニケーション・デザインの一事例として本研究をおこなってきた。20128月には、実際にしくみを用いて実験をおこなった。その際、実際に「つぶやき便」に触れた村民らからのインタビューをおこない、フィードバックを得た。今後は、それらのインタビューデータをもとにして、コミュニケーション・デザインが人びとに与えた関係性の変化や、内省への働きかけを分析していく。そして、コミュニケーション・デザインを他地域でも取り組んでいく上で、どのような要素が必要であるのかを考察していきたい。

 

 

|参考文献

・監修=伊藤香織, 紫牟田伸子(2008)「シビックプライド―都市のコミュニケーションをデザインする―」宣伝会議

・ヴィクター・パパネック(1974)「生きのびるためのデザイン」阿部公正訳 晶文社

・奥出直人(2007)「デザイン思考の道具箱 イノベーションを生む社会のつくり方」早川書房

Charles Duhigg2012)「The Power of Habit: Why We Do What We Do in Life and Business, Random House

・佐藤郁哉(1992)『フィールドワーク 書を持って街へ出よう』新曜社