複数携帯デバイスの協調動作によるユーザのアテンション状態検知に関する研究
大越匡
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 博士課程1年

研究の背景:ユーザに対する情報量の増加
 本研究の背景として、コンピューティング環境で進行する、個々のユーザに対する情報量の増加があげられる。計算機技術やネットワーク技術の進展に伴い、ユーザはデスクトップPC、ノートPCといった従来型デバイスに加え、スマートフォン、タブレット、デジタルカメラ、ウェアラブル型デバイスなど、より多様なネットワーク接続型コンピューティングデバイスを保有、携帯し、しばしばそれらを同時利用する。オフィスや住居、自動車や街中などの、ユーザをとりまく「環境」の中にも多種多様なコンピューティングデバイスが埋め込まれ、ユーザ周囲の空間が知的能力を持つ「スマートスペース」が形成されつつある。ワイヤレス・センサ・ネットワークやソーシャルネットワーク等の多様なネットワークの登場で、より多様なデバイスやユーザが有機的に相互接続されている。また、クラウドコンピューティング基盤やソフトウェア開発手法の発展は迅速なソフトウェア/サービスの開発/展開を可能にし、インターネット上のWebサービス数は日々増加している。このような環境でユーザは、多くのデバイスを携帯・利用し、より多くの他ユーザやデバイスと多様なネットワークを通じて接続し、より多様なサービスを利用するため、各ユーザにもたらされる情報量は増加の一途を辿っている。また、人々の「即時的な情報提供」に対するニーズが増え、結果としてユーザへの情報通知の頻度が高まっている。

本研究が取り組む問題:マルチデバイス環境におけるユーザの認知負荷状態の検知
 上記の背景においては、コンピューティング環境からもたらされる情報やその通知の量・頻度が増加する一方、それを操作する人間の "アテンション" というリソースは増加せず基本的に一定であるため、人間の認知能力がコンピューティング上の長期的なボトルネックであると考えられる。これはユーザからの視点に見方を変えると、"情報過多" (Information Overload) や "割り込み過多" (Interruption Overload) といった問題として表現される。
 本研究では特に、コンピューティング環境からユーザへの情報提供の働きかけである「割り込み」に起因する、ユーザの認知負荷の過度な上昇という問題に取り組んだ。

本年度の研究活動
 本年度の具体的な活動としては、ユーザがモバイルデバイスを常用する環境における、「ユーザの認知負荷状態」に関連するユーザの状態検知に関する研究を行った。研究は、(1)「ユーザのアテンション状態の検知」および、(2)「ユーザの行列行動の検知」から構成される。
1.ユーザのアテンション状態の検知
 何らかのゴールを伴ったタスクを遂行中のユーザに対する割り込みを行う場合、ユーザのタスク中の細かい継ぎ目 ("breakpoint": 認知科学分野における先行研究で発見された概念。例えばワードプロセッサアプリケーションを使った文書編集の場合、"執筆動作における文章と文章継ぎ目" など) において割り込みを行う方が、ユーザの認知負荷が低いことが知られている。ユーザがスマートフォン上でアプリケーションを利用する状況において、操作中のどこが breakpoint であるかを、機械学習の「教師あり学習」のアプローチを用いて検出する研究を行い、国際会議へ論文[2][3]を投稿し発表を行った。
2.ユーザの行列行動の検知
 ユーザへの情報提供を行う機会のひとつとなる行動としての「行列行動」の検知に関する研究を行った。「行列」は、街中など公共性をもった空間におけるなんらかの事象発生のサインの一つしてユビキタスコンピューティングにおけるユーザの行動検知の研究対象である一方、行列するユーザの視点からは、行列に並ぶことで一定時間主として「待つ」行動を開始することを意味し、それは同時にシステム側からユーザへ向けた各種の情報提供を行う機会であると考えることが出来る。本研究ではスマートフォンの加速度センサを用いてユーザの行列行動の検知を行う研究を行った。国際会議へ論文[1]を投稿し発表を行った。また国際会議への論文[4]を投稿している。


図1: 行列行動検知システムを使った検知の様子

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